【完結】おお勇者よ、死んでしまうとは情けない、と神様は言いました

かずえ

文字の大きさ
207 / 211
そして勇者は選んだ

75 命尽きようとも君を守る

しおりを挟む
「死んでくれないの?」

 相変わらず、表情の無い白い顔で神は言った。

「生きているのが楽しい。絶対に死にたくない」   
「魔王に、勇者を殺せと頼んだのに、動いてもくれない」

 やはり、お前がクロを苦しめていたのか。

「いつもは素直に頷いてくれたのに」

 クロは、ただ話しかけてくれる声が嬉しかったのかもしれない。長い孤独。辛い生活。誰も、彼を愛さなかった。

「僕が、目を掛けていた。死なないように気を付けたさ。いつも、死と隣り合わせだったから」

 いっそ死ねたら、それは救いだっただろうに。

「死んで、この世界を正して」

 俺は、俺の世界を正した。
 クロの幸せを願い、俺の幸せを願う。この世界は、正しい。
 不意に、明るい光が射し込んで、神の像がぼやける。

「どうして?」

 その言葉を最後に、声は聞こえなくなった。

「ユーゴー!」

 体を揺らされ、名前を呼ばれている。目を開けると、焦った顔のセナが見えた。まだ、部屋は薄暗い。

「なに?」

 俺が少し掠れた声を上げると、セナが、ほおっと息を吐いた。
 いつも通りに俺たちの部屋にいて、俺たちのベッドで寝ている。体が大きくなったから、と奮発して大きなベッドと布団を買って、入れ替えてもらった。
 一人用ベッドをもう一つ買うんじゃないのかよ?と俺たちに言ったムスカのベッドが大きかったのは、きっとクロと一緒に寝るために買い替えたからだと思う。クロももう、寝るときも一人にはならない。
 俺も。

「い、息をしていなかったんだよ……」

 俺が?
 気が付いてみると、全身に嫌な汗をかいている。じっとりと体にまとわりつくような、汗。

「光の腕輪が無いから、心配してたんだ。何があった?」
「ああ。神が」
「やっぱり来やがった」

 神の意思を最も受けていると言われる神託の聖者は、もうどこにもいない。

「クロに頼んだのに、俺を殺してくれなかった、と」
「やっぱり!やっぱりそうだったんだ。クロは、ユーゴーを殺したくなくて、あんなに苦しんでたんだ」
「ああ。早く死んで、世界を正せって」

 すっと真顔になったセナの手から、きらきら、きらきらと光の魔力が溢れ出た。

『光のとばり、ユーゴーを包み守れ。我が命尽きようとも、解けることなかれ』

 詠唱は厳かに紡がれ、命尽きようとも、の所で物凄い量の魔力が移動したのが感じられた。

「セナ、やめろ。強すぎる魔法を使うな」

 きらきら、きらきらと俺が光る。セナから流れてくる大量の魔力。温かい力。
 セナの魔力がようやく止まった頃には、もう誰も、俺に傷は付けられないほどの結界に包まれていた。
 俺の隣に倒れ込んだセナが言う。

「俺たちは、皆でおじいさんになって、良い人生だったと笑い合うんだ」
「それは、いいな……」

 なんて素晴らしい人生!
しおりを挟む
感想 65

あなたにおすすめの小説

もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!

めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。 目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。 二度と同じ運命はたどりたくない。 家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。 だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

時間を戻した後に~妹に全てを奪われたので諦めて無表情伯爵に嫁ぎました~

なりた
BL
悪女リリア・エルレルトには秘密がある。 一つは男であること。 そして、ある一定の未来を知っていること。 エルレルト家の人形として生きてきたアルバートは義妹リリアの策略によって火炙りの刑に処された。 意識を失い目を開けると自称魔女(男)に膝枕されていて…? 魔女はアルバートに『時間を戻す』提案をし、彼はそれを受け入れるが…。 なんと目覚めたのは断罪される2か月前!? 引くに引けない時期に戻されたことを嘆くも、あの忌まわしきイベントを回避するために奔走する。 でも回避した先は変態おじ伯爵と婚姻⁉ まぁどうせ出ていくからいっか! 北方の堅物伯爵×行動力の塊系主人公(途中まで女性)

婚約破棄された令息の華麗なる逆転劇 ~偽りの番に捨てられたΩは、氷血公爵に愛される~

なの
BL
希少な治癒能力と、大地に生命を呼び戻す「恵みの魔法」を持つ公爵家のΩ令息、エリアス・フォン・ラティス。 傾きかけた家を救うため、彼は大国アルビオンの第二王子、ジークフリート殿下(α)との「政略的な番契約」を受け入れた。 家のため、領民のため、そして―― 少しでも自分を必要としてくれる人がいるのなら、それでいいと信じて。 だが、運命の番だと信じていた相手は、彼の想いを最初から踏みにじっていた。 「Ωの魔力さえ手に入れば、あんな奴はもう要らない」 その冷たい声が、彼の世界を壊した。 すべてを失い、偽りの罪を着せられ追放されたエリアスがたどり着いたのは、隣国ルミナスの地。 そこで出会ったのは、「氷血公爵」と呼ばれる孤高のα、アレクシス・ヴァン・レイヴンだった。 人を寄せつけないほど冷ややかな瞳の奥に、誰よりも深い孤独を抱えた男。 アレクシスは、心に傷を抱えながらも懸命に生きようとするエリアスに惹かれ、次第にその凍てついた心を溶かしていく。 失われた誇りを取り戻すため、そして真実の愛を掴むため。 今、令息の華麗なる逆転劇が始まる。

処理中です...