【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

75 よく喋る人  成人

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 うーん。うるさい。せっかく真ん中で始まった踊りや演奏が、よく見えないし聞こえない。
 最初に挨拶に来た西中国さいちゅうこく真中まなか大一郎おおいちろうという人は、緋色ひいろが挨拶はいらないって言ったら、頭をしばらく下げた後で、にっこりと笑った。

「ほな、無礼講ちゅうことですな。気にせず楽しめ、とはなんと寛大なお言葉。有り難く楽しませてもらいます。殿下、まずは一献」

 そう言って、俺たちの近くでそのまま、何だかんだ喋り始めた。

「いらん。自分の飲みたい時に飲む」
「そうですか。そら、残念です。妃殿下は如何?」
「へ?」

 俺の方なんて向いてないのに、話しかけられると思わなかった。妃殿下って俺のことだよね?え?この人、緋色ひいろしか見てないけど、今俺に話しかけたの?
 分かりにくい……。

成人なるひとに構うな。成人なるひとに酒を注いだら、無事に領地には帰れぬと思えよ?」
「ほっほっほっ。おー怖。妃殿下にはお酒はまだ早うございますか?ご結婚なさっとるんやから、見かけより大人かと思うとりましたんや。すんません、すんません。そや、うちの方に、甘うて飲みやすい果実酒がありましてな。すっきりして酒精も弱いものやから、それなら妃殿下も飲めるんちゃいます?お近付きの印に今度、届けさせてもらいます」
「いらん」
「まあ、そないな無体なこと言わんと、貰えるものはもろとくもんでっせ、殿下。わしなら、殿下が今こうしてお口をつけられた盃でさえ貰て帰りたいくらいで」

 緋色ひいろが何か答えても、答えなくても話が続いていく。よく回る口に驚いて、俺はぽかんと真中まなか大一郎おおいちろうを眺めていた。

成人なるひと

 時々、緋色ひいろが俺の口に食べ物を入れてくれるから、思い出してご飯を食べる。

「おお。ほんまにおしどり夫婦とは殿下方のことでございますな。この仲睦まじいご夫夫にこうして傍らで手本を見せてもろたら、新郎新婦の今後も安泰や言うもんです。うちにも、年頃の子らがようけおりますさかい、うちの婚姻式の際にも是非来てもろて手本を見せてやってくださいませ。今度、案内を送りますよって」
「……」

 緋色ひいろはもう、返事もせずに放ったらかしている。壱鷹いちたかの所には、弐角にかくへの挨拶が終わった人が次々に来てお話していて、忙しそうだ。その人たちが、壱鷹いちたかへ挨拶する前に俺たちの前で頭を下げると、真中まなかがお話を全部取ってしまう。

「おお。これは西賀さいかの。久しいな。緋色ひいろ殿下、この者はうちの領地の南側に接しとる領地の次期領主でしてな。ここは、甘い果実がよう育つとこなんですわ。今度、西賀さいかから仕入れたら、届けさせてもらいます」

 いや、なんで?
 西賀さいかの人が、自分で届けたらいいんじゃないの?
 
「いらん」

 あ、うん。いるものは、自分で買えばいいしね。なんでこの人、すぐ届けさせてもらいますって言うのかなー。結局、西賀さいかの人は、頭だけ下げて壱鷹いちたかの方へ移動した。なんか全部そんな感じ。
 一つ目のお膳が下げられて、二つ目のお膳が届き始めても、真中まなかは全然自分の席に戻らない。戻らないどころか、

「あ。わしの膳はここへ持ってきてくれ」

 なんて水瀬みなせに言ってた。もちろん、水瀬みなせは知らん顔したけど。
 それで今。
 綺麗な着物を着た人が皆の前で挨拶をして、演奏に合わせてお祝いの舞を舞い始めたんだけど、真中まなかが邪魔で見えにくい……。うるさいし。

「もー」

 って、思わず呟いてしまった。
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