【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

75 俺は覚えてるけど  成人

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 そのままでええ、って鶴丸つるまるは言ったけど、お客さんは皆、包拳礼をして頭を下げた。静かに、緋色ひいろの方を向いて頭を下げた。
 
「八百屋。ご苦労」
「はっ」

 皆の礼の先から聞こえた緋色ひいろの声に目を見開いた蕪木かぶらぎが、がたがたと震え出す。
 緋色ひいろは名乗ったりしない。包拳礼を受けて立っているだけ。清さんに、言葉をかけただけ。それだけで、名乗らなくても皆分かる。帽子を被ったままだから、顔もそんなに見えていないんだけど、でも分かる。服に赤が入ってなくても、きっと皆分かっちゃうんじゃないかな? だって緋色ひいろだ。格好良い俺の旦那さま。

「ほな、行こか」
「あ、ああああ、あの、私は……」
「あ、ちょっと口閉じといて。こんなとこで喚かれても、お客さんに迷惑やからな。ほら、見てみ? すでにかなり迷惑かけとるやん? 場所変えるから、そっちで頼むわ」
「い、い、いや、しかし、その、」
「耳ないんかなー。うち、そんな気ぃ長そうに見える?」

 見えなーい。
 蕪木かぶらぎ鶴丸つるまるに引きずられて移動した。言うことをちゃんと聞かないとことか、なんか偉そうなとことか、弐角にかくの城にいた話をきかない人たちに似てる。護衛の男は黙って後をついてきた。賢い。
 商店街から少し離れた所に停めた車の所に戻った。その場所が、荷物を運ぶ人や車で混むのは朝早くなので、お昼過ぎの今は空いている。二台停まっていた大きめの車の中にいた人が、俺たちを見て降りてきた。四人。みんな髪の毛が長いから、たぶん西の人。

「こ、これは、一体……?」
蕪木かぶらぎの関係者? ずいぶんぎょうさん引き連れとるな」
「お前ら、手ぇ出すな!」
 
 蕪木かぶらぎが大きな声を出した。うるさい……。車から降りてきた四人が戦闘できる人なら余計に、そんなこと言われなくてもしないと思う。深呼吸してもやっぱり殺気を抑えきれてない那月なつき半助はんすけ、体を動かすのが大好きな鶴丸つるまる常陸丸ひたちまるが見えてるんだよ。見えてないとこにも二人いるの分かるでしょ? 緋色ひいろと俺も、足でまといになる気は全然ない。

「ほな、お話しましょか」

 蕪木かぶらぎの腕を離した鶴丸つるまるが、にっこり笑って言った。朱実あけみ殿下みたいな顔だった。鶴丸と朱実殿下は全然似てないのに、何でかそう思った。
 蕪木かぶらぎは地面に座って平伏しかけてから止まり、少しして、手は包拳礼の形で頭を下げた。それを見た車から出てきた人たちと護衛も、同じ形になった。

「どうも、蕪木かぶらぎさん。西賀さいか各務かがみ鶴丸つるまるです。あんたに会うん初めてやけど、責任者みたいやし会えて良かったわ。今まで、うちの領地で採れる果物や野菜を纏めて買うてくれて、他所よそで売ってくれとってありがとう。ずいぶん人気で驚いたで。上手に売ってくれとって嬉しいわ」
「さ、西賀さいかの次期様にそう言うてもらえると、私どもも、頑張った甲斐があったいうか、その、これからも……」

 蕪木かぶらぎが、勝手に顔を上げた。鶴丸つるまるが、ありがとうって言ったから安心したのかな。さっき鶴丸つるまるが、許す気ないでって言ってたの、忘れちゃった? 俺は覚えてるんだけど。

「けどなあ、これからはよう頼めん。どうにも納得いかんことが幾つかあってなあ。まず、うちの領地の品やと、買うてくれとる人が知らんのよ。知らんどころか、西中さいちゅう国の特産やと言うとる人が多くてなあ。なんでやろな? おかしなことやで。あと、値がな。うちから出た時の倍以上の値になっとって、ずいぶんと高級品扱いされとったんや。いくら何でも値を上げすぎちゃうかな? なあ? そう思わへん?」

 鶴丸つるまるはさっきからの笑顔のままだけど、蕪木かぶらぎは笑いかけた顔の途中で固まった。
 思い出した?
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