【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

133 図書室のような部屋  成人

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 その狭い部屋は薄暗かった。壁に沿ってだけでなく、人が一人通れるか通れないかくらいの幅だけ開けて真ん中にも置かれた棚に並んだ本や書類はすごい量で、部屋の中は独特の匂いがした。なんとなく覚えがある匂い。
 ああ、あそこだ。離宮の、本がたくさん置いてある部屋。あそこと同じような匂い。緋色ひいろが図書室って言ってた部屋。俺には読むのが難しいような本がたくさんある部屋だ。
 放っておいたら、本であふれていく睦峯むつみねの部屋。仕事用の机にもたくさん積んであるけれど、部屋の中はそれどころじゃ無かったらしい。睦峯むつみねと一緒の部屋に暮らしている、片付け上手のさいにも片付けられない量になって、困って、緋色ひいろに相談したんだって。そうしたら緋色ひいろが、空いている部屋に大きな本棚を置いて図書室を作った。部屋に置ききれない本は、皆、ここへ置けって緋色ひいろが言ったら、生松いくまつの部屋からも、こんなに置いてあったの? ってびっくりするくらいの量の本が出てきた。どこで寝てたんだろ、生松いくまつ。図書室作って良かった。
 図書室は、しばらくは、医師二人の物置きみたいになっていたけど、じいじが、本を読むのが好きだったっていうじいじの伴侶の読んでいた本を運んできて並べたら、乙羽おとわ水瀬みなせが出入りし始めた。気配が薄いから分かりにくけど、村次むらつぐのお母さんの佐鳥さとりもたまに入ってると思う。じいじは、本を読むわけじゃないけどたまに図書室にいて、伴侶の読んでいた本の背表紙を眺めている。三郎さぶろうも、本を手に持っている時があった。
 じいじの伴侶が好きだった本を皆で楽しんでいるんだな、きっと。
 図書室っていうのは、そういう部屋なんだって。学校や皇城にもあるらしい。本は、読んでも減るものじゃないから、何人でも同じ一冊で楽しめる。だから、借りたりできる。大切にすれば、いつまででも楽しめるんだよって青葉あおばに教えてもらった。今度、青葉あおばの持っている本もこちらに少し持ってこようかな、って言っていたから、楽しみ。俺の持っている大事な絵本も、常陸丸ひたちまる力丸りきまるが小さい頃に読んでいたのをもらったものだからね。そうやって同じものを読んでいたら、あれ、面白かったよね、とか話せていい。俺の絵本も、そのうち図書室に置こうかな。末良すえよし亀吉かめきちが遊びに来た時に貸してあげてもいいから。あ、もちろん、朱音あかね殿下も。
 この図書室は、図書室っぽいんだけど、散らかした睦峯の机に近い感じだった。とにかく本や書類を積んで詰め込んで、あふれている。斎を呼んでこないとどうにもならないかもしれないくらい散らかっていた。
 ただでさえ狭いのに、隙間に細く長い机が置いてあって、その上にもたくさんの書類が積んであった。ところどころ空いている隙間で書き物をしていたんだろうなって分かる感じ。机の前に置かれたぺったんこの座布団三つは、色褪せていた。

緋色ひいろ、電気は?」
成人なるひと。茶か?」
「うん。ここ暗いよ?」

 図書室っぽい部屋で、緋色ひいろ常陸丸ひたちまる弐角にかく鶴丸つるまるが立ったまま書類をめくっていて、俺が声を掛けると、はっと顔を上げた。

「ああ、電気……。半分切れているらしい」
「付け替えないの?」
「ああ、確かに」

 弐角にかくが、今気付いたって顔で言った。
 部屋の外にいた弐角にかくの護衛の才蔵さいぞうが、一つ頷いて走っていった。

「つ、疲れた……」

 鶴丸つるまるが、書類を手に急に座り込む。緋色ひいろは、書類を適当に目の前の棚に置いて俺に抱きついた。その書類、読みかけって分かんなくならない? 大丈夫? あ、常陸丸ひたちまるがさっと持ち上げた。ありがと。流石、慣れてる。
 あれ? 常陸丸ひたちまるも書類読んでるの? まあ、いつも通りか。

「もう、いやだ」

 三人が、同じことを言ってため息を吐いた。常陸丸ひたちまるも、ため息を吐いていた。
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