「男の奴隷は必要ない」と捨てられた俺が、伝説の勇者になった件 ~俺たちの名は、エヴォリュート・ソル~

さぼてん

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救出作戦、そして――

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「全く、何故この俺がこんなことを……おわっ!」
丘の上を目指し、船から木箱を運びながらぼやいていた小太りの男だったが、小石に蹴躓き転んでしまう。
「おいおい何やってんだよオッサン!」
「それでも隊長かぁ?悪い、『元』だったか!」
そんな彼を責め立て、笑いものにする若い男たち。
『元』隊長。そう呼ばれたこの男――ホツマ。彼は以前の失敗が――とりわけ自身の不手際を隠蔽したことが――原因で、隊長の座を降ろされて雑用に回されていたのだ。

「ぐ、ぐぅぅ……」
場所が違えば立場も違う。年下の上司に舐められていることをわかりつつも、ただただ歯を食いしばるほか方法はなかった。

(今に見ておれ若造ども……!『あの計画』が成就すれば、必ずや……)
彼は立ち上がり、木箱を持ち上げるとまた歩き出した。
何らかの手段をもって、逆襲することを誓いながら――

「ソル、どう思う」
《わからん。だが放っておけないのは確かだ》
「だよな」
アサヒたちはそれを岩陰から観察、尾行していた。
「アイツら、何運んでるのかな」
「ろくでもないもんに決まってるさ」
カグヤが指さしたその木箱は、軽く見積もっても成人男性ほどのサイズがある。そんなものを運ぶ理由とは――何にせよ、誰かが傷つくことに繋がるのは目に見えている。彼らは息を潜め、尾行を続けた。



「ヒィ……ヒィ……」
数十分後。すっかり息を切らしたホツマ。彼は丘の頂上に木箱を運び終えると同時に、へたり込んでしまった。
「だっらしねぇなぁ」
「大方自分は動かず全部部下にやらせてたんだろ、いい気味だぜ」
しかし、そうなっているのは彼ただ一人。周囲の者は口々に彼を嘲る。
そんな時だった。

カッ!空が光る。見ると、そこには巨大な魔法陣が現れていた。
「キィィィ――ッ!」
甲高い鳴き声をあげその中から姿を現したのは、あの魔鳥――ウィンザード。
翼をはばたかせつつゆっくりと丘の上へと着地すると、ホツマたちを睨むかのように見据える。

「おいおい睨むなよ。立場分かってんのか?」
男の一人はそれに負けじと懐からなにやらリモコンのような機械を取り出すと、スイッチを入れる。すると、ある映像が空中に投影される。それは――

「ピィ……ピィ……」

薄暗い部屋に閉じ込められ寂しげな声をあげる、ウィンザードそっくりの雛鳥の姿だった。さらにその後ろには卵も見える。

「ガキどものためにも、頑張らないとなぁ。お・か・あ・さん?」
男は挑発するような口調で映像を指さしつつ、笑う。

「……」
彼女は押し黙りながら翼を軽く振るうと、空中に魔法陣が現れた。
その中から出てきたのは、気を失っている大量の人間たち。

「おい、あれって……!」
その中の一人の顔に、アサヒは見覚えがあった。それもそのはず。彼はついこの前、カグヤが乗っていた船で自分に話しかけてきたあの男だったのだから。

「さ、詰め込め詰め込め」
男たちは彼らを担ぎ上げると、次々に持ってきた木箱へと放り込んでゆく。

《なるほど、子供を盾に人さらいをさせていたわけか……》
ソルがつぶやく。
ウィンザードは高い知能さえ持ってはいるが、人から見ればモンスター、つまり野生動物だ。たとえ人さらいをしたとしても、餌としてさらわれていると考えるのが筋だろう。その裏に人の意思が入り込んでいるという発想に行きつくことはほぼないと言っていい。
だからこそ、次元奴隷商は彼女を利用した。命より大事なわが子の危機をちらつかせ、従わせる。仮に抵抗してきたとしても、自分たちにも対抗しうるだけの武器が――さらには生物兵器がある。彼らにはメリットしかないと言えよう。

「許せない……!」
カグヤが拳を握りしめる。子を思う母親を利用することもだが、自身を慕ってくれた彼らをあんな風にされることが、何よりも許せなかったのだ。
「ああ……」
それは、アサヒも同じだった。カグヤと彼らの間にどういったことがあったかは知らない。しかし、今まさに多くの人々の幸せが奪われようとしている――その事実に怒り震えていた。
《二人とも。無策で飛び出す気ではないだろうな?》
若い血をたぎらせる彼らを、ソルが制止する。
「いや、わかってる。まだ行かねぇさ……」
だが、実際はそうでなかった。アサヒは意外にもすぐに行動せず、岩場に隠れたままだったのだ。
「できれば、あの雛を解放してやりたい」
「そうね」
ウィンザードもまた被害者であることが分かった以上、むやみに戦いたくはなかったのだ。
カグヤもそれを理解し、同意する。

《うむ……だがどうする?》
それを聞いて少し嬉しそうにし、疑問を投げるソル。
「そこなんだよな……」
アサヒは悩んだ。雛の場所がわからなければ、下手に動けない。
飛んで探そうにも、発見される確率のほうが高いだろう。
しかし、あまり悠長にもしていられない――焦りが募った。

「そうだ!」
しばらく考えていると、カグヤがぽん、と手を叩く。
「何か思いついたのか?」
「アイツらの船よ」
カグヤの提案は、こうだった。
先ほど見たあの映像に映し出されていた部屋。あれは以前自分が捕まっていた時にいた場所にそっくりだった。
だから、奴らの船を探れば、そこにきっと雛鳥はいる。
先に雛鳥を保護してしまえばウィンザードと戦う必要もない。あとは心置きなく、奴らを叩きのめせばいいだけだ。

「まぁ、それが一番手っ取り早いよな」
《うむ。それに近くまで行けば、私が生命反応を探知できる》
「でしょ?じゃ、行きましょ」
「おう」
彼らは音を殺しつつも、海岸へ急いだ。
奴らが積み荷を運び込み始める前に、必ず助け出す――そう誓いながら。



「異常なー……ふぎゃ!?」
大あくびをしながら船の近辺を警備していた男が、頭部にガツン、と衝撃を感じ、情けない悲鳴とともに倒れ伏す。
彼の足元には、大きなヤシの実が転がっていた。
その頭上の木の上には、カグヤ。彼女は男が通りがかったタイミングでこれを思いきり放り投げたのだ。
彼女は男が気を失ったことを確認すると木から降り、手を振る。
それに応え、少し離れた草の陰にいたアサヒもまた、手を振り返した。
これで6人目、見張りはすべて片付け終わったのだ。
彼らは合流し、船内へ急いだ。



《こっちだ》

船内。二人――いや三人はソルの探知を頼りに、雛鳥の捜索を行っていた。監視カメラに映らないように慎重に、かつ迅速に。
そして。

《見つけた、ここだ》
ソルの声に、彼らは足を止める。見ると、分厚い扉がそこにあった。

「んじゃ、いっちょやりますか」
アサヒはそう言うとエヴォリュートソルに姿を変え、腕を交差し力を溜める。
(ツインメーザー!)
そして天井から床へと熱線を走らせ、なんと扉の先の区画ごと溶断してしまった。
(よし、捕まれカグヤ)
「オッケー」
彼女が背にしがみついたと同時にソルは急浮上、沈みつつある船から切り取った区画を丸ごと持ち去ってゆく。

《しかし、結局は力技か》
「まぁいいじゃない、うまくいったんだし!」
海の藻屑と消えゆく船を尻目に、彼らは夜空を駆けた。行き先は――丘の上だ。



「こちらホツマ、応答願う!……くそっ!」

一方、彼らは突如連絡が途絶えたことにうろたえていた。
もしまた失敗するようなことがあれば、今度こそわが身が危うい。
そう彼が考えていた矢先だった。
「な、何だありゃ!?」
空を指さし、男の一人が叫んだのは。

「なっ……」
その方向を見たホツマもまた、言葉を失う。なぜなら――

「奴は……!」
自分が立場を追われるそのきっかけになった存在が、夜空を飛んできたのだから。
しかもその手にあるのは見覚えのあるものが――そう、船の一部分だ。
「おのれ貴様ぁ!」
激昂とともに、ホツマは叫ぶ。
しかしそんなことは意に介さず、ソルは悠々と着地する。
あっけにとられる男たち。

「ええぃ、やれ!」
そんな中、ひとりウィンザードへ指示を下すホツマ。
彼女は渋々、といった様子で戦闘態勢を取る。
が、その刹那。

「もう大丈夫よ、おかーさん!」
カグヤの言葉にソルは頷き、扉をメリメリとひしゃげさせ、開く。

「ピピィッ!」

するとそこから、愛するわが子が元気な姿で歩き出てきたではないか。ウィンザードの動きがぴたりと止まる。
見つめる彼女に、ソルは頷き返す。
『安心してくれ』、と。

「ケケェ――――ッ!」

そして次の瞬間。彼女の叫びが空を裂いた。翼を振るい、複数の細長い竜巻を巻き起こす。
「おあっ!」
「ぎゃあ!」
それは地を走り、的確に男たちだけを空へと巻き上げてゆくではないか。
「ひっ、ひぃー!」
ホツマもまた、それに追われていた。

「うわあぁぁぁぁ……」
必死に逃げる彼だったが、すぐに追いつかれ吹き飛ばされてしまう。
みるみるうちに、彼らの姿は空の彼方へと消えていった。

(ほー……)
すっかり出る幕を失ったソルは立ち尽くしたまま、感心しきるばかりだった――



そして数時間後。夜明けが訪れつつある中。

「もうあんな奴らに捕まるんじゃねぇぞ?」
アサヒはすっかりなついてしまった雛鳥に言い聞かせつつ、頭を撫でる。
「ピッ!」
そんな彼にじゃれつく雛鳥。その様子を、ウィンザードは優しく見守っていた。

「親子っていいもんすねぇ」
連れてこられた船員たちも意識を取り戻した後最初こそ驚いていたものの、カグヤが事情を説明するとすぐに理解してくれた。
恨み節を言う者も少しはいたが、信頼している彼女の言葉だ。それ以上文句を言う者はいなくなった。

「しかし、すげぇよなお前。こんだけの人数に慕われててさ」
そんな彼女を、アサヒは称賛する。
「まぁ、ね。流石でしょ?」
彼女が少し照れくさそうにしながら答えると、
「でも、寂しくなるなぁ……」
「何が?」
一人の船員の声に、アサヒが聞き返す。
「いや、あんたとまた会えたから、姐さんもう船降りちゃうんだな、ってさ」
「へ?」
詳しく話を聞いてみると、カグヤは数か月前にこの世界にやってきて、彼らに預けられたらしい。
彼らも当初は邪な考えで彼女を迎え入れたが、身の上話を聞いているうち、情が移ったらしい。
そのうえ、何か問題が起こったときはいつも彼女が打開策を打ち出していたようで。
いつしか、彼女は船員全員から一目置かれるようになっていたようだ。
だがそれも、全てはもう一度アサヒに会うため。

「ちょ、ちょっと待てよ!?」
アサヒはカグヤに突っ込む。
無理もない。彼がこの世界に来たのは、つい最近のこと。どれだけ多く見積もったとしても、一週間ほどしか経っていないのだ。
それなのに、何故か自分がこの世界に来ることを知っていた。
しかも、誰かに預けられたとも。
アサヒの頭は、疑問で埋め尽くされていた。

「あー、それね。教えてもらったのよ」

彼女は語る。
それは彼女が捕まった少し後の話。次元奴隷商の船は一度、この世界に立ち寄ったらしい。
修理を終えたらまた出発する算段でいた奴らだったが、思わぬ事態に襲われた。
襲撃を受けたのだ。
彼らはなんとか逃げおおせたものの、乗せていた人々を皆逃がしてしまった。
人々は皆地球に返されたそうだが、彼女は言ったらしい。
「探したい人がいる」、と。
「どんな奴だったんだ、そいつ」
アサヒがさらに投げかける。

「ええと、あんたがなったあの姿……ソルだっけ?あれにちょっと似てたけど……」
アサヒがごくりと唾をのむ。
そして驚くべき言葉が飛び出した。








「うん、そう。確か体が青かった。で、写真見て言ったのよ。そいつならじきにこの世界に来る、って……」
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