【完結】おお勇者よ、死んでしまうとは情けない、と神様は言いました

かずえ

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そして勇者は選んだ

33 横暴

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 町の人の歓迎ぶりは凄かった。誰が魔物の群れを撃退したかなど、言わずとも分かることだ。町のなかで結界に護られていた騎士団に倒せる筈がない。
 感謝の声を背にギルドへ帰ると、俺たちが手にしている魔物の肉や素材に、買い取りの商人たちが、わっと群がってきた。

「素晴らしい、素晴らしい品だ!」
「マスター、すぐにでも買い取りたい」
「配分をどうする?これだけの量だ、取り合いにはなるまい」
「まずはいつもの買い取り分を確保だ。更に追加したい者は、金の確認をしよう」

 倉庫に運んでいる冒険者の周りを取り囲んで話し合いが行われている。商人たちにもギルドがあるから、そちらで上手くやるんだろう。
 この町は、本当に上手く回っている。
 だが、倉庫でいつも通りの商売が始まった頃に、騎士団を引き連れた役人らしき格好の者がずかずかと乗り込んできた。ひと休みしようと冒険者が離れる前で良かったのかもしれない。……朝ごはんを食い逃しているので、皆若干気が立っているが。

「魔物の群れを倒したそうだな。手に入れた品を証拠として差し出せ。確認が取れたら褒美をやろうと陛下が仰せである」

 ん?つまり、どういうことだ?

「褒美はいらないのでお帰りください」

 疲れた顔のギルドマスターが、丁寧に答えた。皆、疲れたよな。腹も減ったし。

「な……?陛下のお言葉に逆らう気か?」
「冒険者ギルドは独立機関なんで、王様のお言葉でも従うかどうかは自分達で判断できることになってます」
「王の命令に逆らえるものなどおらん。とっとと肉を差し出せ」

 ああ。つまり、いきなり大勢で押し掛けてきたから食べ物が足り無いんだな。確認してから褒美って、普通に買い取りに加わればいいんじゃ……?

「えーと、すみません、そこのお役人の方?肉の買い取りをしたいなら金を準備して頂けますかね?」

 商人のまとめ役、といったような壮年の男が、人懐こい笑みを浮かべながら声をかける。

「なんだと?」
「肉が欲しいのですよね?本日は通常よりかなり多くの入荷がありましたので、お代さえ頂ければお譲りすることが可能です。出せる金額を提示して、私どもの話に加わって頂ければと思います」
「……魔物退治の証として肉を差し出すよう命じてこい、としか私は言われておらん」
「つまり、お代をお持ちではない、と?」

 くくっ、くくくっ、とあちこちで堪えきれないような笑い声が上がった。商人だけでなく、冒険者たちからも。

「なんで手ぶらで来て貰えると思ったのかな?」

 セナは俺に小さな声で話しかける。

「さあ?」

 ここで一番年若い俺たちのひそひそ話も、周りには聞こえていたようで、更にぶふっと笑う声が広がった。

「お代を取りに行く間に売り切れることがないよう、少しくらいの取り分けは致しましょう。必要なのは如何程いかほどか?」

 怒りか羞恥か、真っ赤になって震える役人の周りで騎士が四人、剣に手をかける。

「この無礼者め!」
「おい、本気か?やめとけ。今、俺たちは疲れていて……」

 ギルドマスターが止めようとした言葉の途中で、一人の騎士が剣を抜いて商人の顔役に斬りかかった。
 
『光のとばり
『びちっ』
『ぼん』
『水の矢』

 セナの防御は商人の顔役をしっかりと覆い、ムスカの水の弾は騎士の剣を持つ腕を貫通し、俺の火の玉は騎士の剣を持つ手を燃やした。ガウナーの水の矢は騎士の剣を持つ腕に突き立った。

「ぎゃああああぁ!」
「疲れていて、加減が効かないって言おうと思ったのに……」

 ギルドマスターが片手で顔を覆って天を仰ぐ。

「な、な、なんという……、なんということを……」

 役人が腰を抜かしながら喚いた。

「こ、こんなことをして、た、ただで済むと思うなよ……!」
「正当防衛って知ってます?」

 ムスカが答えたが、腰を抜かした役人を抱えて、三人の騎士は足早に倉庫を出ていった。
 怪我をした騎士を残して。
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