【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
1,021 / 1,325
第八章 郷に入っては郷に従え

145 手を合わせる  成人

しおりを挟む
 こちらです、とご案内されたお城の食堂。狭い方の部屋だ。狭いって言っても、広い方より狭いってだけで、皆で食べる俺たちの食堂とおんなじくらい広い。机と椅子が真ん中にあって、俺たちはそこに座る。周りに、侍従とか侍女とか料理人とか、料理を運んだり並べたりする人が大勢立っている。この人たちは一緒には食べない。もう覚えた。

「いただきます」

 ご案内された席にまだ食べ物はないけれど、今から運ばれてくるってもう分かっているので、挨拶をしておいた。俺たちの後から部屋に来て席に着いた朱実あけみ殿下と赤璃あかりさま、父さまと母さまがくすくす笑って、俺と同じようにいただきますと言って手を合わせた。俺は、一つしか手がないので顔の前に縦向けにした右手を持ち上げている。いただきますやごちそうさまの挨拶は、ちゃんとしてみたかったなあ、と時々思うことの一つだ。包拳礼もそうだけど、手が二つないとできないことって色々ある。手が二つある時は、そんな挨拶を知らなかったからしたことなくて、知った時には手がなくてもうできなかった。だから時々、左手が欲しいって思う。生えるわけないし、どうしようもないことなのに。どうしようもないことを何度も思ったって、どうしようもないのにね。
 今は左手しかない半助はんすけも、言ってたのを聞いたことがある。両手があるうちに、もっと抱きしめておけば良かったって。壱臣いちおみを抱きしめながら言っていた。

「どうした?」

 考えてたら、隣の席の緋色ひいろが俺の右手を持って言った。俺、右手を上げたままだった。

「手を、合わせてないなって思って」

 両手があった頃にはそんな挨拶を知らず、知った時には左手は無かった。俺は一生、手は合わせられない。

「なんだ、そんなこと」

 緋色ひいろが左手を俺の右手に当てた。俺のに比べて、とても大きな左手だ。俺の大好きな手だ。

「合ったぞ」

 ほんとだ。

「合った」
「いただきます」
「いただきます」

 緋色ひいろの挨拶に合わせて言ったら、ちゃんと挨拶できた気がした。

「明日もこれする」
「そうしろ」

 くっくっくっ、と笑う声に顔を上げると、父さまも母さまも皆笑ってた。朱実あけみ殿下だけ、ちょっとため息を吐きながら笑ってた。

「西国でも、そんな風に過ごしていたの?」

 赤璃あかりさまの言葉に首を傾げる。

「そんな風って?」
「いちゃいちゃしてるってことよ」

 いちゃいちゃ。
 常陸丸ひたちまるにも、いちゃいちゃしてないでさっさと動いて、とかって言われる事があるけど、何回聞いても、これがいちゃいちゃだって分からないんだよなあ。手を二人で合わせるのがいちゃいちゃ?それなら、西国ではしていない。

「いちゃいちゃは西国ではしてない」
「あらそう?」
「そんな訳ないだろう」

 朱実あけみ殿下が言った。ん?俺たち、西国で手を合わせたりしていないけど?

成人なるひと。いちゃいちゃがどんなものか分かるか?」

 朱実あけみ殿下が聞いてくる。大丈夫。今、分かったから。

緋色ひいろと手を合わせるのがいちゃいちゃ」
「違う」

 違うの?でもさっき……。
 あ。
 常陸丸ひたちまる、俺たちが手を合わせてない時にも、いちゃいちゃすんなって言ってたっけ。あれ?じゃあ何だ?

「伴侶や好きな者と、殊更べたべたとくっ付いて仲良くするのがいちゃいちゃだ」

 おお、そうなのか。それなら。俺は緋色ひいろを見上げる。

「いつもしてること?」
「さあな」
「じゃあ、いつもいちゃいちゃしてるってこと?」
「他のやつらがどう思って見てるかなんて知らん」

 まあ、そうかも。俺は、俺のしたいことしよう。いつも通りにね。きっと緋色ひいろもそうするから。
 あと、一つ分かったことがある。さっき常陸丸ひたちまる乙羽おとわがしてたのも、いちゃいちゃだよね。

しおりを挟む
感想 2,498

あなたにおすすめの小説

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

【完結】君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...