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第十章 されど幸せな日々
31 迎えが来たなら 大一郎
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「ほな、其方の事は放免とします」
少し身なりの良い女が、先ほどまでのにこやかさはどこへ、という表情でこちらを見ながら言う。
やかましい子らはあっという間に去った。体の大きな年配の男と、緋色殿下の伴侶やと名乗る不具の子も。共におったはずの家臣らは、とうに姿が見えぬ。わしを一人置いてどこぞへ行くとは、なんという不敬や。先ほど、緋色殿下に誤解を受けてわしに危険が迫っとった際も、誰一人助けようとせなんだ。これまで、散々目をかけてやっとったいうのに、肝心な時に役に立たんとは。
迎えが来た時には、あ奴ら全て、ここへ捨て置くこととしよう。正一郎もまた然り。あ奴は、元から要らんものであったしな。
後継が居らねばならぬ、と周りがうるさいから、これが後継やと言うてはおった。が、元より家督を譲る気など毛頭なかった。わしは、まだまだ百年二百年と生きて、わしの国を西国一の強国として外に知らしめねばならん。不老不死の薬も手に入る目処が立ち、皇家とも上手いこと繋がりができそうやと思うとった矢先に、訳の分からんことに巻き込まれたんや。
緋色殿下に逆らう事などできん。この世に数少ない、わしより貴い御方やからな。仕方なく、正一郎に家督を譲った振りをして身を隠しておったのに。ほとぼりが冷めたら、全ては元通りになる筈やったのに。
ほんまに、訳が分からん。なんや、これ。なんなんや、これ。なんで、わしがわしの国から追い出されとるのか。なんでまだ、それはおかしい、殿がおらな国は立ち行かん、と言うて追いかけてくる迎えが来んのか。
寒空の下残ったのは、身なりの良い女と、わしの手を取っておきながら、引き上げるどころか引っくり返しよった忌々しい女のみ。
「放免……やて?」
「ええ。どこへでも、好きな所へ行けばよろしい」
「は?」
勝手によその国へ運んでおいて、なんや、その言い草は。わしの迎えが来るまで、確とわしの面倒をみるんが、お主らの仕事であろう?
「手荷物くらいは持たせたろか」
「あるんですかね?」
「皆、持っとったやろ。この者もあるんちゃうか?」
わしを引っくり返した女が身軽に動いて、バスの中を確認しに行く。身なりの良い女、この、国と言えるんかどうかも分からん田舎国の領主夫人とかいう女を、一人残して動くとは……。
「ぐぅ」
組み敷いてやろうと腰を上げかけ、痛みに呻いた。先ほどの無体で、腰を強かに打ちつけたらしい。
「まあ」
このわしが苦しんどるというのに、女は突っ立ったまま。なんと躾のなっとらんことか。
「早う、医師を呼べ」
わしの言葉に目を見開いておる。言われる前に動くことが出来る者が、この田舎国にはおらんのか。
「それと、あの女は処分せえ」
「其方……少し動くと全てを忘れる病でも患っとるんか?」
「は?」
「いや、全てってわけやないな? 昔のことは覚えとって、直近のことを忘れる……ああ!」
女は、ぽんと手を打った。
「歳を取ると発症する事があるあれか。もの忘れの多くなる……」
「こ、この女、何を」
言うに事欠いて、年寄りの激しいもの忘れの病やと? この女こそ、わしの世話係としてここへ来たことを忘れたと見える。
腰の痛みを押して立ち上がりかけると、ゆらりと横に立つ者があった。手を取られた、と感じた瞬間にひっくり返されている。また、腰を強かに打ちつけ、ぐうっと声が出た。
「荷物はありませんでした」
「まあ……」
何をそんなに驚いとるんや。
何や知らんが、まずは早うこの女を処分せえ。
少し身なりの良い女が、先ほどまでのにこやかさはどこへ、という表情でこちらを見ながら言う。
やかましい子らはあっという間に去った。体の大きな年配の男と、緋色殿下の伴侶やと名乗る不具の子も。共におったはずの家臣らは、とうに姿が見えぬ。わしを一人置いてどこぞへ行くとは、なんという不敬や。先ほど、緋色殿下に誤解を受けてわしに危険が迫っとった際も、誰一人助けようとせなんだ。これまで、散々目をかけてやっとったいうのに、肝心な時に役に立たんとは。
迎えが来た時には、あ奴ら全て、ここへ捨て置くこととしよう。正一郎もまた然り。あ奴は、元から要らんものであったしな。
後継が居らねばならぬ、と周りがうるさいから、これが後継やと言うてはおった。が、元より家督を譲る気など毛頭なかった。わしは、まだまだ百年二百年と生きて、わしの国を西国一の強国として外に知らしめねばならん。不老不死の薬も手に入る目処が立ち、皇家とも上手いこと繋がりができそうやと思うとった矢先に、訳の分からんことに巻き込まれたんや。
緋色殿下に逆らう事などできん。この世に数少ない、わしより貴い御方やからな。仕方なく、正一郎に家督を譲った振りをして身を隠しておったのに。ほとぼりが冷めたら、全ては元通りになる筈やったのに。
ほんまに、訳が分からん。なんや、これ。なんなんや、これ。なんで、わしがわしの国から追い出されとるのか。なんでまだ、それはおかしい、殿がおらな国は立ち行かん、と言うて追いかけてくる迎えが来んのか。
寒空の下残ったのは、身なりの良い女と、わしの手を取っておきながら、引き上げるどころか引っくり返しよった忌々しい女のみ。
「放免……やて?」
「ええ。どこへでも、好きな所へ行けばよろしい」
「は?」
勝手によその国へ運んでおいて、なんや、その言い草は。わしの迎えが来るまで、確とわしの面倒をみるんが、お主らの仕事であろう?
「手荷物くらいは持たせたろか」
「あるんですかね?」
「皆、持っとったやろ。この者もあるんちゃうか?」
わしを引っくり返した女が身軽に動いて、バスの中を確認しに行く。身なりの良い女、この、国と言えるんかどうかも分からん田舎国の領主夫人とかいう女を、一人残して動くとは……。
「ぐぅ」
組み敷いてやろうと腰を上げかけ、痛みに呻いた。先ほどの無体で、腰を強かに打ちつけたらしい。
「まあ」
このわしが苦しんどるというのに、女は突っ立ったまま。なんと躾のなっとらんことか。
「早う、医師を呼べ」
わしの言葉に目を見開いておる。言われる前に動くことが出来る者が、この田舎国にはおらんのか。
「それと、あの女は処分せえ」
「其方……少し動くと全てを忘れる病でも患っとるんか?」
「は?」
「いや、全てってわけやないな? 昔のことは覚えとって、直近のことを忘れる……ああ!」
女は、ぽんと手を打った。
「歳を取ると発症する事があるあれか。もの忘れの多くなる……」
「こ、この女、何を」
言うに事欠いて、年寄りの激しいもの忘れの病やと? この女こそ、わしの世話係としてここへ来たことを忘れたと見える。
腰の痛みを押して立ち上がりかけると、ゆらりと横に立つ者があった。手を取られた、と感じた瞬間にひっくり返されている。また、腰を強かに打ちつけ、ぐうっと声が出た。
「荷物はありませんでした」
「まあ……」
何をそんなに驚いとるんや。
何や知らんが、まずは早うこの女を処分せえ。
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