【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

76 結婚式、楽しい!  成人

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「ん?」

 緋色ひいろが、俺のすぐ横まで顔を持ってきて前を見た。嬉しいので、頬っぺたをぴとっとくっつけておく。ふふ。ちゅーは人前でしちゃ駄目だけど、これならいい?いいよね?
 緋色ひいろは少しだけ笑って離れて、俺の頬っぺたにちゅってした。口じゃなければ、いいんだっけ?じゃ、俺もしちゃおうかなあ。ちゅ。
 満足して前を向くと、真中まなかのびっくりした顔が目に入る。
 これ、やだ。

「なるほど。景色が悪い」

 緋色ひいろも俺と同じ位置で前を見て、ぼそっと言った。

「いやあ。聞きしに勝るご寵愛ぶり。あてられてしま」

 びっくりした後、すぐにまた話し始めた真中まなかが、ひゅっと消える。 
 おお、速い!重そうなのに、一ノ瀬が簡単に持って行っちゃった。ちょっと面白かった。
 目の前が開けて、舞がよく見える。うん。綺麗だ。綺麗な人が綺麗な着物を着て、扇を手にひらりひらりと舞っている。

「きれー」
「ん?ああ。綺麗だな」
「は、はは。びっくりした……」

 隣で壱鷹いちたかと話していた西賀国さいかこくの人が、腰を浮かして手を前に出している。おお。強いね。細くて速いんだね。

「強い」
「へ?」
「ああ。西賀さいか各務かがみ家は、領主一族が武門の宗主を務める強い一族なんですよ」
「へえ」

 壱鷹いちたかが教えてくれた。ふんふん。各務かがみは強いのか。

「あ。ええっと。改めまして、各務かがみ鶴丸つるまると申します」
鶴丸つるまる
「あ、はい」

 常陸丸ひたちまる力丸りきまるとお揃いみたいでいいな。覚えた、鶴丸つるまる鶴丸つるまるって呼ぶことにする。

「ええっと。真中まなかのおっちゃん……あ、いえ、殿さんは、あの……」
「舞が見えなかったから、どけてもらった」
「あ、あー。はは。なるほど?」

 そんなやり取りあったかいな?と鶴丸つるまるはぶつぶつ言っている。
 そうしている間に舞が一つ終わって、舞っていた人が綺麗な仕草で礼をした。おおお。凄かった。良かったよー。
 左の上腕を右手で叩いて拍手をすると、周りの人もぱちぱちと拍手をした。猿の時みたいに、お金を渡したりするのかな?あ、でも今、お金持ってないな。

「上様。うちも一つ、祝いの舞を舞ってもよろしいか?」

 鶴丸つるまるがにっこり笑って立ち上がる。

「おお、是非」

 壱鷹いちたかも笑って答えたら、鶴丸つるまるは綺麗に結っていた髪をぱさりと解いた。うわあ、その仕草が綺麗だね。真ん中に歩いて行きながら、頭のてっぺんの真ん中で、長い髪を一つ括りにして、真っ黒の羽織りを脱いだ。今まで舞っていた人の華やかな花柄の着物を借りて羽織ると、下は俺たちと同じ袴姿なのに別の着物みたいに見える。鶴丸つるまるは、舞っていた人にこそりと耳うちした。にこり、と笑った舞手が部屋を出ていく。
 どちらも、仕草のひとつひとつが綺麗だなあ。待つ間に、今度は演奏の人たちと話している。合わせて練習してたのじゃなくて、今決めてやるってこと?うわあ、凄い。もう拍手しちゃいそう。
 舞っていた人が帰って来て、鶴丸つるまるに剣を一本渡した。あまり切れそうにない、幅広の剣だ。戦いにくそうだな、と思って見てたら、演奏が始まった。綺麗な仕草で頭をひとつ下げた鶴丸つるまるが、剣をくるりくるりと操って舞い始めた。足を上げたり、剣を素早く突いたり回したり、しゃがんだり跳び上がったり。何かもう、凄かった。格好良いし、綺麗だし、強いし、鶴丸つるまるすげー。力丸りきまるも、練習したらできるかな。できそう。でも、こんなに綺麗じゃないかも。
 踊り終わって、綺麗な仕草で礼をする鶴丸つるまるに、俺はたくさんたくさん拍手をした。
 結婚式、楽しい!
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