死に花バロメーター

菜っぱ

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 花屋というから、白磁の腕を持つ、華奢な青年を想像していたが、実際に待ち合わせのレストランに現れたのは、割と太い腕と厚い胸板をもつ、マッチョな男だった。

 でもどこか、その表情からは儚げな雰囲気を感じる。内面から滲み出すシリアスな香りが隠し切れていない。
 漫画の中だったら絶対、王宮ファンタジー内で、政変の末、愛する王女を己の手で亡き者にしなければならない、悲しい近侍騎士に配役したいタイプ。

 おっと妄想が進んでしまった。控えめに言って、ギャップ最高! 私は、溢れる萌えで、にやつきそうになる頬の筋肉を必死に調教し、柔らかい笑みに作り替える。

「初めまして、橘今日花(たちばなきょうか)です」

 私の名前を聞いた彼は、一瞬時が止まったような表情をした。なんだ? 私、心の声が漏れていたか? と思って心配した時、彼は口をゆっくり開けた。

「飯島颯太(いいじまそうた)です」

 ぺこりと頭を下げた彼は、緊張した面持ちで微かにはにかんだ。……は? 可愛すぎてこの時点でキレそうなんだが?
 溢れるハンター心をぐっと抑える。私は彼のキャラクター性を雑談しながら、より深く知ろうとする。

「えっと……私は飯島……あ、ののさんと同じく漫画家なんですけど、颯太さんは、花屋さんなんですよね?」
「あれっ! ののに、花屋って聞いてましたか?」
「え? はい。そう聞いてますけど……違うんですか?」

 首を傾げながら聞くと、先方はあちゃー……と、申し訳なさそうに顔を顰めた。

「僕のやっている仕事は花屋そのものなんだけど、花屋に勤めているわけじゃないんだ」

 一人称、僕……だと……?
 更なるギャップに萌え死にそうになっている私とは反対に、彼は青白いシリアスな表情を浮かべて言葉を続けた。

「僕は葬儀屋の花部門を担当しているんです」

 葬儀屋の花部門!

「あ、だから私の名前を聞いたときに妙な顔をしたんですね?」
「そうです……」

 今日花と供花。確かにおんなじ響きだ。きっと彼は毎日『供花』という単語をたくさん聞いているから、そっちを想像してしまったんだろう。納得。

「そういえば私、小学校の頃、響きが同じだからって、男子に『死に花』って呼ばれてたことがありました!」
「そ、それは……。ひどいあだ名ですね……」
「え? そうですか? 結構クールで気に入ってましたけど」

 その当時から、バッドエンド、メリーバッドエンド上等シリアス好きを拗らせていた私は、死に花なんて、雰囲気があって素敵! 悲しい過去がある暗殺者のコードネームっぽい! と、ニッコニコでそのあだ名を受け入れていた。
 悪口として言ったはずの言葉を喜んでいる様子を見て、言い出した男子たちはかなり複雑な表情をしていたが……相手が悪かったのだ。
 颯太さんは私の話を聞いて「変わった人だなあ……」と小さく呟いていた。

「それはそうと、葬儀場っていろんなドラマが起こりそう! ネタの宝庫職種じゃないですか! お話聞いてもよろしいですか?」
「え、僕が葬儀屋で働いていることを嫌がらないんですか?」

 颯太さんは目を瞠る。嫌味が全くない、新しいことを知った小学生みたいな純粋な驚き。

「え? 正直おいしいなあ……とは思いますけど、嫌だとは思いませんよ?」

 あ、開けっぴろげに言いすぎた。と後悔した瞬間、颯太さんは嬉しそうな表情を見せた。

「前、友達に連れて行ってもらった合コンは、職業でドン引きされて相手にしてもらえなかったから……」
「あらあ。そうだったんですか……素敵な職業なのにねえ。葬儀屋。だって人生最後のセレモニー作りのプロでしょ?」

 そういうと、嬉しそうに目元を赤く染めた颯太さん。
 きっと彼的には自分の仕事を打ち明けることが一番の難所だったのだろう。そこを乗り越えた私たちの会話は次第に盛り上がり始めた。
 颯太さんは花屋になるための専門学校を卒業後、葬儀屋に就職したこと。
 元々、細身の体型だったのに、葬儀屋で大きなアレンジメントを扱っているうちに、マッチョになってしまったこと。

 普通の街の花屋さんだと、多くても年に二回くらいしか作らない、スタンド花を葬儀屋では毎日作ること。
 そして、世の中にはいろんな家族がいること。
 私の知らないことをたくさん、颯太さんは話してくれた。そのどれもが、新鮮で、ユニークで、私はもっと彼の話を聞いてみたくなった。

「なんだか、今日花さんと話していると僕の悩みが馬鹿らしくなっちゃうなあ……」
「あ、それ。めっちゃ飯島……ののさんにも言われます」
「描いている漫画の作風がシリアスって聞いていたから、物静かなタイプかと思いきや、本当に明るいですよね……」
「うん。私、めちゃくちゃポジティブすぎて、憂いとか全くないから、ないものねだりでアンニュイなものに憧れてるんですよね」
「でもその憧れを漫画にできるのは、プロの技です。素敵なお仕事だと思います」

 あら、まあ~……。嬉しいこと言ってくれるじゃないか。この人はちゃんと、私の仕事をリスペクトしてくれる。元彼とは違うのだ。
 その一言で私の気持ちは、この人萌えるわあ。から、この人推せるわあ。に変化していった。

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