【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

144 夕暮れの散歩  成人

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「いってきまーす」
「いってくる」

 出かける時の挨拶をして玄関の大きな扉の前で振り返ると、たくさんの人が見送りにきていた。すぐそこに行くだけだから、気にしなくていいのに。夜ご飯を食べたら、すぐに帰ってくるんだから。

「いってらっしゃいませ」

 それでも、そう言ってもらうとすごく嬉しい。おかえり、ただいまの挨拶も好きだけれど、いってきます、いってらっしゃいの挨拶もとても好きだ。自分のおうちがあって家族がいないとできないことだ、って気付いたから。
 俺には俺のおうちがあって、一緒に暮らす好きな人がたくさんいる。だから、いってきますもいってらっしゃいも言える。おかえりとただいまも言える。これはすごく幸せ。

「殿下、なる。気を付けてね」
「はーい」

 にこにこ笑う先頭の乙羽おとわの後ろに常陸丸ひたちまるがくっ付いて、やっぱり笑って手を振っていた。緋色ひいろが小さく、ちって言った。緋色ひいろは、お城にご飯を食べに行きたくなーいって言ってたから、お留守番の常陸丸ひたちまるのこと、いいなって思ってるんだろう。だから、ちって言うんだな。
 旅行から帰ってきて、やっと乙羽おとわに会えた常陸丸ひたちまるは、もうすっかりお休み中だ。お城でご飯を食べるだけだから常陸丸ひたちまるが護衛でなくても大丈夫、って緋色ひいろが言ったら、常陸丸ひたちまるはあっという間にお休み中の姿になってしまった。おうち用の服で、乙羽おとわににこにこくっ付いている。
 護衛は、お留守番してた一ノ瀬の中から一人借りることにした。誰も護衛なしで歩くのは、絶対駄目だからね。行くところがすぐそこでも、油断はしない。緋色ひいろは大事な人だから。俺がもっと速く動けたらいいんだけど、もうできないからちょっと残念だな。
 じいじは夜はお酒を飲みたいし、早くに眠たくなるから夜の護衛には向いていない。行こうか、と言ってくれたけど緋色ひいろが、いらんって断っていた。
 一緒に旅行してた人たちは皆、明後日までお休み。じいやにもそう言ったけど、ちゃんとお休みしてるかな。今だけ付いてくるかな。本気で気配を消されたら察知できないから、いるのかいないのか分からない。
 お見送りの人たちに手を振って外に出たら、緋色ひいろが、んと手を広げてきた。

「歩く」
「そうか。残念」

 緋色ひいろと手を繋いで、日の沈みかけている外の道を歩く。暗くなってくる時間に外に出るのは、何時いつくらいぶりだろう。夏のお祭りの時は、屋台の灯りがたくさんで夜でも明るかった。
 離宮とお城を繋ぐ道は、あまり人が通らない。緋色ひいろと二人で歩くのがとても楽しくなってきて、ふんふんふーん、と歌が出てしまった。緋色ひいろが小さく笑うのが聞こえたけれど、気にしない。俺が歌うと皆笑うんだ。オルゴールの歌だけじゃない歌も、たくさん青葉あおばに教えてもらったけれど、どれを歌っても何だか違うようになってしまっているらしい。俺はおんなじに歌ってるつもりなんだけど。楽しければいいのよって青葉あおばはいつも言っているから、まあいいことにした。一番最初に覚えたオルゴールの歌が、一番好きだ。緋色ひいろから、初めてもらった誕生日のプレゼント。

「オルゴールの歌だな」
「うん」

 ほら。少し違ってるかもしれないけど、緋色ひいろには分かるし。

「楽しいか」
「うん」
「そうか」

 正装に着替えてご飯を食べに行くのとか、ちょっと面倒くさいなって思ったりしてたけど、緋色ひいろと散歩ができたからやっぱり良かった。
 
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