1,038 / 1,325
第八章 郷に入っては郷に従え
162 新生活一日目 源之進
しおりを挟む
「おはよー」
遅い昼食を、臣と東那という厨房手伝いの少年と共に食堂でとっていると、からりと戸が引かれる音がした。少し掠れた高い声が元気に響く。
緋色殿下と、その腕に抱き上げられている成人殿下だ。昨日、離宮内で包拳礼はいらぬと言われたが、ほなどう挨拶をお返しすればよいんやろと戸惑って腰を浮かした。隣に座る臣を伺うと、食事の手も止めぬままだった。臣は、くすくすと笑っている。
「おはよう、ちゃうよ、成人くん。もう遅いから、おそようや」
臣は、言うた自分の言葉にまた、くすくすと笑った。
「おお」
成人殿下が何故か感心したような声を上げて、おそよう、と言い直した。
「あは。あはは。おそよう。緋色殿下も、おそようございます」
「……おそよう。飯あるか」
おそようが採用されるんかい。
「ありますよ。朝の魚も昼の丼も残っとりますよ」
「丼。味噌汁があれば飲む。茶は熱いのと冷たいの二つ」
「はいはい」
緋色殿下は、俺たちの間近に腰を下ろされた。成人殿下のことを膝に抱えたられたままだ。……席が決まっとる訳やないと臣が言っとったけども、この位置はあまりに下っ端の者に近過ぎるんちゃうか。もう少しこう、下々の者とは距離をおいて、とか、そういう気持ちは持たれないんやろか。
そして今は、腰を浮かしたついでに、俺が緋色殿下の注文の品を取ってくるのが正解なんやろか?そん時、成人殿下は何を食べはるんやろ。臣が、相変わらず素早さに欠けるから、次の動きが読めん。ゆっくり茶を飲んどる場合ちゃうやろ、臣。
「緋色。ご飯、取りに行かないの?」
「行かない」
成人殿下の言葉に、緋色殿下がつんと顔を背けられた。自分で食事を持ってきて食べる言う決まりは、殿下方にも適用されてるんやったっけ。
「もー。じゃあ俺が行く」
「無理だからやめとけ」
「へ?」
緋色殿下の膝から立ち上がりかけた成人殿下は、ふらついて緋色殿下の膝に戻った。
「あれ?」
「まあ、そういう事だ。今日はここにいろ」
「もー。殿下」
臣が真っ赤になって立ち上がる。
「うちが取ってきます。成人くんも丼と味噌汁でええ?あとはぬるいお茶やんな」
「うん。ありがと」
「はい、持ってきますね」
臣が立ち上がると、東那も共に立ち上がった。二人は頭を一つ下げると厨房へ向かっていく。慌てて二人の後に続いて頭を下げて追いかけた。臣に声を潜めて問う。
「成人殿下の体調が、あまり良うないいうことか?」
「もー、ちゃうよ、源さん。いややわ!」
顔を真っ赤にした臣に背中をばんばん叩かれた。そのまま、答えは得られんかった。
いや、どういうことや?
ちっとも分からん。
遅い昼食を、臣と東那という厨房手伝いの少年と共に食堂でとっていると、からりと戸が引かれる音がした。少し掠れた高い声が元気に響く。
緋色殿下と、その腕に抱き上げられている成人殿下だ。昨日、離宮内で包拳礼はいらぬと言われたが、ほなどう挨拶をお返しすればよいんやろと戸惑って腰を浮かした。隣に座る臣を伺うと、食事の手も止めぬままだった。臣は、くすくすと笑っている。
「おはよう、ちゃうよ、成人くん。もう遅いから、おそようや」
臣は、言うた自分の言葉にまた、くすくすと笑った。
「おお」
成人殿下が何故か感心したような声を上げて、おそよう、と言い直した。
「あは。あはは。おそよう。緋色殿下も、おそようございます」
「……おそよう。飯あるか」
おそようが採用されるんかい。
「ありますよ。朝の魚も昼の丼も残っとりますよ」
「丼。味噌汁があれば飲む。茶は熱いのと冷たいの二つ」
「はいはい」
緋色殿下は、俺たちの間近に腰を下ろされた。成人殿下のことを膝に抱えたられたままだ。……席が決まっとる訳やないと臣が言っとったけども、この位置はあまりに下っ端の者に近過ぎるんちゃうか。もう少しこう、下々の者とは距離をおいて、とか、そういう気持ちは持たれないんやろか。
そして今は、腰を浮かしたついでに、俺が緋色殿下の注文の品を取ってくるのが正解なんやろか?そん時、成人殿下は何を食べはるんやろ。臣が、相変わらず素早さに欠けるから、次の動きが読めん。ゆっくり茶を飲んどる場合ちゃうやろ、臣。
「緋色。ご飯、取りに行かないの?」
「行かない」
成人殿下の言葉に、緋色殿下がつんと顔を背けられた。自分で食事を持ってきて食べる言う決まりは、殿下方にも適用されてるんやったっけ。
「もー。じゃあ俺が行く」
「無理だからやめとけ」
「へ?」
緋色殿下の膝から立ち上がりかけた成人殿下は、ふらついて緋色殿下の膝に戻った。
「あれ?」
「まあ、そういう事だ。今日はここにいろ」
「もー。殿下」
臣が真っ赤になって立ち上がる。
「うちが取ってきます。成人くんも丼と味噌汁でええ?あとはぬるいお茶やんな」
「うん。ありがと」
「はい、持ってきますね」
臣が立ち上がると、東那も共に立ち上がった。二人は頭を一つ下げると厨房へ向かっていく。慌てて二人の後に続いて頭を下げて追いかけた。臣に声を潜めて問う。
「成人殿下の体調が、あまり良うないいうことか?」
「もー、ちゃうよ、源さん。いややわ!」
顔を真っ赤にした臣に背中をばんばん叩かれた。そのまま、答えは得られんかった。
いや、どういうことや?
ちっとも分からん。
1,292
あなたにおすすめの小説
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました
小池 月
BL
大学一年の半田壱兎<はんだ いちと>は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。
壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。
加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。
大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。
そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢<あいかわ ひろむ>だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。
☆BLです。全年齢対応作品です☆
【完結】好きな人の待ち受け画像は僕ではありませんでした
鳥居之イチ
BL
————————————————————
受:久遠 酵汰《くおん こうた》
攻:金城 桜花《かねしろ おうか》
————————————————————
あることがきっかけで好きな人である金城の待ち受け画像を見てしまった久遠。
その待ち受け画像は久遠ではなく、クラスの別の男子でした。
上北学園高等学校では、今SNSを中心に広がっているお呪いがある。
それは消しゴムに好きな人の前を書いて、使い切ると両想いになれるというお呪いの現代版。
お呪いのルールはたったの二つ。
■待ち受けを好きな人の写真にして3ヶ月間好きな人にそのことをバレてはいけないこと。
■待ち受けにする写真は自分しか持っていない写真であること。
つまりそれは、金城は久遠ではなく、そのクラスの別の男子のことが好きであることを意味していた。
久遠は落ち込むも、金城のためにできることを考えた結果、
金城が金城の待ち受けと付き合えるように、協力を持ちかけることになるが…
————————————————————
この作品は他サイトでも投稿しております。
【完結】君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
炊き出しをしていただけなのに、大公閣下に溺愛されています
ぽんちゃん
BL
希望したのは、医療班だった。
それなのに、配属されたのはなぜか“炊事班”。
「役立たずの掃き溜め」と呼ばれるその場所で、僕は黙々と鍋をかき混ぜる。
誰にも褒められなくても、誰かが「おいしい」と笑ってくれるなら、それだけでいいと思っていた。
……けれど、婚約者に裏切られていた。
軍から逃げ出した先で、炊き出しをすることに。
そんな僕を追いかけてきたのは、王国軍の最高司令官――
“雲の上の存在”カイゼル・ルクスフォルト大公閣下だった。
「君の料理が、兵の士気を支えていた」
「君を愛している」
まさか、ただの炊事兵だった僕に、こんな言葉を向けてくるなんて……!?
さらに、裏切ったはずの元婚約者まで現れて――!?
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる