【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

76 ほな、さいなら  成人

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「た、高うなるんはしゃあない……」
 
 ぐっと口元を引き締めた蕪木かぶらぎが、ぼそっと呟いた。それから、下を向いて叫ぶ。

「運ぶんに人手がいる! 燃料費がいる! 保管にも気ぃ使う。うちらの取り分もいる。当たり前やないですか!」

 おおお。蕪木かぶらぎのこと、ちょっと見直した。その通りだ。

「そやな。ほんまそれ、その通りや」
「で、でしょう?」

 蕪木かぶらぎがぱっと顔を上げる。なんで、鶴丸つるまるがちょっと柔らかい声出しただけですぐ、大丈夫だと思っちゃうんだろう。面白い人だな。

「うちんとこから定期的に買うてくれて、売ってくれて、ありがたいなって思っとったんやで。けどな、いくら何でもあんたらの取り分多すぎんか? あと、産地がうちやなくなっとるんはおかしないか?」
「さ、早急に修正致します。取り分いうて、わ、私の懐に全部入っとる訳やないで私は知らんかったんや。間に人がようけ入っとるうちにそれぞれに手数料がかかっとったら、売値がそないなってしもたんちゃうかな? そや。そうに違いない。産地の件かて現場の、そう現場の者の勘違いや! きっと人から人へ渡っとるうちに勘違いしてしもた者がおったんやわ。そういうことです、鶴丸つるまるさま!」

 ぞっ……と背筋に何かが這ったような気がした。ほんの一瞬。それに応えるように常陸丸ひたちまる半助はんすけ那月なつきからも何か漏れる。姿の見えない二人からも。……緋色ひいろと俺からも。
 蕪木かぶらぎの車から降りて地面に座り込み、包拳礼をして頭を下げたままの人たちと護衛からも反射的に何か出た。それを抑えようと小さく震えていた。

「名前」

 鶴丸つるまるの低い声。そんな声、出るんだー。びっくり。ちょっと格好良い。

「よぶ許可、与えたっけ?」

 名前よんでいいよって言ってない。名乗ったけど。名乗ったってことはよんでいいって事ではないのかな? 気を付けよう。

「え?」

 一人だけ、鶴丸つるまるから漏れた殺気に気付いていない蕪木かぶらぎが面白くって、真剣に観察してしまった。分からない人って、本当に分からないんだな。こんなに。こんなに怖いのに。なんか、なんかこう、感じたりしないのかな。不思議だ。

「ま、ええわ。飽きた。これからは勘違いも何も起きんように、間に人が入り過ぎて売値が高うなりすぎんように、うちでその辺の作業も全部するつもり。今までありがとう」 
「し、商売は、そんな簡単なもんやない。素人が、すぐできるほど……」

 護衛が動いて、蕪木かぶらぎの口を押さえた。

「こんなのでもあるじか」

 緋色ひいろの声。
 そういうもの?

「大人しく国に帰れ」

 緋色ひいろの声に、礼をしてた人達が一斉に、更に頭を下げた。蕪木かぶらぎは、護衛に無理やり押さえられて下げていた。

「ほな、そういうことで」

 さいなら、と言った鶴丸つるまるは、もう蕪木かぶらぎの方を見てもいなかった。
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