1,253 / 1,325
第十章 されど幸せな日々
44 隣国を歩く 正一郎
しおりを挟む
案内されるままに、歩いて歩いて歩いて、かなりの距離を移動した。生まれてこの方、こんなに歩いたのは初めてや。歩き慣れない我らと、すたすたと足を進める案内人との距離は、気を入れて必死に足を動かしてもすぐに遠く離れてしまう。
はじめは、ついて来れないなら置いていくぞ、という心積もりであるんかとも考え、はあはあと息を弾ませながら必死について行った。けど、案内人は、我らを置いていくつもりも困らせるつもりもなかったようで、距離が開く度に足を止め、
「速かったか? すまん」
と口にした。
歩いている間に何かを言う訳でもなく、ただ黙々と先を行く。時々、足を止めて待ってくれる。私らがついて行けないので、少しずつ歩く速度も緩めてくれているんやろう。それでも、体を動かすことに慣れない私らがついて行くのは、かなり大変なことであった。
案内人は、たったの一人。どのくらいの身分の者かも分からん男。髪は、短くもなく長くもない。
一つに適当に括って、邪魔にならんようにだけしとるんやな、という印象。西中国なら城の下働きの長さ。けど、ここは西賀国。安易に下っ端やと判じられるもんでもない。
ああ、いや、この考えがあかん。……名字を取り上げられた我らより下っ端の者などおらんのやと肝に銘じんと。
男は、たった一人で私たち六人を連れて歩く。私には察することもできんけど、きっと、六人が一斉に暴れても取り押さえることができるくらいの武を誇る者なんやろう。
西賀国は、国とか言うとるけどな、あんなん国でも何でもないで。田舎の村や、村。わしらの国の僻地の村やと思っとったらええ。
父の言葉が頭をよぎる。父は、西賀国のことをそう言うとった。
そうやないことを、私はもう知っとる。武に秀でた人々の暮らす、西中国とは違う国。
父は、バスの中で騒ぎを起こして降ろされたまま、姿を見とらん。バスから降りた際に聞こえてきた話からは、どうやら、共に屋敷に着いたトラックに猪と共に乗せられておったらしい。
森の中に捨て置かれずに良かったことだ、と思ったり、父の粗相のことを思い出して、そのような恥を晒してまで自分なら生きてはおられん、捨て置かれた方がマシかもしれん、と思ったり、考えは千々に乱れて頭の中を行き交う。
私より年配の父の重臣たちは、正に息も絶え絶えで歩いていた。私が代替わりした時に共に代替わりしたのは一人だけやったから、若いのは私ともう一人だけ。父が、実権を手放す気が欠片もなかった証。
まあ、もうどうでもええんやけど。
実務の手伝いをしてほしい、と言われて渡された書類は何ほども片付けられず、西中国に入ったばかりの各務家の仕事の早さに感謝する声を聞いた。
これでは雇えん、と言われた。
仕事をしとるつもりで、何もできとらんかった。
今に誰かが蜂起してわしらを救いに来る、という父の妄言に呆れた。
そんな事を考えながら歩いとるうちに、一人ずつ、或いは二人まとめて、色んな家に預けられていく。
「これからの仕事場や。気張るんやで」
置かれた者たちは、もうすっかり疲れ果てて、返事もせずに置いていかれとったけど、そうか、仕事場か。
小さな家。周りには畑。そして山。または、何かを加工するような工場。
私らに、出来ることなどあるんやろか……。歩くのもやっとな、私らに。
はじめは、ついて来れないなら置いていくぞ、という心積もりであるんかとも考え、はあはあと息を弾ませながら必死について行った。けど、案内人は、我らを置いていくつもりも困らせるつもりもなかったようで、距離が開く度に足を止め、
「速かったか? すまん」
と口にした。
歩いている間に何かを言う訳でもなく、ただ黙々と先を行く。時々、足を止めて待ってくれる。私らがついて行けないので、少しずつ歩く速度も緩めてくれているんやろう。それでも、体を動かすことに慣れない私らがついて行くのは、かなり大変なことであった。
案内人は、たったの一人。どのくらいの身分の者かも分からん男。髪は、短くもなく長くもない。
一つに適当に括って、邪魔にならんようにだけしとるんやな、という印象。西中国なら城の下働きの長さ。けど、ここは西賀国。安易に下っ端やと判じられるもんでもない。
ああ、いや、この考えがあかん。……名字を取り上げられた我らより下っ端の者などおらんのやと肝に銘じんと。
男は、たった一人で私たち六人を連れて歩く。私には察することもできんけど、きっと、六人が一斉に暴れても取り押さえることができるくらいの武を誇る者なんやろう。
西賀国は、国とか言うとるけどな、あんなん国でも何でもないで。田舎の村や、村。わしらの国の僻地の村やと思っとったらええ。
父の言葉が頭をよぎる。父は、西賀国のことをそう言うとった。
そうやないことを、私はもう知っとる。武に秀でた人々の暮らす、西中国とは違う国。
父は、バスの中で騒ぎを起こして降ろされたまま、姿を見とらん。バスから降りた際に聞こえてきた話からは、どうやら、共に屋敷に着いたトラックに猪と共に乗せられておったらしい。
森の中に捨て置かれずに良かったことだ、と思ったり、父の粗相のことを思い出して、そのような恥を晒してまで自分なら生きてはおられん、捨て置かれた方がマシかもしれん、と思ったり、考えは千々に乱れて頭の中を行き交う。
私より年配の父の重臣たちは、正に息も絶え絶えで歩いていた。私が代替わりした時に共に代替わりしたのは一人だけやったから、若いのは私ともう一人だけ。父が、実権を手放す気が欠片もなかった証。
まあ、もうどうでもええんやけど。
実務の手伝いをしてほしい、と言われて渡された書類は何ほども片付けられず、西中国に入ったばかりの各務家の仕事の早さに感謝する声を聞いた。
これでは雇えん、と言われた。
仕事をしとるつもりで、何もできとらんかった。
今に誰かが蜂起してわしらを救いに来る、という父の妄言に呆れた。
そんな事を考えながら歩いとるうちに、一人ずつ、或いは二人まとめて、色んな家に預けられていく。
「これからの仕事場や。気張るんやで」
置かれた者たちは、もうすっかり疲れ果てて、返事もせずに置いていかれとったけど、そうか、仕事場か。
小さな家。周りには畑。そして山。または、何かを加工するような工場。
私らに、出来ることなどあるんやろか……。歩くのもやっとな、私らに。
1,734
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
【完結】君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる