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第八章 郷に入っては郷に従え
149 お話が続かないのは 成人
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「正装に着替えなくて良ければ、来るか?毎日とは言わんが」
「んー?」
まあ、うん、そう。……かな?
「では今度、いつもの服で来るといい。私は構わないよ」
「んんー?」
父さまがいいなら、いい?でも、俺と緋色がいつもの服で、父さまたちは正装みたいなこの服でっていうのは何だかおかしい気がする。あれだ。郷に入っては郷に従え、ができてない、みたいな。それは、あんまりよくない。たぶん。
俺たちがおうちでいつもの服でいいのは、他の人もいつもの服だから。仕事の服の人もいて、そうじゃない服の人もいて、それでいいって家族が皆、思ってるから。
着替えずに来ていい、って言われても、きっと食べてて落ち着かない。
「いつもの服でも頻度は変わらん」
「緋色」
ひんど。何だろ。何が変わらないんだろ。
「俺らにはもう自分の家があるからな。誰だって自分の家が一番だ」
緋色はそう言って、アイスクリームを食べ終わった俺の前に左手を立てて出した。
あ!
「ごちそうさまでした」
俺は、緋色の左手に右手を合わせて大きな声で言う。手を合わせて、ごちそうさまだ。
「緋色さんがここにいたことなんて、もともとあんまり無いじゃない」
「母上も、いませんでしたよ」
「……」
緋色と母さまはお話が下手くそ。いつも二人のお話は続かない。緋色は、俺と話す時はいつまででも話せるのに、変なの。俺だけじゃない。常陸丸とだって力丸とだって、乙羽とも青葉ともたくさんしゃべるのに。朱実殿下とも、しゃべるのにね。
あ、でも、朱実殿下にすっごく怒ってる時は、緋色は朱実殿下とあまり話さなかった。話しかけられても、短い返事しかしなかった。あれとおんなじ?どうかな?少し違う?
緋色は、母さまに怒ってる?だから、お話が続かない?母さまはどうなんだろう。母さまも、緋色に怒ってるんだろうか。
「母上は病気だったのだ、緋色。今は、母上もここで食べられるようになった。もう少し顔を見せに来てもいいんじゃないか?私や父上は、お前と仕事で顔を会わせる機会もあるが、母上はそうではないから会いたいんだろう」
「私は、緋色殿下となると一緒に食事できるのが楽しいわよ?また来てね」
朱実殿下と赤璃さまに言われると、うんって言いそうになる。でも、緋色が来たくないなら俺も来ない。緋色が嫌なことを俺もしたくない。だから、うんは言わなかった。ご飯は、美味しく楽しく食べたい。今日のご飯、美味しかったけど。普通に楽しかったけど。でも。
「母上は、俺の食べ方が汚い、食事が不味くなる、と癇癪を起こして席を立って、それきりでしたでしょう?気にしているんですよ」
「……っ」
「緋色。それはお前がごく幼い頃の……」
緋色は立ち上がった。
「父上。あの後、しばらく食べ方の訓練をさせられましたが、俺には今も、あの時の俺の食べ方と訓練後の食べ方がどう違うのか分かっていません。俺の食べ方は、汚いままかもしれない」
「緋色、母上は病気だった」
「母上の病気が治ったのかどうか、俺には見分けがつかない。また俺の所為で、母上がこの場に来られなくなっては申し訳ない。片手で食べる成人の所作も、あまり見目が良くないしな。これでも、俺なりに気遣いをしてる」
「緋色!」
「ごちそうさまでした。成人、帰るぞ」
緋色は俺を抱っこして、早足で部屋を出た。
俺は、歩いて帰れるって言わなかった。
「んー?」
まあ、うん、そう。……かな?
「では今度、いつもの服で来るといい。私は構わないよ」
「んんー?」
父さまがいいなら、いい?でも、俺と緋色がいつもの服で、父さまたちは正装みたいなこの服でっていうのは何だかおかしい気がする。あれだ。郷に入っては郷に従え、ができてない、みたいな。それは、あんまりよくない。たぶん。
俺たちがおうちでいつもの服でいいのは、他の人もいつもの服だから。仕事の服の人もいて、そうじゃない服の人もいて、それでいいって家族が皆、思ってるから。
着替えずに来ていい、って言われても、きっと食べてて落ち着かない。
「いつもの服でも頻度は変わらん」
「緋色」
ひんど。何だろ。何が変わらないんだろ。
「俺らにはもう自分の家があるからな。誰だって自分の家が一番だ」
緋色はそう言って、アイスクリームを食べ終わった俺の前に左手を立てて出した。
あ!
「ごちそうさまでした」
俺は、緋色の左手に右手を合わせて大きな声で言う。手を合わせて、ごちそうさまだ。
「緋色さんがここにいたことなんて、もともとあんまり無いじゃない」
「母上も、いませんでしたよ」
「……」
緋色と母さまはお話が下手くそ。いつも二人のお話は続かない。緋色は、俺と話す時はいつまででも話せるのに、変なの。俺だけじゃない。常陸丸とだって力丸とだって、乙羽とも青葉ともたくさんしゃべるのに。朱実殿下とも、しゃべるのにね。
あ、でも、朱実殿下にすっごく怒ってる時は、緋色は朱実殿下とあまり話さなかった。話しかけられても、短い返事しかしなかった。あれとおんなじ?どうかな?少し違う?
緋色は、母さまに怒ってる?だから、お話が続かない?母さまはどうなんだろう。母さまも、緋色に怒ってるんだろうか。
「母上は病気だったのだ、緋色。今は、母上もここで食べられるようになった。もう少し顔を見せに来てもいいんじゃないか?私や父上は、お前と仕事で顔を会わせる機会もあるが、母上はそうではないから会いたいんだろう」
「私は、緋色殿下となると一緒に食事できるのが楽しいわよ?また来てね」
朱実殿下と赤璃さまに言われると、うんって言いそうになる。でも、緋色が来たくないなら俺も来ない。緋色が嫌なことを俺もしたくない。だから、うんは言わなかった。ご飯は、美味しく楽しく食べたい。今日のご飯、美味しかったけど。普通に楽しかったけど。でも。
「母上は、俺の食べ方が汚い、食事が不味くなる、と癇癪を起こして席を立って、それきりでしたでしょう?気にしているんですよ」
「……っ」
「緋色。それはお前がごく幼い頃の……」
緋色は立ち上がった。
「父上。あの後、しばらく食べ方の訓練をさせられましたが、俺には今も、あの時の俺の食べ方と訓練後の食べ方がどう違うのか分かっていません。俺の食べ方は、汚いままかもしれない」
「緋色、母上は病気だった」
「母上の病気が治ったのかどうか、俺には見分けがつかない。また俺の所為で、母上がこの場に来られなくなっては申し訳ない。片手で食べる成人の所作も、あまり見目が良くないしな。これでも、俺なりに気遣いをしてる」
「緋色!」
「ごちそうさまでした。成人、帰るぞ」
緋色は俺を抱っこして、早足で部屋を出た。
俺は、歩いて帰れるって言わなかった。
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