【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

4 報告書は作成中  鶴丸

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「ぶっ。ふっ」

 じい様の斜め後ろから、くぐもった声がする。ふみを置いて頭を下げ、素早く元の位置へ戻っとった相間そうまが肩を震わせとる。じい様も、ふかーく呼吸してから、んんっと空咳をした。
 ん?

「あ、こりゃすまん。いや、何せまさか皇家からこうして御使者が来られるなんて思たことも無かったんで、気が動転してしもてなあ」
「気が動転……んんっ。ええまあ、お気持ちお察し致します」

 父上の言葉に、じい様はええ笑顔で答えた。あれや。いっつもの穏やかそうに作った顔やない笑い顔で。これ、あれか。笑いを堪えようとして諦めたやつか。
 ……?何か笑うとこあったかな。
 首を傾げとると、先ほど茶を出して去った女中がやって来て、奥さんに、書き物の準備ができましたと言った。

「あの、すんません。うち、ちょっと成人なるひと殿下への返信をしたためてきます。すぐ書きますんで、待っててもろてもええやろか」
「もちろんです。お早い返信を頂けたら、成人なるひと殿下は大変にお喜びになると思います」
「そう?ほな、良かった。つるさま、うちが書いてええやんな?」
「もちろん。頼んだで」

 奥さんが席を外すと、茶をひと口飲んだじい様がにこやかなまま口を開く。

鶴丸つるまるさまは、外では咄嗟の機転もよくお利きになる優秀な方ですのに、おうちではこのようにのんびりと過ごしていらっしゃることに驚きました。お父上が頼りになる方であられるから、安心していらっしゃるのでしょうな」
「いや、これはどうものんびりであかんのや。基本、自分のやりたいことしかせえへんしな。褒めてもうて申し訳ないけど、咄嗟の機転が利くって言われても想像もつかんな?つるが?」
「ええ。九鬼の城中にて、真中まなかの前当主が成人なるひと殿下へ無礼を働いた際、成人なるひと殿下の願い通りの罰を名代みょうだいとして、その場で見事に真中まなかの前当主へ下されましてございます」
「は……?」

 父が、こちらをじろりと睨む。
 流石にこの件は、後できちんと報告するつもりやったで。書類で報告した方がええんか口頭で言おうか迷って、まだ報告しとらんかっただけで。

成人なるひと殿下の口にされた真中まなかの前当主への罰を正確に理解された鶴丸つるまるさまが、西国なりの言い回しで真中まなかの前当主へ罰を申し渡した場面は、そりゃあもう舞台役者もかくやという見事さでございました」

 いや、じい様にそんな褒められたら照れ……。

「つ、る、ま、るー。お前、ほんまに」
「父上。この件が重要やとは流石に分かっとります。書類で出そうと思てまだ書けてないだけですやん。元真中まなかのおっちゃんの髪の毛が実はあんまり残ってなかったこととか、ちゃんと詳しく書きますよってちょっと時間をください」
真中まなか殿の髪の毛の量、どうでもええわ」
「ええ?あと、真中まなかや、父上。今は名字剥奪された平民やさかい」
「お前が報告せな知らんわ、そんなこと!」
「あ、そうか」
「は、ははっ」
「くくく」

 おや?

荘重むらしげ。見てみい。この通りや。つるのそんな姿がほんまのことなら、俺にも見してほしいもんやで。荘重むらしげ。九鬼の城に共におったんなら、すまんけど、あちらであった諸々を其方そなたが説明して帰ってくれるか」
「ええ。分かる範囲、話せる範囲でよろしければ喜んで」
「ありがとう。これで安心や」

 ええー。ちゃんと報告書、出すのに。
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