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世界の平和を祈った聖者の話
1 言葉は戻らない
助けたかった。魔物に襲われていたあの人達。初めて目の前で見た。人が、魔物に襲われて死にかけているところを。
聞いていた。知っていた。魔物が襲ってくるので水を汲めない、魔物が襲ってくるので町の外へ出られない。冒険者ギルドの依頼書に、倒して欲しいと書いてあった。実際、三体の魔物を四人で倒した。
自分に、魔物を直接倒す力はない。光の魔力で攻撃魔法を使ったことがない。剣や弓も使えない。
でも、ユーゴーなら助けられる、と思ってしまった。マールクもガウナーも強い。俺たち『護るもの』パーティなら、助けられると思ってしまった。
だから、お願いした。
助けてあげたい、と。
いつだってユーゴーは、俺が困らないように動いてくれる。勇者を助ける聖者なのだと鑑定が出たときも、訳が分からず混乱する俺の側にいてくれた。
俺が王都に行かなければいけなくなったら、一緒に付いてきてくれた。勇者なのだという秘密を打ち明けてまで、ずっと一緒に居ようと言ってくれたのに。
俺が勇者だ、と言った時のユーゴーを思い出す。俺は魔王を倒しにいかない、とユーゴーは言った。世界が滅んでも、セナと長生きしてみたいって。
「俺は、なんてことを……。」
涙は止まらなくて、謝る言葉も上手く口にできなくて、止める力もなくて、ユーゴーは行ってしまった。
俺の願いを叶えるために、行ったのだ。
まるで、それが当たり前のように。違う、離れたい訳じゃないと、言えなかった。だって、俺は言ってしまった。人々を助けたい、と。
それができるのは、ユーゴーだけ。勇者であるユーゴーが、しっかりと鍛えてレベルを上げたらできること。
「ユーゴー。セナ。夕食は食べたのか?」
マールクの声がする。
ぼんやりとそれを聞いていると、こんこんこん、と扉を強くノックする音が響いてきた。
「おい、いるのか?開けるぞ?」
がちゃり、と開いた扉もただ、床に座り込んで眺める。起こっていること全てが、自分に触れずに流れているような気分だった。
「セナ?どうした?一人か?ユーゴーは?」
マールクも一人か?なんて思ってしまう。
俺は口がきけなくなってしまったようだ。力なく首を横に振った。
「ユーゴーはいないのか?」
部屋をぐるりと見回して、マールクは俺の前にしゃがみこんだ。頷くしかない。
「なんて顔してるんだ。」
自分の顔なんて見えないから知らない。ただ、泣きすぎて目が開けにくい。
「顔を洗ってこい。」
ぼんやりしている俺を引っ張り上げたマールクに促されるままに顔を洗って、部屋を出た。
俺を連れたマールクが隣の部屋をノックする。
「ガウナー、大変だ。ユーゴーがいなくなった。」
「な、に……。」
マールクは、すぐに顔を出したガウナーも引っ張って食堂へ向かった。マールクはもう、食べ終わっていたのだろう。飲み物だけ頼んでいた。俺に食欲は無かったけれど、マールクが注文したスープが目の前に届く。パイが上に被せてあって、崩しながら食べる高級そうな品だった。
「美味しい……。」
あまりの美味しさに、また涙がこぼれる。ユーゴーと一緒に食べたかった。小さな頃何を食べても、美味しいな、と喜んでいたユーゴー。
魔物の肉を焼いて食えばいい、と出ていったユーゴー。小さな頃からそうしていた、と。
ユーゴーの望みを思い出す。セナと楽しく長生きしてみたい、と言っていた。
俺も。
ユーゴーと楽しく長生きできたら、それで良かったはずなのに。
聞いていた。知っていた。魔物が襲ってくるので水を汲めない、魔物が襲ってくるので町の外へ出られない。冒険者ギルドの依頼書に、倒して欲しいと書いてあった。実際、三体の魔物を四人で倒した。
自分に、魔物を直接倒す力はない。光の魔力で攻撃魔法を使ったことがない。剣や弓も使えない。
でも、ユーゴーなら助けられる、と思ってしまった。マールクもガウナーも強い。俺たち『護るもの』パーティなら、助けられると思ってしまった。
だから、お願いした。
助けてあげたい、と。
いつだってユーゴーは、俺が困らないように動いてくれる。勇者を助ける聖者なのだと鑑定が出たときも、訳が分からず混乱する俺の側にいてくれた。
俺が王都に行かなければいけなくなったら、一緒に付いてきてくれた。勇者なのだという秘密を打ち明けてまで、ずっと一緒に居ようと言ってくれたのに。
俺が勇者だ、と言った時のユーゴーを思い出す。俺は魔王を倒しにいかない、とユーゴーは言った。世界が滅んでも、セナと長生きしてみたいって。
「俺は、なんてことを……。」
涙は止まらなくて、謝る言葉も上手く口にできなくて、止める力もなくて、ユーゴーは行ってしまった。
俺の願いを叶えるために、行ったのだ。
まるで、それが当たり前のように。違う、離れたい訳じゃないと、言えなかった。だって、俺は言ってしまった。人々を助けたい、と。
それができるのは、ユーゴーだけ。勇者であるユーゴーが、しっかりと鍛えてレベルを上げたらできること。
「ユーゴー。セナ。夕食は食べたのか?」
マールクの声がする。
ぼんやりとそれを聞いていると、こんこんこん、と扉を強くノックする音が響いてきた。
「おい、いるのか?開けるぞ?」
がちゃり、と開いた扉もただ、床に座り込んで眺める。起こっていること全てが、自分に触れずに流れているような気分だった。
「セナ?どうした?一人か?ユーゴーは?」
マールクも一人か?なんて思ってしまう。
俺は口がきけなくなってしまったようだ。力なく首を横に振った。
「ユーゴーはいないのか?」
部屋をぐるりと見回して、マールクは俺の前にしゃがみこんだ。頷くしかない。
「なんて顔してるんだ。」
自分の顔なんて見えないから知らない。ただ、泣きすぎて目が開けにくい。
「顔を洗ってこい。」
ぼんやりしている俺を引っ張り上げたマールクに促されるままに顔を洗って、部屋を出た。
俺を連れたマールクが隣の部屋をノックする。
「ガウナー、大変だ。ユーゴーがいなくなった。」
「な、に……。」
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「美味しい……。」
あまりの美味しさに、また涙がこぼれる。ユーゴーと一緒に食べたかった。小さな頃何を食べても、美味しいな、と喜んでいたユーゴー。
魔物の肉を焼いて食えばいい、と出ていったユーゴー。小さな頃からそうしていた、と。
ユーゴーの望みを思い出す。セナと楽しく長生きしてみたい、と言っていた。
俺も。
ユーゴーと楽しく長生きできたら、それで良かったはずなのに。
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