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第八章 郷に入っては郷に従え
153 駄々をこねているのはどちらか 朱実
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こちらでの食事に付き合っていた緋色を尊敬する、との赤璃の言葉に、瞬間、思考が止まる。
付き合っていた。
それは、当たり前だ。
ここで食事をするのは皇族の義務で、それを簡単に放り出す緋色は、気分屋で自分勝手で。
だが、緋色が自分勝手な気分屋ではないことを私は知っている。私が一番知っている。私は、誰より緋色のことを見てきた。城に寄りつかなくなってからも、さり気なく護衛を置いて緋色の行動を把握していた。あれは、あの子は、いつだって皇族としてきちんとしていた。時に苛烈であっても、その行動が気分だけで行われたことなど無かった。任された仕事を投げ出したりもしない。
では、何故?
何故私は、母上の落ち込みを慰めるために、緋色は気分屋だなどと告げたのだろう。
緋色が食卓に出て来ないのは何故か、と尋ねる度に父が言ったからだ。
緋色は、ここで食事をしたくないと駄々をこねているらしい。自分の食事の作法は汚いから、と言ってな。教師は、作法に問題はないと言っていたのだから言い訳だ。気分で義務を怠るなど、あれは随分と気分屋のようだな、と。
だから、食事に関することでは緋色は気分屋だということになっていた。私の中で。だから、母上が食卓に緋色の姿がないことを嘆く度に、先ほどのように言って慰めていたのだ。緋色は気分屋だから、と。
けれど。
そうだ、おかしい。
食事に関してだけ気分屋、とはなんだ?食事に関してうるさいとか、好き嫌いが多いとか、そういうのが食事に関してだけの気分屋に当たるのではないか?共に食事をする場に出る、出ないを気分で決めるような人間は、普段の行動も気分で決めてしまう傾向になるのではないか。緋色にその傾向はない。食事に関してだけ考えてもそうだ。緋色が、公務である晩餐会などの食事の集まりをすっぽかした事など、一度たりとてない。
なら。
赤璃の言うように緋色は、ただただこの家族の食事の場が苦痛で、できれば来たくなかった。それでも、気分屋ではないから、誘われて断る理由がなければ付き合ってくれていた。義務を果たしていた。
苦痛の原因は、私たちが終わったことだと思っていた昔の一幕にあり、緋色の中でそれは何も終わっていなかった。誰も、もう大丈夫、よくできました、と言わなかったから、もう大丈夫か分からない。できているのか分からない。そんな思いでとる食事は、どんなに……。
「陛下。皇妃殿下。大変に失礼を致しました。私の不敬について、処分はいかようにもなさってください。ただ。ただ、今、しばしの時間を頂ければと思います」
しくしくと泣く母の肩を抱いて、ため息を吐く父。その二人に、深々と頭を下げた赤璃が願いを口にする。
「不敬、か。そうだな」
「父上」
赤璃に処分?
確かに先ほどの赤璃の物言いは、陛下に対し不敬であった。だが、家族として考えるなら?家族だから、この場で共に食事をしていたと言うのなら、その発言は許されるのでは?
そう考えてから、義務でここに居た自分がそんな事を言えるだろうかと躊躇する。
自分もこんな考えのくせに、緋色へここへ来いと強請っていたなんて。駄々をこねているのはまるで……。
「追って沙汰する。今はここから出てゆけ」
「はっ」
父の言葉に素早く踵を返した赤璃を、慌てて立ち上がり追いかけた。
付き合っていた。
それは、当たり前だ。
ここで食事をするのは皇族の義務で、それを簡単に放り出す緋色は、気分屋で自分勝手で。
だが、緋色が自分勝手な気分屋ではないことを私は知っている。私が一番知っている。私は、誰より緋色のことを見てきた。城に寄りつかなくなってからも、さり気なく護衛を置いて緋色の行動を把握していた。あれは、あの子は、いつだって皇族としてきちんとしていた。時に苛烈であっても、その行動が気分だけで行われたことなど無かった。任された仕事を投げ出したりもしない。
では、何故?
何故私は、母上の落ち込みを慰めるために、緋色は気分屋だなどと告げたのだろう。
緋色が食卓に出て来ないのは何故か、と尋ねる度に父が言ったからだ。
緋色は、ここで食事をしたくないと駄々をこねているらしい。自分の食事の作法は汚いから、と言ってな。教師は、作法に問題はないと言っていたのだから言い訳だ。気分で義務を怠るなど、あれは随分と気分屋のようだな、と。
だから、食事に関することでは緋色は気分屋だということになっていた。私の中で。だから、母上が食卓に緋色の姿がないことを嘆く度に、先ほどのように言って慰めていたのだ。緋色は気分屋だから、と。
けれど。
そうだ、おかしい。
食事に関してだけ気分屋、とはなんだ?食事に関してうるさいとか、好き嫌いが多いとか、そういうのが食事に関してだけの気分屋に当たるのではないか?共に食事をする場に出る、出ないを気分で決めるような人間は、普段の行動も気分で決めてしまう傾向になるのではないか。緋色にその傾向はない。食事に関してだけ考えてもそうだ。緋色が、公務である晩餐会などの食事の集まりをすっぽかした事など、一度たりとてない。
なら。
赤璃の言うように緋色は、ただただこの家族の食事の場が苦痛で、できれば来たくなかった。それでも、気分屋ではないから、誘われて断る理由がなければ付き合ってくれていた。義務を果たしていた。
苦痛の原因は、私たちが終わったことだと思っていた昔の一幕にあり、緋色の中でそれは何も終わっていなかった。誰も、もう大丈夫、よくできました、と言わなかったから、もう大丈夫か分からない。できているのか分からない。そんな思いでとる食事は、どんなに……。
「陛下。皇妃殿下。大変に失礼を致しました。私の不敬について、処分はいかようにもなさってください。ただ。ただ、今、しばしの時間を頂ければと思います」
しくしくと泣く母の肩を抱いて、ため息を吐く父。その二人に、深々と頭を下げた赤璃が願いを口にする。
「不敬、か。そうだな」
「父上」
赤璃に処分?
確かに先ほどの赤璃の物言いは、陛下に対し不敬であった。だが、家族として考えるなら?家族だから、この場で共に食事をしていたと言うのなら、その発言は許されるのでは?
そう考えてから、義務でここに居た自分がそんな事を言えるだろうかと躊躇する。
自分もこんな考えのくせに、緋色へここへ来いと強請っていたなんて。駄々をこねているのはまるで……。
「追って沙汰する。今はここから出てゆけ」
「はっ」
父の言葉に素早く踵を返した赤璃を、慌てて立ち上がり追いかけた。
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