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小さな幸せを願った勇者の話
9 セインの鑑定の儀
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セイン兄さんが十五歳になった。小さな村では鑑定の儀は一つのイベントのようになっていて、手の空いている者は皆教会に集まって、誕生日おめでとう、とお祝いの言葉をかける。
セイン兄さんは、ありがとうと笑顔で答えながら、鑑定の水晶に手をかざした。
眩しい金の光が大きく輝いて、きゃーと集まった人々の歓声が響いた。
「すごーい。わあ、きらきらだ。」
数少ない子ども達がはしゃいで、
「お父さんとお母さんと同じで光の魔力があるんだねえ。」
と大人達がのんびり言う。
光が収まると『治癒』と文字が浮かび上がった。
くそっ、神め。
治癒が使えるようになったなら、そのことはなるべく人に知られない方がいい、とセイマ父さんが俺たちに教えてくれた、隠すべき情報をこんな大勢の前で開示するなんて。
光の腕輪の所為で俺に干渉できなくなったことへの嫌がらせだろうか。
司祭がひどく驚いて、
「これは王都に連絡せねば。」
と呟いている。
そんなことされたら……。
俺は、呆然としているセイマ父さんの腕を握って振った。
「セイマ父さん。司祭様が王都に連絡するって言ってる。」
は、とセイマ父さんは我に返った。慌てて司祭の側へ行く。
「司祭様。俺の息子なんだから、たかがしれています。そんな大事にしないで頂きたい。」
「しかし、セイマ先生。治癒とはなんと稀少な。」
「治癒なんて、俺だって持ってます。俺の治癒が、病気の場所を探り当てるか怪我の止血くらいしかできないことを、あなたが一番ご存知ではありませんか。」
「む。そうか。君は治癒持ちだったな。うむ。なるほど。確かに報告するほどのことでは無さそうだ。」
「そうでしょう?俺は最近疲れやすいので、息子に手伝ってもらえるなら助かりますよ。うちの治療院の手伝いをしてもらうことにします。」
教会の横にある治療院には、頻繁に人が訪れる訳ではない。村はサラ母さんの結界に守られて平和で、村の周辺に出現する魔物のレベルも低いものばかりだった。父さんは、普段は皆と同じように畑を耕しながら、呼ばれたら治療院に出向く。そんなのんびりとした日常なのだ。
話がまとまりかけてほっとしていると、不穏な声が響いた。
「治癒だってよ、すげえ。」
「うちのパーティに入ってもらいましょうよ。」
「そうだな。パーティに治癒士が居たら、こんなとこで無駄金払って何日も足止め食うこともないもんな。」
父さんに治療してもらっている冒険者の連れだった。若い成人したての者ばかりのパーティで、二日前に一人が腕が取れそうなほどの傷を負って村に入ってきたのだ。この村の周辺で、治療院に来るような怪我をするようでは、冒険者としてやってはいけないだろう、と村の者は皆思っている。司祭も、お見舞いと称して様子を見に行っては、冒険者なんてやめて、真っ当に働きなさい、と説得しているらしいが、全く聞く耳を持たないようだ。
若い二人は、視線が集まっていることに気を良くして、水晶から手を離して俺とセナの元へ歩いて来ていた兄さんに声をかけた。
「冒険者になって、俺たちと稼ごうぜ。」
セイン兄さんは、ありがとうと笑顔で答えながら、鑑定の水晶に手をかざした。
眩しい金の光が大きく輝いて、きゃーと集まった人々の歓声が響いた。
「すごーい。わあ、きらきらだ。」
数少ない子ども達がはしゃいで、
「お父さんとお母さんと同じで光の魔力があるんだねえ。」
と大人達がのんびり言う。
光が収まると『治癒』と文字が浮かび上がった。
くそっ、神め。
治癒が使えるようになったなら、そのことはなるべく人に知られない方がいい、とセイマ父さんが俺たちに教えてくれた、隠すべき情報をこんな大勢の前で開示するなんて。
光の腕輪の所為で俺に干渉できなくなったことへの嫌がらせだろうか。
司祭がひどく驚いて、
「これは王都に連絡せねば。」
と呟いている。
そんなことされたら……。
俺は、呆然としているセイマ父さんの腕を握って振った。
「セイマ父さん。司祭様が王都に連絡するって言ってる。」
は、とセイマ父さんは我に返った。慌てて司祭の側へ行く。
「司祭様。俺の息子なんだから、たかがしれています。そんな大事にしないで頂きたい。」
「しかし、セイマ先生。治癒とはなんと稀少な。」
「治癒なんて、俺だって持ってます。俺の治癒が、病気の場所を探り当てるか怪我の止血くらいしかできないことを、あなたが一番ご存知ではありませんか。」
「む。そうか。君は治癒持ちだったな。うむ。なるほど。確かに報告するほどのことでは無さそうだ。」
「そうでしょう?俺は最近疲れやすいので、息子に手伝ってもらえるなら助かりますよ。うちの治療院の手伝いをしてもらうことにします。」
教会の横にある治療院には、頻繁に人が訪れる訳ではない。村はサラ母さんの結界に守られて平和で、村の周辺に出現する魔物のレベルも低いものばかりだった。父さんは、普段は皆と同じように畑を耕しながら、呼ばれたら治療院に出向く。そんなのんびりとした日常なのだ。
話がまとまりかけてほっとしていると、不穏な声が響いた。
「治癒だってよ、すげえ。」
「うちのパーティに入ってもらいましょうよ。」
「そうだな。パーティに治癒士が居たら、こんなとこで無駄金払って何日も足止め食うこともないもんな。」
父さんに治療してもらっている冒険者の連れだった。若い成人したての者ばかりのパーティで、二日前に一人が腕が取れそうなほどの傷を負って村に入ってきたのだ。この村の周辺で、治療院に来るような怪我をするようでは、冒険者としてやってはいけないだろう、と村の者は皆思っている。司祭も、お見舞いと称して様子を見に行っては、冒険者なんてやめて、真っ当に働きなさい、と説得しているらしいが、全く聞く耳を持たないようだ。
若い二人は、視線が集まっていることに気を良くして、水晶から手を離して俺とセナの元へ歩いて来ていた兄さんに声をかけた。
「冒険者になって、俺たちと稼ごうぜ。」
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