【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

57 捜索開始……  弐角

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成人なるひと。お茶を飲んだら、着替えて少し休んだらどうですか?もう今日のお仕事は終わりましたよ」
「んー。うーん。んんー」

 医師かな。医師が成人なるひとさまの様子をみとるんかな。よし、一人発見や。いや、成人なるひとさまもおるから、緋色ひいろ殿下と、お二人の護衛二人もおるってことや。よしよし、五人発見。いやあ、緋色ひいろ殿下、指定の部屋におってくれて良かった。ていうか、緋色ひいろ殿下と成人なるひとさまが部屋におってくれたら、もうそれでようないか。ええ気がしてきたな……。

緋色ひいろ殿下、失礼します。弐角にかくです」
「おう。入れ」

 正座して、障子を引く。女中や小姓をつけて動くのが面倒くさいからと一応覚えた技能が、役に立った。護衛の丹波たんばが、少し後ろで緊張しつつ、同じように膝をついている。

「どうした?」

 戸を開けて、頭を下げている間に声がかかる。これはあれか?面倒くさいことしとらんと、とっとと入ってこい言うことか?

「ちょっとお聞きしたいことがありまして」

 ほならええか、とさっさと頭を上げて室内に入る。丹波たんばが戸惑いつつ付いてきた。

「あれ?才蔵さいぞうは?」

 殿下の脇から声が上がる。ああ。この子は才蔵さいぞうの友人の。……相変わらず自由やな。外ではあんなにきりりとしとんのに、部屋に入るともう仕事しとんのかどうか分からへん状態になる。まあ、だからと言うて緩んどる訳やない。攻撃的な何かを感じたら、誰より素早く動くんやろな。知っとるよ。最速の力丸りきまる。いつも楽しそうな、成人なるひとさまのお友だち。

「今日はもう暇を取らせた。ここんとこ、ずっと気を張っとったんで」
「そうなんですね!」

 ぱっと輝いた力丸りきまるの顔が、緋色ひいろ殿下の方を向く。

「おう。行ってこい」
「やった!いってきます。成人なるひと、昼寝しとけよ」
「んー。んんー」

 瞬きの間に、力丸りきまるが消えた。
 はっ?

「…………。いや、あかーん!」

 思わず大きい声が出た。緋色ひいろ殿下の隣に座っている成人なるひとさまの肩が、びくっと揺れる。あ、いや、すんません……。

「どうした?」

 緋色ひいろ殿下はいつも通り。どうしたもこうしたもないで。また一人見失ったやん……。

「あのー、殿下?力丸りきまるは?」
才蔵さいぞうの所だろ?後で挨拶に行くって言ってたからな」
「なるほど?」

 才蔵がどこにおるか、分かるんすか?そうっすか。何でやろな。なんで分かるんやろな?

「ああ。いい所にきた、弐角にかく。しばらくこの部屋近辺の影を下げろ。成人なるひとが、気配を気にして寝られない」
「へ?」
「うちのに排除される前に下げろ」
「は、ははっ」

 気配を探るのが苦手な俺にはこれっぽっちも分からへんけど、まあ影はおるやろな……。できれば見張っときたいんやけど、駄目かあ。

「聞こえたか。下がれ」

 どこにおるかよう分からんから、適当に斜め上を向いて声を掛ける。
 これでええかな。それにしても、排除って何?

成人なるひと。ほら、こい」
「ん」

 成人なるひとさまが素直に殿下の膝に乗った。部屋に、ほっとした空気が流れる。眠たいけど寝られへんかったんか。そりゃ、悪かった……。これは、夜も人を近寄らせんように手配せなあかんな。
 
「それで、用件はなんだ?」

 あ。
 俺は、がっくりと肩を落とす。
 今、また一人見失ったとこです……。
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