【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
1,289 / 1,325
第十章 されど幸せな日々

80 仲良し  成人

しおりを挟む
「なあ、成人なるひとくん。ほんまに? ほんまにうちも行くん?」

 壱臣いちおみが歩きながら、俺の右の袖をちょんと掴んで聞いた。決めた緋色ひいろは早い。乙羽おとわの手首を掴んだまま、雫石しずく母さまの部屋がある方向へすたすたと歩き始めてしまった。俺たちもついていくしかなくて、一緒に歩いている。緋色ひいろは、さっきと違って、俺や乙羽おとわがついていける速さで歩いていたから、壱臣いちおみと話す余裕もあった。

「うん」

 緋色ひいろがもう決めちゃったし。

「でも。でもな。うちだけ、皇妃殿下をお伺いしてええ理由がなくない? あかんくない?」
「うーん」
「そんなの、私だってないわよ!」

 乙羽おとわが振り返って言う。
 うーん。うん? そうかも?

「俺が、一緒に行きたいと言ったからいいんだ」

 ああ、うん。そうだ。前に俺が、乙羽おとわ力丸りきまるに金魚を見せたいって言ったら、成人なるひとちゃんと一緒にいらっしゃいって、母さまは言った。それなら、緋色ひいろも、連れて行きたい人を一緒に連れて行っていいんじゃないかな。常陸丸ひたちまる緋色ひいろの護衛だから、緋色ひいろが小さな頃からいつも一緒に行っていたし、半助はんすけは俺の護衛で一緒に行ったことがある。二人は、俺たちと一緒に行くのが当たり前。それで、乙羽おとわ壱臣いちおみは、俺たちが一緒に連れて行きたい人だから連れて行っていい。うん、ばっちり。

「殿下。いい加減、乙羽おとわの手を離せ」
「逃げられたら困るだろ」
「逃げるっておかしくない? 私は、もう陛下方へのご挨拶は済んだんだから、おうちに帰るって言ってるだけでしょ」
「そんなの俺だって済んだ」
「殿下は、陛下から、皇妃殿下にお顔をお見せしてきなさいとのご指示を受けたんでしょ」

 皇城の奥の方へどんどん進む。すれ違う人がほとんどいなくなって、近衛だけが立っている辺りへとやってきた。いつの間にか先触れがいっていたのか、緋色ひいろがいるからか、近衛は皆、ただ頭を下げて見送ってくれた。

「だーかーら! こうして向かってるだろうが」
「だーかーら! 私が一緒に行かなきゃいけない意味が分かんないって言ってるんでしょ」
緋色ひいろ乙羽おとわの手を離せって」

 仲良しだなあ。緋色ひいろ常陸丸ひたちまる乙羽おとわは、本当に仲良し。
 何となく顔を上げたら、壱臣いちおみと目が合った。ふふ、と二人で笑う。
 あ。
 壱臣いちおみが俺の袖を掴んだままだったから、俺たちも手を繋いで歩いているみたいになってたね。
 俺たちも仲良しだ。

「あれ?」

 俺たちが近寄る前にその扉は開いた。
 母さまの部屋。
 常陸丸ひたちまるが口を閉じて背筋を伸ばした。乙羽おとわも、すっと背筋を伸ばす。緋色ひいろが足を止めたから、俺たちも止まった。壱臣いちおみ半助はんすけも背筋を伸ばした。
 部屋から出てきたのは母さまだった。俺と緋色ひいろは頭を下げて、他の四人は包拳礼をした。

「帰国のご挨拶をしに参りました」

 緋色ひいろが、頭を下げたまま言う。

「そう……」

 母さまはそれだけ言って黙ってしまった。
しおりを挟む
感想 2,498

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました

小池 月
BL
 大学一年の半田壱兎<はんだ いちと>は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。  壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。  加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。  大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。  そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢<あいかわ ひろむ>だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。 ☆BLです。全年齢対応作品です☆

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

炊き出しをしていただけなのに、大公閣下に溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 希望したのは、医療班だった。  それなのに、配属されたのはなぜか“炊事班”。  「役立たずの掃き溜め」と呼ばれるその場所で、僕は黙々と鍋をかき混ぜる。  誰にも褒められなくても、誰かが「おいしい」と笑ってくれるなら、それだけでいいと思っていた。  ……けれど、婚約者に裏切られていた。  軍から逃げ出した先で、炊き出しをすることに。  そんな僕を追いかけてきたのは、王国軍の最高司令官――  “雲の上の存在”カイゼル・ルクスフォルト大公閣下だった。 「君の料理が、兵の士気を支えていた」 「君を愛している」  まさか、ただの炊事兵だった僕に、こんな言葉を向けてくるなんて……!?  さらに、裏切ったはずの元婚約者まで現れて――!?

処理中です...