【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

88 皇家に害意あり  成人

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「いえ、見送りは済みました。一色いっしき翁のまだまだ元気な様子に気圧されてきました」

 壱鷹いちたかは、急いで近くに寄りながら普通に話す。緋色ひいろが、問題ないって言ったから慌てなくてもいいもんね。本当は慌ててるみたいだけど。

「じじいというのは、元気なもんだ」
「はは、真理ですな。して、この仕儀は?」

 壱鷹いちたかは俺たちの横に座りながら、目の前に座る六車むぐるまと、押さえられた七宝しちほうの二人を細い目で睨む。いつも笑ってるみたいに優しい目は、壱臣いちおみとそっくりなのに、壱臣いちおみが絶対にしない形を取ることがある。

「皇家に害意あり、だ」

 緋色ひいろの言葉に壱鷹いちたかは、ぽかんと口を開けた。
 どういう意味?

「……は?」
「許しを得ず、包拳礼を解いた」
「は、はは」

 口だけが笑うのは、どんな時だったっけ?

「と、殿!それがしは、そのような」
「許しもなく口を開いたぞ」
七宝しちほう佐兵衛さへえ。その方、その様に礼儀知らずであったか?もう少し、真面まともだと思うておったが」
「ほ、本日は無礼講であると……!」

 七宝しちほうが叫ぶように言った。

「無礼講であるのに包拳礼をしたのか」
「そ、それは六車むぐるまが」

 ん?さっきまで六車むぐるま殿って言ってたのに、呼び捨てになった。

「ああ。実に気持ちの良い男だ。発言の許可を取り、形を整え真摯な言葉を届けてきた。成人なるひとが許可を出すまで、姿勢を崩さなかった所も好ましい」

 俺は、うんうんと頷いた。大変なのに、ずっと包拳礼をしていた六車むぐるまはえらい。

「なるほど……。大成たいせい、謝罪を受けてもらえたんやな。良かったな」
「はっ」

 六車むぐるまは、静かに頭を下げた。壱鷹いちたかも嬉しそうだし、ちゃんとお話できて良かった。

緋色ひいろ殿下。この無礼者に、少々話を聞いてもよろしいか?」
「ああ。任せる」

 緋色ひいろは、盃に自分でお酒を入れてゆっくり飲み始めた。俺も、お菓子を食べてしまおう。ほとんど皆、部屋から出ていったし、そろそろおしまいの時間だ。

「ありがとうございます。佐兵衛さへえ、こっからは好きに話せ。ただし、誰に話しとるんかを忘れるな。ええか」
「は、ははっ」

 じいやが手を離したから、七宝しちほう佐兵衛さへえは前を向いて座り直す。もちろん、両手は後ろで止められたまんまだけど。

「その方、弐角にかくの忠告をなんや思とったんや。娘の良縁を願っとると、弐角にかくは言うとったやろ?返事しとったと思うたんやが」
「忠告……。いや、そんな、それがしはただ、綺麗どころに酌をしてもろたら酒が倍美味しなるから、せやから娘を連れてきただけで、何も含むとこは……」

 綺麗どころ……?綺麗な人ってこと?
 俺は首を傾げる。

「誰が綺麗どころ?」
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