【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

13 先を見るために 成人

「あれだな。いっぺんには覚えられないかもしれないが、うちの者とちゃんと顔合わせをしなくちゃならんな」
「そうですよね。源さんは、臨時雇いじゃなくてこちらで暮らす、という事で話はついたんだから」
「ああ。まあ……」

 座っておやつを食べながら、広末ひろすえ村次むらつぐが話す。

壱臣いちおみさんも、言葉足らずなとこあるからなあ。任せてたら、え、知らんかったっけって言いそうだ」
「言いますね、きっと。今日だって、壱臣いちおみさんは仕事がお休みだってこと、源さんに言ってなかったんでしょ?」

 源さんは、何だか苦いものを食べたような顔になった。栗の茶巾絞り、甘くてほろほろなのに。これ、美味しい。好き。
 お茶も苦くないよ?

「朝に、今日の予定を聞きにおみの部屋へ行ったら、あの男が出てきて、おみと自分は今日は休みやと言いやがった」
「あの男?」
成人なるひと。しっ」

 村次むらつぐに言われて口を閉じる。源さんって、すごく喋る時と全然喋らない時あるよね?壱臣いちおみの話の時はたくさん喋るのかな。

「まあ、慣れるまで色々あるだろうけど、とりあえずここに来てこうして喋ってるだけでもいいんで、休みの時に半助はんすけさんに邪険にされたら愚痴りに来てください」

 村次むらつぐが言ったら、はああと源さんがため息を吐いた。

「生きるんと生かすんに必死でな」

 源さんはぽつりと呟く。

おみはそのうち殿に返すんや、それまで何とか無事に育てなってもうそればっかりで。そのうち可愛い嫁さんもらって、子どもやらできて普通に暮らしていくんかな、みたいな先を思い描いたことは無かったけど……。けどなあ……」

 無かったのかー。
 俺も無かったよ。一緒だ。命の先なんて無かった。あるのは、今その時ばかりで。
 緋色ひいろはあったのかな。広末ひろすえは?村次むらつぐは?
 常陸丸ひたちまるはきっと、あったんじゃないかな。乙羽おとわと結婚してずっと一緒にいる、そんな先のことを見てたかもしれない。だから、生きようとする気持ちが強くて、あんなに強くなれたのかな。広末ひろすえも、斑鹿乃むらかのと結婚したいと思った時に強くなった?その先にいる末良すえよしが見えたんだろうか。
 壱臣いちおみ半助はんすけも生きる気待ちがあんまり無かったのに、二人で生きることに決めたらすごく強くなった。美容液の店に髪の手入れの予約を入れたりして、先を見るようになった。
 俺も。たぶん、緋色ひいろもおんなじ。強くなって、先の予定をどんどん入れてる。一緒にたくさんのことをしたい。それが楽しくて幸せだから、少しでも長くそうしていたい。
 村次むらつぐは、料理人やろうって決めて足がちょっと良くなった時に強くなったよね?それも、先が見えたから?
 足の痛いのが少し良くなったら、源さんにも先が見えるかな。

「やっぱり、病院行くので正解だ」

 俺が言ったら、源さんはへ?と首を傾げた。

「また、だいぶ話が飛んだな、これは」
「流石にこの脈絡は分からないな……」

 え?なんで?
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