1,272 / 1,325
第十章 されど幸せな日々
63 趣味のようなもの 成人
しおりを挟む
執務室にしている広い畳の部屋に入ったおーちゃん達にはまず、じいやが作った内緒の見取り図を見せた。西中国のお城は広いからね。何となくでいいから見ておかないと迷子になっちゃう。でも、見取り図を複製して一人ずつに渡す訳にはいかないから、覚えてもらうしかない。覚えるの苦手な人は言って。俺はばっちり覚えたから、案内するよ?
執務室ではいつも通り、文官チームが書類に囲まれていた。でも、大急ぎで何かしている感じでもない。誰も目の下に隈はできていないな。よしよし。湯呑みもそれぞれの机に置かれていて、いい感じ。末良が作った料理も、ぽつぽつと机に置かれている。今日も末良は、この部屋でお料理をしていたみたいだ。いいねえ。楽しいねえ。今も、俺の後ろに玩具の料理道具を運んできて、せっせと鍋をかき混ぜている。お、味見までするんだ? 流石。
「おおお」
おーちゃん達はみんな、それだけ言って黙って地図を眺めている。
「これは?」
しばらくしてから、おーちゃんが言った。
「じいやが作った」
「な、るほど……? 九条さまが? こんな細かい作業までできはるとは」
「んーん。じいじじゃなくてじいや」
「あ」
俺の服をぎゅっとつかんで立っていた亀吉が、部屋の一か所を指さした。
お、すごい。
「やれやれ。末恐ろしい若君でございますな」
じいやが俺たちの横で笑う。
「じいや。ただいま」
「おかえりなさいませ、成人殿下」
俺たちが挨拶をしている横で、おーちゃん達がひゅっと息を飲んだ。その人たちへ向かって、じいやがぴしりと頭を下げる。
「一ノ瀬荘重と申します。成人殿下の護衛を、ただいま九条利胤さまと交代いたしました。どうぞお見知りおきください」
「は、ははっ。各務家家老、各務原朧でございます。こちらこそ、よしなに」
うんうん。挨拶も終わったね。
じいやのことだから、ここにいる人はもう覚えただろう。
「あの、これ、この見取り図は、一ノ瀬殿。その……」
「ふむ。ま、趣味のようなものです。城が好きでして。どう落とそうかと考えると、血沸き肉踊ります。あ、各務原さま、呼び名は荘重でお願い致します。一ノ瀬は今回、幾人も連れてきておりましてな。一ノ瀬、と呼ぶと、反応してしまう者が多い」
ふ、と気配がひとつ通り過ぎて行った。
びく、とおーちゃんと何人かが反応する。
流石、西賀の使用人たち。何か感じた?
「は? 落と……? あ、いえ。名前呼び、でございますな。了解いたしました。ではその、うちもこの後、弟が参る予定ですんで、名前で」
「おーちゃんだって」
「ん、おーちゃ」
「ほうほう、おーちゃん。呼びやすくて親しみやすくて、大変によろしい。しかし、私が家老殿をおーちゃんと呼ぶのはいかがなものか」
家老って偉いんだもんね? 殿さまの次だっけ? 教えてもらった。じゃあ、敬称がいるな。
「おーちゃん様?」
ぷ、くくく、とあちこちで笑い声がし始めた。うつむいて肩を震わせている人もいる。
様をつけると変だな。
「お、おぼろ、と呼んでいただけるとありがたく……」
ええ? 俺、おーちゃんって呼び方好きだけどな。
執務室ではいつも通り、文官チームが書類に囲まれていた。でも、大急ぎで何かしている感じでもない。誰も目の下に隈はできていないな。よしよし。湯呑みもそれぞれの机に置かれていて、いい感じ。末良が作った料理も、ぽつぽつと机に置かれている。今日も末良は、この部屋でお料理をしていたみたいだ。いいねえ。楽しいねえ。今も、俺の後ろに玩具の料理道具を運んできて、せっせと鍋をかき混ぜている。お、味見までするんだ? 流石。
「おおお」
おーちゃん達はみんな、それだけ言って黙って地図を眺めている。
「これは?」
しばらくしてから、おーちゃんが言った。
「じいやが作った」
「な、るほど……? 九条さまが? こんな細かい作業までできはるとは」
「んーん。じいじじゃなくてじいや」
「あ」
俺の服をぎゅっとつかんで立っていた亀吉が、部屋の一か所を指さした。
お、すごい。
「やれやれ。末恐ろしい若君でございますな」
じいやが俺たちの横で笑う。
「じいや。ただいま」
「おかえりなさいませ、成人殿下」
俺たちが挨拶をしている横で、おーちゃん達がひゅっと息を飲んだ。その人たちへ向かって、じいやがぴしりと頭を下げる。
「一ノ瀬荘重と申します。成人殿下の護衛を、ただいま九条利胤さまと交代いたしました。どうぞお見知りおきください」
「は、ははっ。各務家家老、各務原朧でございます。こちらこそ、よしなに」
うんうん。挨拶も終わったね。
じいやのことだから、ここにいる人はもう覚えただろう。
「あの、これ、この見取り図は、一ノ瀬殿。その……」
「ふむ。ま、趣味のようなものです。城が好きでして。どう落とそうかと考えると、血沸き肉踊ります。あ、各務原さま、呼び名は荘重でお願い致します。一ノ瀬は今回、幾人も連れてきておりましてな。一ノ瀬、と呼ぶと、反応してしまう者が多い」
ふ、と気配がひとつ通り過ぎて行った。
びく、とおーちゃんと何人かが反応する。
流石、西賀の使用人たち。何か感じた?
「は? 落と……? あ、いえ。名前呼び、でございますな。了解いたしました。ではその、うちもこの後、弟が参る予定ですんで、名前で」
「おーちゃんだって」
「ん、おーちゃ」
「ほうほう、おーちゃん。呼びやすくて親しみやすくて、大変によろしい。しかし、私が家老殿をおーちゃんと呼ぶのはいかがなものか」
家老って偉いんだもんね? 殿さまの次だっけ? 教えてもらった。じゃあ、敬称がいるな。
「おーちゃん様?」
ぷ、くくく、とあちこちで笑い声がし始めた。うつむいて肩を震わせている人もいる。
様をつけると変だな。
「お、おぼろ、と呼んでいただけるとありがたく……」
ええ? 俺、おーちゃんって呼び方好きだけどな。
1,928
あなたにおすすめの小説
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる