【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
1,028 / 1,325
第八章 郷に入っては郷に従え

152 昔のことなんかじゃない  赤璃

しおりを挟む
「皆さまが、緋色ひいろともう二度とお食事を共にしなくてもよいと仰るならこのままでいいんでしょうけれど。また共にお食事をしたいとお思いなら、緋色ひいろの言葉を真摯に受け止めて、返事をしなくてはなりません」
赤璃あかり。返事を聞かずに出ていったのは緋色ひいろだ」

 私が声を落とす気がないと気付いた朱実あけみが、諦めたように普通の声量で言葉を返してきた。

「ええ。出ていってくれて良かったわ。陛下と皇太子殿下のあんなに酷いお言葉を聞かせずに済んだのですもの」
「酷い?」

 陛下が、ぴくりと眉を上げられる。皇妃殿下に優しい言葉をかけてなだめる人の輪に入らない私は、穏やかに事を収めたい陛下にとって不穏分子に見えるだろうか。
 でも、口を閉じることなんてできない。ここで私が口を閉じたって、表面が穏やかに見えるだけ。心の内まで穏やかに収まる訳じゃない。

「酷いです。とても酷い。きちんと教育した、ですって?皇妃殿下が二度と不快になることがないように?そんなことを、緋色ひいろが出ていかなければ緋色ひいろの前でも仰るおつもりだったのですか?そんなの、小さな頃の緋色ひいろの食べ方が汚かったと、陛下も思っていらっしゃったのだと仰っているようなお言葉ではありませんか!私が覚えている限り、緋色ひいろ殿下の食べ方が汚かったことなんてないわ。幼い頃の緋色ひいろ殿下は、本当に教育をし直さなくてはならない程、汚い食べ方をしていましたか?陛下も、幼い緋色ひいろ殿下の食べ方に皇妃殿下と同じことを思われたのですか?それは、些細な子どもらしい失敗ではなく?もし本当に、少々上手ではなかったとして、もう一度された教育の後で、上手になったな、と褒めて差し上げましたか?もう大丈夫だ、とひとことでも緋色ひいろ殿下に仰いましたか?」
赤璃あかり赤璃あかり、落ち着け。昔のことだよ。ものすごく、昔のことだ」
朱実あけみ、あなたには昔のことなのね。でも、緋色ひいろの中では昔のことじゃなかったのよ。そりゃそうよ!誰も、もう大丈夫って言ってないなら終わらない。終われない。それは今も、緋色ひいろの中で続いてる!」

 震えて泣き始めた皇妃殿下の肩を抱いた陛下が、小さなため息を吐く。

「ここに全員が揃って最後まで食事できているんだから、大丈夫だと分かるだろう」
「分かりません!分かるわけないです!だって、緋色ひいろは言っていました。汚いと言われた時の食べ方と訓練後の食べ方がどう違うのか今でも分かっていないって。どうしてきちんと言ってあげていないんですか。緋色ひいろの食べ方は何が駄目だったのか、どう大丈夫になったのか。分からないまま、また同じように言われたらどうしようと思ったままで落ち着いて食事なんてできる訳がありません。私ならできません。今でも時々、こちらでの食事に付き合っていた緋色ひいろを尊敬します」

 本当に、緋色ひいろ、あなたは凄い、よく頑張った、と伝えに行きたい。
 早く。
 少しでも早く。

 
しおりを挟む
感想 2,498

あなたにおすすめの小説

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

【完結】お義父さんが、だいすきです

  *  ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。 種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。 ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! トェルとリィフェルの動画つくりました!  インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

処理中です...