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窓の外から鳥の鳴き声がする。眩い光が差し込む朝。ベッドに寝転んでいた私は、寝不足で重い瞼をがんばって開く。
起き上がって部屋を見渡すけど、特に変わったこともなく、天井に穴なんて空いていない。もちろん『未来の私』なんてのもいない。
「は……。やっぱり夢か……」
起き抜けの私は気が抜けたように声を出す。あくびをしながら、左手で頭を掻く。すると、掌に異様な感触があることに気がつく。
「ん? 私、何か握って」
左の掌を見てギョッとする。掌には夢でみたのと全く同じ虹色の包装がされた、飴が握られていた。
朝日に透かすようにして見ると、私が勉強の合間などによく食べる菓子メーカーのロゴが見えた。
でも、こんなの見たことないよ……。まさか本当に未来の私がここに来たってこと?
「まさか……」
どうしても自分の体験が信じられない私は、自分のスマホでこの商品が存在しているか、検索をしてみる。けれども、メーカーのホームページをいくらスクロールしてもそんな飴の画像は見つからない。
「やっぱり……夢じゃなかったの……?」
頭の中で混乱はしていた。
でも、いくら悩んだって、あの体験がなんだったのか、答えは出ない。
悩んでいても仕方がないので、とりあえず、口の中に飴ほいっと入れてみた。口の中でコロリと音を立てた飴は、フルーツとは違うふんわりとした綿飴のような甘味と、今までに感じたことのない口中に広がる爽やかな酸味──未来の味がした。
「葉月! いつまで寝ているの? 遅刻するよ~」
一階のリビングから、母の声が響く。我に帰って時計を見ると、もう出ないと遅刻してしまう時間だった。
「はーい!」
慌てて身支度を整えた私は、朝食も食べずに飛び出すように玄関を出た。
いつもの通学路を走る。息が上がって苦しい。変わらない日常。……のはずなのに、なぜか私の目には景色が輝いているように見える。
『私は何にでもなれる』
その魔法の言葉を『未来の私』が教えてくれたから。
ギリギリ遅刻を逃れた私は、校門をくぐり生徒玄関へと向かう。
生徒玄関にはなんと偶然、洲崎君がいた。
しかも、いつもは誰かが周りにいるのに、今日は一人だ。
──どうするの? 話しかける?
おはよう、と一言言えばいい。
けれどもたったそれだけのことが、私には高いハードルに感じる。
あまりの緊張に唾をゴクリと飲み込む。いつもなら、まあいっかで済ませて、立ち去ってしまうところだ。
でも……。ここで、勇気を出さなかったら、私は?
覚悟を決めて息を大きく吸う。そうすると、私の足は勝手に前へと動き出した。
「まあ、良くない!」
勇気を出せ! 私は『素敵な私』に……。いや『もっともっと素敵な私』に会いに行きたいんだから!
「あの……。洲崎くん! お、おはよう!」
緊張で裏返った私の声が、生徒玄関に響く。
起き上がって部屋を見渡すけど、特に変わったこともなく、天井に穴なんて空いていない。もちろん『未来の私』なんてのもいない。
「は……。やっぱり夢か……」
起き抜けの私は気が抜けたように声を出す。あくびをしながら、左手で頭を掻く。すると、掌に異様な感触があることに気がつく。
「ん? 私、何か握って」
左の掌を見てギョッとする。掌には夢でみたのと全く同じ虹色の包装がされた、飴が握られていた。
朝日に透かすようにして見ると、私が勉強の合間などによく食べる菓子メーカーのロゴが見えた。
でも、こんなの見たことないよ……。まさか本当に未来の私がここに来たってこと?
「まさか……」
どうしても自分の体験が信じられない私は、自分のスマホでこの商品が存在しているか、検索をしてみる。けれども、メーカーのホームページをいくらスクロールしてもそんな飴の画像は見つからない。
「やっぱり……夢じゃなかったの……?」
頭の中で混乱はしていた。
でも、いくら悩んだって、あの体験がなんだったのか、答えは出ない。
悩んでいても仕方がないので、とりあえず、口の中に飴ほいっと入れてみた。口の中でコロリと音を立てた飴は、フルーツとは違うふんわりとした綿飴のような甘味と、今までに感じたことのない口中に広がる爽やかな酸味──未来の味がした。
「葉月! いつまで寝ているの? 遅刻するよ~」
一階のリビングから、母の声が響く。我に帰って時計を見ると、もう出ないと遅刻してしまう時間だった。
「はーい!」
慌てて身支度を整えた私は、朝食も食べずに飛び出すように玄関を出た。
いつもの通学路を走る。息が上がって苦しい。変わらない日常。……のはずなのに、なぜか私の目には景色が輝いているように見える。
『私は何にでもなれる』
その魔法の言葉を『未来の私』が教えてくれたから。
ギリギリ遅刻を逃れた私は、校門をくぐり生徒玄関へと向かう。
生徒玄関にはなんと偶然、洲崎君がいた。
しかも、いつもは誰かが周りにいるのに、今日は一人だ。
──どうするの? 話しかける?
おはよう、と一言言えばいい。
けれどもたったそれだけのことが、私には高いハードルに感じる。
あまりの緊張に唾をゴクリと飲み込む。いつもなら、まあいっかで済ませて、立ち去ってしまうところだ。
でも……。ここで、勇気を出さなかったら、私は?
覚悟を決めて息を大きく吸う。そうすると、私の足は勝手に前へと動き出した。
「まあ、良くない!」
勇気を出せ! 私は『素敵な私』に……。いや『もっともっと素敵な私』に会いに行きたいんだから!
「あの……。洲崎くん! お、おはよう!」
緊張で裏返った私の声が、生徒玄関に響く。
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