【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

67 積み重ねた時間  成人

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「お直り下さい、弐角にかくさま。橙々だいだいさまも。私は、成人なるひとさまの意をくんだまで。まだ、何も解決してはおりません」

 じいやは、いつも優しい。初めて会った時から、ずっと優しくて強いままだ。 

椿つばき。お主もこれで身の程を知ったならば、主が恐ろしい思いをした甲斐があったというもの。直れ」

 頭を下げていた九鬼くきの人たちが、一斉に頭を上げる。うーん、格好良い。
 じいやは、一ノ瀬の頭領だったから、誰かに頭を下げられても動じない。それが、格好良い。直れって言うのも格好良くていいな。今度、包拳礼をされた時に言ってみようかな。

緋色ひいろ殿下。勝手を致しまして、誠に申し訳ございません」

 今度は、じいやが緋色ひいろに頭を下げる。もちろん包拳礼で。

「いや」

 緋色ひいろは、じいやには怒っていない。俺に怒ってる。分かってる。ごめんね。

緋色ひいろ、ごめん」
「何が?」 
「俺が、緋色ひいろの前に出たこと」
「......分かってんじゃねえか」

 でも、体が勝手に動いちゃうんだよ。俺は、俺より緋色ひいろが大事だから。 

「絶対、護る」
「それは、常陸丸ひたちまるがやるっての。お前はすっこんでろ」
「ううーん」
「殿下が、もっと鍛えるしかないですねえ」
「ああ?」

 常陸丸ひたちまるに言われて、緋色ひいろが怒った声を出した。橙々だいだいと椿が、びくっと肩を震わせるのが見える。
 そんなに怖がらなくても。
 俺の家族に、緋色ひいろのその声でびくってする人はいないから、びっくりしちゃった。皆、緋色ひいろがすごく優しいって知ってるから。そんな声出しても、怖いことなんてしないよ。大丈夫。

成人なるひとに負けたんだから、仕方ないでしょ。成人なるひとは、殿下を一番に助けたくて動いちまうんだから、成人なるひとを盾にしたくないなら、殿下はそれより速く動かないと」
「くっそお」
「あ。言葉遣い、最悪っす」
「そういう時のお前、力丸りきまるにそっくりだな」
「うわ。嬉しくねえ」

 うん。俺が緋色ひいろを一番に助けたいみたいに、緋色ひいろは俺を一番に助けたい。だから、俺が緋色ひいろの盾になったことを怒っている。

「お前は、お前の命を優先しろ。誰より速く動けるうちに、隠れろ。逃げろ」
「うー」

 うん、と言えない。俺はきっとまた、誰かの殺気を感じたら緋色ひいろの急所を体で隠すだろう。俺が素早く動ける僅かな時間の全てを、緋色ひいろの命に使う。
 はあ、と溜め息が聞こえた。

「分かった。鍛える。お前を腹に抱えて常陸丸ひたちまるの背に隠れることが出来れば、俺の勝ちだ」
「ええ、と......」
「俺の方が速く動けるようになるから、その時は素直に俺の腕に収まれ」
「うん」

 それなら。
 その時は俺は、極力誰の動きも邪魔しないように動くに違いない。誰の命も失わないために動く。当たり前のことだ。

「護衛が、常に側近くにおることに慣れず、かく兄さまにお願いをしました。気心の知れた相手を護衛としたい、と。それが椿つばきです」

 座り直した橙々だいだいが、滲んだ涙を拭きながらぽつりと言った。
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