【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第十章 されど幸せな日々

44 隣国を歩く  正一郎

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 案内されるままに、歩いて歩いて歩いて、かなりの距離を移動した。生まれてこの方、こんなに歩いたのは初めてや。歩き慣れない我らと、すたすたと足を進める案内人との距離は、気を入れて必死に足を動かしてもすぐに遠く離れてしまう。
 はじめは、ついて来れないなら置いていくぞ、という心積もりであるんかとも考え、はあはあと息を弾ませながら必死について行った。けど、案内人は、我らを置いていくつもりも困らせるつもりもなかったようで、距離が開く度に足を止め、

「速かったか? すまん」

 と口にした。
 歩いている間に何かを言う訳でもなく、ただ黙々と先を行く。時々、足を止めて待ってくれる。私らがついて行けないので、少しずつ歩く速度も緩めてくれているんやろう。それでも、体を動かすことに慣れない私らがついて行くのは、かなり大変なことであった。
 案内人は、たったの一人。どのくらいの身分の者かも分からん男。髪は、短くもなく長くもない。
 一つに適当に括って、邪魔にならんようにだけしとるんやな、という印象。西中さいちゅう国なら城の下働きの長さ。けど、ここは西賀さいか国。安易に下っ端やと判じられるもんでもない。
 ああ、いや、この考えがあかん。……名字を取り上げられた我らより下っ端の者などおらんのやと肝に銘じんと。
 男は、たった一人で私たち六人を連れて歩く。私には察することもできんけど、きっと、六人が一斉に暴れても取り押さえることができるくらいの武を誇る者なんやろう。
 西賀さいか国は、国とか言うとるけどな、あんなん国でも何でもないで。田舎の村や、村。わしらの国の僻地の村やと思っとったらええ。
 父の言葉が頭をよぎる。父は、西賀さいか国のことをそう言うとった。
 そうやないことを、私はもう知っとる。武に秀でた人々の暮らす、西中さいちゅう国とは違う国。
 父は、バスの中で騒ぎを起こして降ろされたまま、姿を見とらん。バスから降りた際に聞こえてきた話からは、どうやら、共に屋敷に着いたトラックに猪と共に乗せられておったらしい。
 森の中に捨て置かれずに良かったことだ、と思ったり、父の粗相のことを思い出して、そのような恥を晒してまで自分なら生きてはおられん、捨て置かれた方がマシかもしれん、と思ったり、考えは千々に乱れて頭の中を行き交う。
 私より年配の重臣たちは、正に息も絶え絶えで歩いていた。私が代替わりした時に共に代替わりしたのは一人だけやったから、若いのは私ともう一人だけ。父が、実権を手放す気が欠片もなかったあかし
 まあ、もうどうでもええんやけど。
 実務の手伝いをしてほしい、と言われて渡された書類は何ほども片付けられず、西中さいちゅう国に入ったばかりの各務かがみ家の仕事の早さに感謝する声を聞いた。
 これでは雇えん、と言われた。
 仕事をしとるつもりで、何もできとらんかった。
 今に誰かが蜂起してわしらを救いに来る、という父の妄言に呆れた。
 そんな事を考えながら歩いとるうちに、一人ずつ、或いは二人まとめて、色んな家に預けられていく。

「これからの仕事場や。気張るんやで」

 置かれた者たちは、もうすっかり疲れ果てて、返事もせずに置いていかれとったけど、そうか、仕事場か。
 小さな家。周りには畑。そして山。または、何かを加工するような工場こうば
 私らに、出来ることなどあるんやろか……。歩くのもやっとな、私らに。
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