1,047 / 1,325
第九章 礼儀を知る人知らない人
4 報告書は作成中 鶴丸
しおりを挟む
「ぶっ。ふっ」
じい様の斜め後ろから、くぐもった声がする。文を置いて頭を下げ、素早く元の位置へ戻っとった相間が肩を震わせとる。じい様も、ふかーく呼吸してから、んんっと空咳をした。
ん?
「あ、こりゃすまん。いや、何せまさか皇家からこうして御使者が来られるなんて思たことも無かったんで、気が動転してしもてなあ」
「気が動転……んんっ。ええまあ、お気持ちお察し致します」
父上の言葉に、じい様はええ笑顔で答えた。あれや。いっつもの穏やかそうに作った顔やない笑い顔で。これ、あれか。笑いを堪えようとして諦めたやつか。
……?何か笑うとこあったかな。
首を傾げとると、先ほど茶を出して去った女中がやって来て、奥さんに、書き物の準備ができましたと言った。
「あの、すんません。うち、ちょっと成人殿下への返信を認めてきます。すぐ書きますんで、待っててもろてもええやろか」
「もちろんです。お早い返信を頂けたら、成人殿下は大変にお喜びになると思います」
「そう?ほな、良かった。鶴さま、うちが書いてええやんな?」
「もちろん。頼んだで」
奥さんが席を外すと、茶をひと口飲んだじい様がにこやかなまま口を開く。
「鶴丸さまは、外では咄嗟の機転もよくお利きになる優秀な方ですのに、おうちではこのようにのんびりと過ごしていらっしゃることに驚きました。お父上が頼りになる方であられるから、安心していらっしゃるのでしょうな」
「いや、これはどうものんびりであかんのや。基本、自分のやりたいことしかせえへんしな。褒めてもうて申し訳ないけど、咄嗟の機転が利くって言われても想像もつかんな?鶴が?」
「ええ。九鬼の城中にて、真中の前当主が成人殿下へ無礼を働いた際、成人殿下の願い通りの罰を名代として、その場で見事に真中の前当主へ下されましてございます」
「は……?」
父が、こちらをじろりと睨む。
流石にこの件は、後できちんと報告するつもりやったで。書類で報告した方がええんか口頭で言おうか迷って、まだ報告しとらんかっただけで。
「成人殿下の口にされた真中の前当主への罰を正確に理解された鶴丸さまが、西国なりの言い回しで真中の前当主へ罰を申し渡した場面は、そりゃあもう舞台役者もかくやという見事さでございました」
いや、じい様にそんな褒められたら照れ……。
「つ、る、ま、るー。お前、ほんまに」
「父上。この件が重要やとは流石に分かっとります。書類で出そうと思てまだ書けてないだけですやん。元真中のおっちゃんの髪の毛が実はあんまり残ってなかったこととか、ちゃんと詳しく書きますよってちょっと時間をください」
「真中殿の髪の毛の量、どうでもええわ」
「ええ?あと、元真中や、父上。今は名字剥奪された平民やさかい」
「お前が報告せな知らんわ、そんなこと!」
「あ、そうか」
「は、ははっ」
「くくく」
おや?
「荘重。見てみい。この通りや。鶴のそんな姿がほんまのことなら、俺にも見してほしいもんやで。荘重。九鬼の城に共におったんなら、すまんけど、あちらであった諸々を其方が説明して帰ってくれるか」
「ええ。分かる範囲、話せる範囲でよろしければ喜んで」
「ありがとう。これで安心や」
ええー。ちゃんと報告書、出すのに。
じい様の斜め後ろから、くぐもった声がする。文を置いて頭を下げ、素早く元の位置へ戻っとった相間が肩を震わせとる。じい様も、ふかーく呼吸してから、んんっと空咳をした。
ん?
「あ、こりゃすまん。いや、何せまさか皇家からこうして御使者が来られるなんて思たことも無かったんで、気が動転してしもてなあ」
「気が動転……んんっ。ええまあ、お気持ちお察し致します」
父上の言葉に、じい様はええ笑顔で答えた。あれや。いっつもの穏やかそうに作った顔やない笑い顔で。これ、あれか。笑いを堪えようとして諦めたやつか。
……?何か笑うとこあったかな。
首を傾げとると、先ほど茶を出して去った女中がやって来て、奥さんに、書き物の準備ができましたと言った。
「あの、すんません。うち、ちょっと成人殿下への返信を認めてきます。すぐ書きますんで、待っててもろてもええやろか」
「もちろんです。お早い返信を頂けたら、成人殿下は大変にお喜びになると思います」
「そう?ほな、良かった。鶴さま、うちが書いてええやんな?」
「もちろん。頼んだで」
奥さんが席を外すと、茶をひと口飲んだじい様がにこやかなまま口を開く。
「鶴丸さまは、外では咄嗟の機転もよくお利きになる優秀な方ですのに、おうちではこのようにのんびりと過ごしていらっしゃることに驚きました。お父上が頼りになる方であられるから、安心していらっしゃるのでしょうな」
「いや、これはどうものんびりであかんのや。基本、自分のやりたいことしかせえへんしな。褒めてもうて申し訳ないけど、咄嗟の機転が利くって言われても想像もつかんな?鶴が?」
「ええ。九鬼の城中にて、真中の前当主が成人殿下へ無礼を働いた際、成人殿下の願い通りの罰を名代として、その場で見事に真中の前当主へ下されましてございます」
「は……?」
父が、こちらをじろりと睨む。
流石にこの件は、後できちんと報告するつもりやったで。書類で報告した方がええんか口頭で言おうか迷って、まだ報告しとらんかっただけで。
「成人殿下の口にされた真中の前当主への罰を正確に理解された鶴丸さまが、西国なりの言い回しで真中の前当主へ罰を申し渡した場面は、そりゃあもう舞台役者もかくやという見事さでございました」
いや、じい様にそんな褒められたら照れ……。
「つ、る、ま、るー。お前、ほんまに」
「父上。この件が重要やとは流石に分かっとります。書類で出そうと思てまだ書けてないだけですやん。元真中のおっちゃんの髪の毛が実はあんまり残ってなかったこととか、ちゃんと詳しく書きますよってちょっと時間をください」
「真中殿の髪の毛の量、どうでもええわ」
「ええ?あと、元真中や、父上。今は名字剥奪された平民やさかい」
「お前が報告せな知らんわ、そんなこと!」
「あ、そうか」
「は、ははっ」
「くくく」
おや?
「荘重。見てみい。この通りや。鶴のそんな姿がほんまのことなら、俺にも見してほしいもんやで。荘重。九鬼の城に共におったんなら、すまんけど、あちらであった諸々を其方が説明して帰ってくれるか」
「ええ。分かる範囲、話せる範囲でよろしければ喜んで」
「ありがとう。これで安心や」
ええー。ちゃんと報告書、出すのに。
1,318
あなたにおすすめの小説
若頭の溺愛は、今日も平常運転です
なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編!
過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。
ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。
だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。
……俺も、ちゃんと応えたい。
笑って泣けて、めいっぱい甘い!
騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー!
※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
【完結】君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました
小池 月
BL
大学一年の半田壱兎<はんだ いちと>は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。
壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。
加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。
大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。
そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢<あいかわ ひろむ>だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。
☆BLです。全年齢対応作品です☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる