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第八章 郷に入っては郷に従え
145 手を合わせる 成人
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こちらです、とご案内されたお城の食堂。狭い方の部屋だ。狭いって言っても、広い方より狭いってだけで、皆で食べる俺たちの食堂とおんなじくらい広い。机と椅子が真ん中にあって、俺たちはそこに座る。周りに、侍従とか侍女とか料理人とか、料理を運んだり並べたりする人が大勢立っている。この人たちは一緒には食べない。もう覚えた。
「いただきます」
ご案内された席にまだ食べ物はないけれど、今から運ばれてくるってもう分かっているので、挨拶をしておいた。俺たちの後から部屋に来て席に着いた朱実殿下と赤璃さま、父さまと母さまがくすくす笑って、俺と同じようにいただきますと言って手を合わせた。俺は、一つしか手がないので顔の前に縦向けにした右手を持ち上げている。いただきますやごちそうさまの挨拶は、ちゃんとしてみたかったなあ、と時々思うことの一つだ。包拳礼もそうだけど、手が二つないとできないことって色々ある。手が二つある時は、そんな挨拶を知らなかったからしたことなくて、知った時には手がなくてもうできなかった。だから時々、左手が欲しいって思う。生えるわけないし、どうしようもないことなのに。どうしようもないことを何度も思ったって、どうしようもないのにね。
今は左手しかない半助も、言ってたのを聞いたことがある。両手があるうちに、もっと抱きしめておけば良かったって。壱臣を抱きしめながら言っていた。
「どうした?」
考えてたら、隣の席の緋色が俺の右手を持って言った。俺、右手を上げたままだった。
「手を、合わせてないなって思って」
両手があった頃にはそんな挨拶を知らず、知った時には左手は無かった。俺は一生、手は合わせられない。
「なんだ、そんなこと」
緋色が左手を俺の右手に当てた。俺のに比べて、とても大きな左手だ。俺の大好きな手だ。
「合ったぞ」
ほんとだ。
「合った」
「いただきます」
「いただきます」
緋色の挨拶に合わせて言ったら、ちゃんと挨拶できた気がした。
「明日もこれする」
「そうしろ」
くっくっくっ、と笑う声に顔を上げると、父さまも母さまも皆笑ってた。朱実殿下だけ、ちょっとため息を吐きながら笑ってた。
「西国でも、そんな風に過ごしていたの?」
赤璃さまの言葉に首を傾げる。
「そんな風って?」
「いちゃいちゃしてるってことよ」
いちゃいちゃ。
常陸丸にも、いちゃいちゃしてないでさっさと動いて、とかって言われる事があるけど、何回聞いても、これがいちゃいちゃだって分からないんだよなあ。手を二人で合わせるのがいちゃいちゃ?それなら、西国ではしていない。
「いちゃいちゃは西国ではしてない」
「あらそう?」
「そんな訳ないだろう」
朱実殿下が言った。ん?俺たち、西国で手を合わせたりしていないけど?
「成人。いちゃいちゃがどんなものか分かるか?」
朱実殿下が聞いてくる。大丈夫。今、分かったから。
「緋色と手を合わせるのがいちゃいちゃ」
「違う」
違うの?でもさっき……。
あ。
常陸丸、俺たちが手を合わせてない時にも、いちゃいちゃすんなって言ってたっけ。あれ?じゃあ何だ?
「伴侶や好きな者と、殊更べたべたとくっ付いて仲良くするのがいちゃいちゃだ」
おお、そうなのか。それなら。俺は緋色を見上げる。
「いつもしてること?」
「さあな」
「じゃあ、いつもいちゃいちゃしてるってこと?」
「他のやつらがどう思って見てるかなんて知らん」
まあ、そうかも。俺は、俺のしたいことしよう。いつも通りにね。きっと緋色もそうするから。
あと、一つ分かったことがある。さっき常陸丸と乙羽がしてたのも、いちゃいちゃだよね。
「いただきます」
ご案内された席にまだ食べ物はないけれど、今から運ばれてくるってもう分かっているので、挨拶をしておいた。俺たちの後から部屋に来て席に着いた朱実殿下と赤璃さま、父さまと母さまがくすくす笑って、俺と同じようにいただきますと言って手を合わせた。俺は、一つしか手がないので顔の前に縦向けにした右手を持ち上げている。いただきますやごちそうさまの挨拶は、ちゃんとしてみたかったなあ、と時々思うことの一つだ。包拳礼もそうだけど、手が二つないとできないことって色々ある。手が二つある時は、そんな挨拶を知らなかったからしたことなくて、知った時には手がなくてもうできなかった。だから時々、左手が欲しいって思う。生えるわけないし、どうしようもないことなのに。どうしようもないことを何度も思ったって、どうしようもないのにね。
今は左手しかない半助も、言ってたのを聞いたことがある。両手があるうちに、もっと抱きしめておけば良かったって。壱臣を抱きしめながら言っていた。
「どうした?」
考えてたら、隣の席の緋色が俺の右手を持って言った。俺、右手を上げたままだった。
「手を、合わせてないなって思って」
両手があった頃にはそんな挨拶を知らず、知った時には左手は無かった。俺は一生、手は合わせられない。
「なんだ、そんなこと」
緋色が左手を俺の右手に当てた。俺のに比べて、とても大きな左手だ。俺の大好きな手だ。
「合ったぞ」
ほんとだ。
「合った」
「いただきます」
「いただきます」
緋色の挨拶に合わせて言ったら、ちゃんと挨拶できた気がした。
「明日もこれする」
「そうしろ」
くっくっくっ、と笑う声に顔を上げると、父さまも母さまも皆笑ってた。朱実殿下だけ、ちょっとため息を吐きながら笑ってた。
「西国でも、そんな風に過ごしていたの?」
赤璃さまの言葉に首を傾げる。
「そんな風って?」
「いちゃいちゃしてるってことよ」
いちゃいちゃ。
常陸丸にも、いちゃいちゃしてないでさっさと動いて、とかって言われる事があるけど、何回聞いても、これがいちゃいちゃだって分からないんだよなあ。手を二人で合わせるのがいちゃいちゃ?それなら、西国ではしていない。
「いちゃいちゃは西国ではしてない」
「あらそう?」
「そんな訳ないだろう」
朱実殿下が言った。ん?俺たち、西国で手を合わせたりしていないけど?
「成人。いちゃいちゃがどんなものか分かるか?」
朱実殿下が聞いてくる。大丈夫。今、分かったから。
「緋色と手を合わせるのがいちゃいちゃ」
「違う」
違うの?でもさっき……。
あ。
常陸丸、俺たちが手を合わせてない時にも、いちゃいちゃすんなって言ってたっけ。あれ?じゃあ何だ?
「伴侶や好きな者と、殊更べたべたとくっ付いて仲良くするのがいちゃいちゃだ」
おお、そうなのか。それなら。俺は緋色を見上げる。
「いつもしてること?」
「さあな」
「じゃあ、いつもいちゃいちゃしてるってこと?」
「他のやつらがどう思って見てるかなんて知らん」
まあ、そうかも。俺は、俺のしたいことしよう。いつも通りにね。きっと緋色もそうするから。
あと、一つ分かったことがある。さっき常陸丸と乙羽がしてたのも、いちゃいちゃだよね。
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