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第八章 郷に入っては郷に従え
130 素直な願い 村次
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「あれ?村次くん、一人?」
一人で夕食を作る気満々で厨房の食材を確認していたら、きっちりいつも通りの休憩時間を終えて壱臣さんが部屋から出てきた。後ろから源さんも付いてきた。
「広末さんは家に帰ってもらいました。何日も家を空けていたから、家族に会いたいかなと思って」
壱臣さんと源さんを見ていたらそんな気がした、とは言わないけれど。
「そやな。それがええな」
ふわりと笑う壱臣さんの顔を見ているとほっとする。帰ってきたな、と実感できた。
「村次くん、おかえり」
「ただいま帰りました」
いつの間に、こんなに安心できる場所になっていたんだろう、離宮が。不思議な気分で厨房を眺めた。
「源さんを連れて来てくれて、ありがとう」
「どういたしまして」
そこは胸を張って言える。
「その坊主のせいでえらい目にあった」
源さんは、本当に素直じゃないと思う。
「壱臣さんの伝言をきっちりそのまま伝えたのに、源之進さんが、似てへんわ馬鹿、とか仰るものですから、それなら本人から話を聞いた方が早いと思いまして」
「うわあ、源さんそっくり。村次くん、上手」
「似てへんわ馬鹿」
「ほら、そっくり」
源さんの言葉に、壱臣さんがきゃあきゃあはしゃぐ。うん。ずっとはしゃいでいる。可愛い。
「こんな歳になって、よそへ来ることになるとは思わんかったわ」
源さんのため息。壱臣さんは首を傾げた。
「ていうか、源之進さん?って何?」
「源さんの名前ですよ」
壱臣さんは知らないのじゃないか、とは思っていた。
「えええ?源さん、源さんちゃうの?」
「源さんだろうが」
「えええ?源之進さん?」
「お前にそう呼ばれると、何とも落ち着かねえな」
「ええ?源さんは源之進さんなん?えええ」
「源さんでええ」
「あ、うん。源さんは源さんなんやけど、うち、知らんかったから」
「別にええやろ、そんなん」
「……うん。ええけど」
大事な人のことは知りたいものらしいから、別にいいってことでもないような。些細なことのような。一般的な家庭環境で育った訳ではないから、俺にも正解は分からない。でも、壱臣さんが落ち込んでいるから、別にいいだろうと済ませてはいけないことのような気はする。
「これから、ずっと一緒にいるんですから、聞きたいことはどんどん聞いたらいいんじゃないですか」
「は?ずっと……?」
「うん。そうか。そやな。そうする。ありがとう、村次くん」
「どういたしまして」
「おい、坊主。ずっとって何だ。俺は飾り切りの講師として呼ばれたんやから、ここの者が飾り切りをできるようになったらそれでええんやろ」
「え?そうなんです?すぐ帰られる予定なんですか」
「え?源さん、すぐ帰るん?」
壱臣さんが、へにょりと眉を下げる。
「そうかあ。そやな。うん。源さんの帰るとこはあっちやもんな、うん。しゃあないなあ」
「ぐ……」
「うち、また一緒に暮らせるんかと思てすごい嬉しかったけど、うん、そやな。会えただけでもすごいな。うん。……あかんな。うち、どんどん欲深くなってしもて……」
どんどんうつむいていく壱臣さんに、源さんが言葉を詰めた。
「あんな、源さん。うちな、お城行くんが怖い……。やからな、源さんとこ訪ねて行かれへんのんよ。やからな、たまに、たんまにでええから、源さんがうちんとこ来てくれる?」
「あー、もうっ」
源さんは自分の短い髪の毛をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。
「行き来すんのがめんどくせえから、しばらくここに居てやるよ」
一人で夕食を作る気満々で厨房の食材を確認していたら、きっちりいつも通りの休憩時間を終えて壱臣さんが部屋から出てきた。後ろから源さんも付いてきた。
「広末さんは家に帰ってもらいました。何日も家を空けていたから、家族に会いたいかなと思って」
壱臣さんと源さんを見ていたらそんな気がした、とは言わないけれど。
「そやな。それがええな」
ふわりと笑う壱臣さんの顔を見ているとほっとする。帰ってきたな、と実感できた。
「村次くん、おかえり」
「ただいま帰りました」
いつの間に、こんなに安心できる場所になっていたんだろう、離宮が。不思議な気分で厨房を眺めた。
「源さんを連れて来てくれて、ありがとう」
「どういたしまして」
そこは胸を張って言える。
「その坊主のせいでえらい目にあった」
源さんは、本当に素直じゃないと思う。
「壱臣さんの伝言をきっちりそのまま伝えたのに、源之進さんが、似てへんわ馬鹿、とか仰るものですから、それなら本人から話を聞いた方が早いと思いまして」
「うわあ、源さんそっくり。村次くん、上手」
「似てへんわ馬鹿」
「ほら、そっくり」
源さんの言葉に、壱臣さんがきゃあきゃあはしゃぐ。うん。ずっとはしゃいでいる。可愛い。
「こんな歳になって、よそへ来ることになるとは思わんかったわ」
源さんのため息。壱臣さんは首を傾げた。
「ていうか、源之進さん?って何?」
「源さんの名前ですよ」
壱臣さんは知らないのじゃないか、とは思っていた。
「えええ?源さん、源さんちゃうの?」
「源さんだろうが」
「えええ?源之進さん?」
「お前にそう呼ばれると、何とも落ち着かねえな」
「ええ?源さんは源之進さんなん?えええ」
「源さんでええ」
「あ、うん。源さんは源さんなんやけど、うち、知らんかったから」
「別にええやろ、そんなん」
「……うん。ええけど」
大事な人のことは知りたいものらしいから、別にいいってことでもないような。些細なことのような。一般的な家庭環境で育った訳ではないから、俺にも正解は分からない。でも、壱臣さんが落ち込んでいるから、別にいいだろうと済ませてはいけないことのような気はする。
「これから、ずっと一緒にいるんですから、聞きたいことはどんどん聞いたらいいんじゃないですか」
「は?ずっと……?」
「うん。そうか。そやな。そうする。ありがとう、村次くん」
「どういたしまして」
「おい、坊主。ずっとって何だ。俺は飾り切りの講師として呼ばれたんやから、ここの者が飾り切りをできるようになったらそれでええんやろ」
「え?そうなんです?すぐ帰られる予定なんですか」
「え?源さん、すぐ帰るん?」
壱臣さんが、へにょりと眉を下げる。
「そうかあ。そやな。うん。源さんの帰るとこはあっちやもんな、うん。しゃあないなあ」
「ぐ……」
「うち、また一緒に暮らせるんかと思てすごい嬉しかったけど、うん、そやな。会えただけでもすごいな。うん。……あかんな。うち、どんどん欲深くなってしもて……」
どんどんうつむいていく壱臣さんに、源さんが言葉を詰めた。
「あんな、源さん。うちな、お城行くんが怖い……。やからな、源さんとこ訪ねて行かれへんのんよ。やからな、たまに、たんまにでええから、源さんがうちんとこ来てくれる?」
「あー、もうっ」
源さんは自分の短い髪の毛をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。
「行き来すんのがめんどくせえから、しばらくここに居てやるよ」
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