チートスキル『学習(ラーニング)』で異世界最強 ~Malice・Awaking~

さぼてん

文字の大きさ
24 / 46

23 敗北

しおりを挟む
「貴様……タダシ!」
「久しぶりだな、古き友。《転生者》のサクヤ」
「何故ここが……」
「私を誰だと思っている?隊員の居場所ぐらい把握できるようにしていなくてどうするというのかね」

膝をついたまま蹲るスクトさんを無視して、そのままサクヤさんと問答を続けるタダシ。

「組織を立ち上げる直前になって私の前から消えたと思えば、こんなところにいたとはね。いやぁ、随分水臭い真似をする男だ。私は君に、感謝してもし足りないぐらいだというのに」
「何が感謝だ……自分の妻まで犠牲にしておいて!」

怒りをあらわにするサクヤさんの言葉を鼻で笑ってあしらうと、今度はスクトさんを一瞥するタダシ。

「それにしても、お前にはがっかりだ、スクト」
「何だと……?」
「お前には私の後継者となる素質があった……が、少々優しすぎた。そのために母を殺させ、その復讐心を起爆剤としたのだが――結果はこの中途半端な有様だ。私の信ずる《正義》とは程遠い」

そのおおよそ息子に対して向ける言動ではない言葉を聞き、俺の堪忍袋も緒が切れた。
タダシに詰め寄り、その胸ぐらをつかんで叫ぶ。

「さっきから身勝手なことばかり!……そんなに《正義》にこだわるのなら、何故テロリストなんかに手を貸したんだ!」
「離したまえ!」
「うわっ!」
「まったく、乱暴な子だ」
俺の手を振り払うと、タダシは襟を直しつつ続ける。

「それを知りたいのなら、少し君に問おう」
「人々は個々に《正義》を持って生きている。しかし、故にぶつかり合いが起こり争いが生まれる。しかしそれを一つにまとめ上げれば、争いは無くなるだろう。そのために必要なものが、何だか分かるかね?」
「……?」

全く訳が分からない俺は、ただただ首をひねるばかり。するとしびれを切らしたのか、奴が口を開いた。

「答えは《悪》だよ。共通の敵を作れば、たちどころに都合よく手を取り合い、一つの《正義》を作るのが人間の醜さと愛おしさの象徴だ。だからこそ、《ガットネロ》という悪の存在が必要だったのだよ」
「けど、その作り出した必要悪で犠牲になる人たちだっている!」
「それに関しては大変申し訳ないことだが、平和という大義を成すための尊い犠牲だと思っている。痛みを伴わない幸福などありはしないからね」
「アンタの言ってることは間違ってる!そんな方法で作られた平和のどこに正義があるんだ!」

「クク……ハハハハ!ハーッハッハッハッ!」

俺の言葉を聞き、タダシは突如天を仰いで笑い始める。そしてひとしきりわらった後、胸元に付いたエンブレムを指差しつつ言った。

「我々がその証明さ」

「人々は悪を滅する我々を支持し、そして自らが滅される悪とならないよう規範を守って生きている。では規範を管理するのは誰だ?そう他でもない我々だ。その我々が力をつけることは、それすなわち《正義》なのだよ」

あまりに狂った理論に唖然とし、言葉を無くす俺。しかしながら、怒りは静かに煮えたぎっていた。
俺はスマホを取り出し、《融合》しようと考えるも――

「いかん!それは奴の挑発だ!」
サクヤさんが慌てて飛び出し、俺を抑えた。

「離してください……!俺は奴を、どうしても許せない!」
「悔しいことに、レイヴンズが民にとって正義の存在であることは確かだ!そのトップを手にかけたとあれば、君の立ち位置はどうなる!?」
「っ!」

その言葉に、はっと気づく。今ここで手を出したところで、ほとんど証拠は残らないだろう。残るのは判断材料としては不確かな、加害者側による発言のみ。
その結果、俺たちは人々から《悪》とみなされることになるだろう――そのことに気づかず、俺は感情任せに過ちを犯すところだった。

「フン、余計な真似を」
目論見が外れ、軽く舌打ちをするタダシ。

「まぁいい。ほかに手はある……こちらを見たまえ」
「!」
そう言いながら奴が腕輪を操作すると、空中に映像が投影された。
その中に映っていた部屋は、見覚えがあるもので――

「キュリオさんの……ラボ!?」
「その通り。なかなかの洞察力じゃないか」

その言葉に膝をついていたスクトさんが立ち上がり、叫んだ。

「お前……アイツに何をした!」
「スクト。《まだ》、何もしていないさ。それを決めるのは、君たちの行動次第だ」
「何だと!」

スクトさんが奴に詰め寄る中、映像内に変化が訪れる。
タダシの秘書であった女性が、縛られたキュリオさんの側に立っていたのだ。その手には、何かのスイッチが握られている。

「彼女のラボ全体に、爆弾を仕掛けさせてもらった。君たちが今から私の言う条件を飲まなければ、私の秘書が起動させる」
「バカな……そんなことをすれば、あの人まで巻き添えになるぞ!?」
「言っただろう?大義のための尊い犠牲だと」
「そんな……」
「おっと、君の持つそれでシステムをハッキングしようとしても無駄だ。今までの戦闘データから推察する限り、君自身があの姿になって直接触れなければハッキングは不可能。そうされるより、彼女がスイッチを起動するほうがはるかに速い」

「ぐ……!」

数少ない弱点を突かれ、ただ押し黙るしかできない俺。
その様子をあざ笑いながら、タダシは言った。

「君の持つそれを、こちらへ渡せ。本来なら使い手である君ごと組織へ取り込みたかったが、乗り気でなかったようだからね」
「そしてスクト。君は今後組織の犬として働いてもらう。失敗作とは言え、その戦闘能力だけは買っているからね」

あまりにも理不尽で、悪辣極まる言葉。しかしキュリオさんの命がかかっているとなると、あまり迷っている暇はない。

『マスター』
悩む俺の頭の中で、彼女が心配そうな声をかけてきた。
俺は応える。
(……マリス)
『残念ながら、今は手の打ちようがありません。大人しく従うほかないでしょう』
(そんな、俺は君を……)
『大丈夫です』
(え?)
『私はマスターを信じます。必ず――連れ戻しに来てくれると。だから』
(……ありがとう、マリス。絶対に助けに行く。……約束だ)
『ええ』

そんな会話を交わして、俺は覚悟を決めた。一歩踏み出し、スクトさんへ頷いてから、スマートフォンをタダシへ手渡す。
スクトさんは、奴の前へ片膝をつき、頭を下げた。

「フフフ、それでいいんだ。……では、私達はこれで」
それで満足したのか、タダシはスクトさんを引き連れて地下室から去っていった。

そして沈黙と重々しい空気だけが、この場に残った。
俺は拳を握りしめ、誓う。
必ず、奴を止めてみせると――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん
ファンタジー
気づいたら異世界に飛ばされていた、おっさん大工。 唯一の武器は、腰につけた工具袋—— …って、これ中身無限!?釘も木材もコンクリも出てくるんだけど!? 戸惑いながらも、拾った(?)ギャル魔法少女や謎の娘たちと家づくりを始めたおっさん。 土木工事からリゾート開発、果てはダンジョン探索まで!? 「異世界に家がないなら、建てればいいじゃない」 今日もおっさんはハンマー片手に、愛とユーモアと魔法で暮らしをDIY! 建築×育児×チート×ギャル “腰袋チート”で異世界を住みよく変える、大人の冒険がここに始まる! 腰活(こしかつっ!)よろしくお願いします

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

転生したら鎧だった〜リビングアーマーになったけど弱すぎるので、ダンジョンをさまよってパーツを集め最強を目指します

三門鉄狼
ファンタジー
目覚めると、リビングアーマーだった。 身体は鎧、中身はなし。しかもレベルは1で超弱い。 そんな状態でダンジョンに迷い込んでしまったから、なんとか生き残らないと! これは、いつか英雄になるかもしれない、さまよう鎧の冒険譚。 ※小説家になろう、カクヨム、待ラノ、ノベルアップ+、NOVEL DAYS、ラノベストリート、アルファポリス、ノベリズムで掲載しています。

処理中です...