白兎令嬢の取捨選択

菜っぱ

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第一章 大領地の守り子

28農家の子供と知り合います

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 馬車はシュナイザー商会が用意してくださいました。
 わたくしは別に魔法陣で行けば良いのでは? と思っていたのですが、それは先生に止められてしまいました。

「一応転移陣は王都に領主が行く時に使用するものしか存在しないことになっているのを忘れてしまったのかな?
 馬車がなければどうやってきたのか不審がられるでしょう」

 そう言われて初めてことの重大さに気がついたわたくしはとっても迂闊でした。つい、魔法陣での移動に慣れてしまったがために、気軽に使おうとしてしまっていたのです。

 先生も農園には興味があるらしく、付いて来てくれることになったのです。
 農園に向かう馬車の中、わたくしは時間を利用しようと、勉強をしています。

「下ばっかり見てると酔っちゃうよ?」
「でもわたくしこの時間を無駄にしたくないのです。せっかく我が家の資料室からお兄様たちの騎士学校入学試験の過去問を見つけたのです!
 こんなの解かないわけにはいかないじゃないですか!……うぷ」

 ゆらりと襲ってくる胃の中の気持ち悪さに、辛さを感じていると、先生がやれやれというような顔をして、カバンから細長い緑の小瓶を取り出しました。

「やっぱり酔ってるじゃないか。ほら私が作った酔い止めの薬があるから、飲めるようなら飲んでおきなさい」
「先生ってお薬まで作れるのですか!?」
「ほら、薬作りってお菓子作りの延長みたいなもんじゃない?」
「それは先生だけだと思うのですが……」

 同じように勉強しても、先生と同じようになんでもできるようにはならないでしょう。なんでも出来てしまう先生がちょっとずるいなあ、と心の中で思ってしまったのは先生には秘密にしておきましょう。だって嫌味っぽいんですもの。

 わたくしはこれ以上酔わないために、窓の外の風景を見ていることにしました。
 窓の外は屋敷がある街中とは違い、深い森が続いています。森の木々を見ていると、木々の葉が村に向かうにつれ枯れ木が多くなっていることに気がつきます。

「あれ? 先生……。なんだか枯れ木が多くないですか?」

 先生は難しい顔をしています。

「マルトは思ったより厄介な状態になっているみたいだね」

 その呟きはまるでこの後起こることを予想しているかの様に聞こえました。





 しばらく馬車は進み、森を抜けると小さな農村にたどり着きました。

 馬車を降りると、何人かの村民が集まっていました。そこにいる村民はわたくしの存在よりも先生の見た目を見てざわつきを見せています。

「なんだありゃ! 女神様か⁉︎」
「随分でっけえが女か? 男か?」

 そうか、マルトはミームと違って先生の姿を偽り目立たなくする魔術が働いていないので、先生の美貌がわかってしまうのですね。最初先生を見た時わたくしもびっくりしましたから、気持ちはわかります。

 顔を染める住人たちをみるとこれが先生を見たときの普通の反応なのだということがよくわかります。わたくしは最近慣れてきてしまったので、こんなふうに思わなくなってしまいましたから、なんだか新鮮です。

 そんなざわつく人をかき分けるような形で年老いた村長らしい男性が現れます。

「お初にお目にかかります。リジェット様。
 お待ちしておりました。私がこの村の村長のキンです」
「まあ。お出迎えありがとうございます!」

 村長だという、年老いた男性は何枚もの布の繕いが施された服を着ています。
 もしかしたら、この村は今までわたくしが見てきた中で、一番貧しい暮らしをしているのかもしれません。
 今まで見てきたオルブライト直轄地の住人やミームの商人たちは、平民の身分だとしても、繕いのない既成服をきていました。
 村の代表者がこの服装ということは、村はとても貧しいのではないでしょうか。

「初めての謁見で、こんな格好で申し訳ないですね。この村は五年ほど前から付随する森から魔獣が多く現れるようになってしまいまして……。特産品であった薬草がうまく育たなくなってしまって、農業自体が立ち行かなくなってしまっているのですよ」
「魔獣が出ると薬草が育たなくなるのですか?」
「ええ。魔獣は瘴気を放ちますから。人間はもちろん植物にも影響をもたらすのですよ。ほうら、森の木々も、枯れ木が多くなっているでしょう?」

 そう言って村長が指さした森を見ると、確かに枯れ木が多くスカスカになっているのがよくわかります。

「あの……。申し訳ないのですが、こんな状態で育てていただきたいハーブは育つのでしょうか」

 言いにくいですが、こういうことは早く聞いておかねばなりません。キンは困った顔をして正直に答えてくれました。

「もしかしたら……。難しいのではないかと思っています。実はシュナイザー商会のクリストフ様も今年の薬草の収穫量次第では今後の取引を一切打ち切る、と宣言されてしまっています」

 その一言で、クリストフがこの土地をどう扱っても良い、と言っていた理由がやっと分かりました。もう手を引く土地ですから、半分捨てたようなものなのですね。シュナイザー商会にとってこの村、マルトは取引先の一つでしかありませんが、わたくしにとっては大切なオルブライト領の一部分です。このまま見捨てるわけにはいきません。

 それに、魔獣が多く現れる、というのも見逃せませんね。ここまで村を衰退させているということは同じ個体が何度も現れている、というわけではなさそうです。きっとどこかで増殖を繰り返しているのでしょう。今はマルトだけの被害に収まっていますが、今後村の境界線を超えて領地内に広がるということも視野に入れなければいけません。
 __もういっそここでわたくしが討伐をした方が良いのではないでしょうか。

 でも、わたくしにできる範囲のことなのでしょうか……。うーんと考えていると、村民の声が耳に入りました。

「全く。村長も困った人だよ。こっちは自分たちが食うものを作るだけで精一杯だってのに、お貴族様との仕事を持ってくるんだから」
「ほんとだよ、そんな暇があったら、服の一つくらい繕いたいよ」
「あいつら、シュナイザーの差し金らしいぞ。あそこからの借金……、今いくらになってるんだか」

 どうやらこの農村の住民たちはわたくしに対して友好的ではないようです。それに加え借金がある、というのも聞きづてなりません。
 この村の財政状況は相当逼迫している様ですね。

 ザワザワと聞こえる村民の声を半分ほど聞き流しながらキンについて回って、村の説明を受けていると、ドンっと人に体を当てられた感覚がありました。

「!」

 ぶつかってきたのは、わたくしよりも小さく感じる少年でした。背丈は同じくらいですが、腕が細く、頬もこけていて、痩せて骨ばんでいました。

 それでも少年はすべての精気を瞳に集めたように強く反抗的な目をわたくしにむけています。
 その黄昏色の瞳には確かな憎しみが込められています。

「俺たちは貴族の道楽に付き合わされたらたまらないんだよ! あんたたちはいつだって傲慢で、身勝手で俺たちを振り回すんだ!」
「こら! 何を言うんだ!」
 
 村長のキンは、軽く少年の頭を叩き、注意をします。少年はシェカと同じようなことを言って言いますが、その様子はシェカより余裕がないように見えます。

 それがどうしてなのか、考えずともみればわかります。この少年はシェカよりももっと必死なのです。明日の食い扶持で自分の生死が変わってしまう……そんな生きるか死ぬかの瀬戸際にいるのです。
 
 わたくしの決定次第では多くの人に迷惑をかけてしまう。それだけならまだしも誰かの命を危うくするかもしれないということを思い知ります。

 全員を救い上げて、道を作るなんて力のないわたくしにはできません。でも、できる限りのことはしなくちゃ。

 わたくしは少年に向かって微笑みます。
 何か決断をしなくちゃいけない時には笑った方がいいのだと、母と先生から学んだのです。。
 口角を上げ、目尻をゆっくりと下げるのです。

「そうですね」

 はっきりと、明確に。異論を許さない口調で言い切りました。
 その言葉に少年が息を止めたのがわかります。

「わたくしはきっとあなたたちにとっては傲慢な存在でしょう。権力者はいつだって、指示をするだけで自分は何もしない。そうあなたは思っているのかもしれませんね」

 わたくしは人によっては酷薄すら感じる、完璧な微笑みをわたくしは作ります。

「あなたに正しい、権力の使い方を教えてあげましょう」

 その笑顔をみた少年の顔はなぜだか、赤く色づいていました。





「君は彼らに傲慢だ、と言われて傷ついてしまったのかな?」

 わたくしは先生のいきなりの質問に目を丸くします。
 傷つく?なぜわたくしが……? 突然の先生の発言に頭に疑問符が浮かびます。突然あんなこと言い出すから、びっくりしたよ……と言った先生にわたくしはなんて言っていいのか分からなくなってしまいました。

「わかりません。でもわたくしは今までの自分にはなかった価値観に出会って、混乱しているんだと思います。
 わたくしは権力者として相応しく振る舞えと教育されてきました。
 だけれど、権力者らしく振舞うことは誰かを犠牲にしなければならないなんて誰も教えてくれませんでした」
「知らない方が、都合がいいからね。知るということは時に余計なものを背負うことになる」
「だけどわたくしは全部背負いたいのです」

 わたくしが何を選んでも、何をやってもそれはわたくしの責任です。
 
「それはわがままですか?」
「おもしろくていいじゃないか。僕、君のそういう傲慢なところ、とっても大好きだよ」

 先生はどこか不敵さを感じる笑みをわたくしに向けます。

「おもしろいついでに、やってしまいますか?」
「なんとなくわかるけど、一応聞こうか。……何を?」

 微笑んだ先生はわたくしに涼やかな視線を向けます。それを笑顔で返します。

「ねえそこのあなた。例えばわたくしが村の皆さんを困らせている魔獣を討伐できたとしたらあなたはわたくしの評価を改めてくださるのかしら?」

 先ほどわたくしのことを睨んでいた少年は目を見開いています。
 わたくしはその表情を見て、にこりと笑みを浮かべます。

「リジェット、あんまりそういうことを言うんじゃないよ、彼らだって生活がかかっているから期待させるのは酷だろう」
「いいえ、わたくしはオルブライト家の人間としてこの領地に住む人々の生活を保証する義務があります。
 わたくしだって今日のうちに討伐ができるなんて思っていませんよ。
 でも状況を確認して、お父様に報告することはできると思うのです」

 その言葉にキン村長はハッとした表情を浮かべます。

「では森の様子を確認してくださると言うことですね!」
「はいもちろんです」

 村の人々は様々な表情をしてわたくしの方を見ています。

 状況が変わるかも知れないと嬉しそうに話し合う人。
 貴族を森にやって大丈夫なのかと心配する人。
 わたくしの横暴さに呆れたような表情をする人。

 みんな表情は様々ですが、もう後には引けない雰囲気が漂い始めています。

 そんな話し合いの中先生にグイッと腕を引かれます。
 
「リジェット、今からでも遅くない。討伐はお断りしてもう帰ろう」
「この空気の中帰れって言うのはもう無理でしょう。わたくしは確認だけでもしてこなければいけないと思います。
 わたくし一人でも大丈夫ですので、先生はぜひこちらでお待ちになっていてください」

 先生の森の暗さでいつもより緑が強く見える瞳をキッと強めに見ます。わたくしの意思は変わりませんから。
 そんなわたくしの様子に先生は少し呆れた表情で腰に手を当ててこちらを見ています。

「君を一人にするわけがないだろう。一緒に行くよ。
 何かあったら困るからね」
「まあ。わたくしったら信用が全くないのですね」

 クスリと笑うと、先生の眉間のシワがもっと深くなってしまいました。
 そんなわたくしと先生のやりとりを村民たちは、どこかハラハラとした表情で見ていました。

「あの、それで……。いかがなさいますか」

 遠慮がちな表情でキン村長は確認する様にわたくしに声をかけます。
「もちろん今から森へ状況の確認に参りますわ。
 さあ、参りましょう先生」
「くれぐれも変な行動をしないでね」
「もちろんです」

 ルンルンで森へ進むわたくしの後ろで先生が、絶対に事故を起こす…‥、と小さく呟いたのが聞こえた気がしましたが、それは無視することにしました。





 農園の奥に位置する森には住人が通ったような獣道があり、わたくしたちはその道をかき分けながら奥へ進んでいきます。

 村の方々の話では森の中心部分に魔獣の巣があるそうです。
 今回先生との話し合いで、今日は討伐は行わず、目視での確認のみを行うと言うことになったので、巣の手前まで歩みを進めます。

「リジェット、魔獣が出たらすぐに身を隠すようにね」
「ハイ、カシコマリマシタ」

 家で剣の先生と魔獣を倒すお稽古をした時は追い払うのがメインで討伐までは行わせてもらえなかったのですよね…‥。今日、魔獣一匹くらい狩れないかしら?
 そんなことを考えていると先生がじっとこちらを睨むように見てきます。

「なんだか返事が棒読みに聞こえた気がするけど気のせいかな……」
「そうですよ! きっと気のせいですよ!」

 わたくしはよく家庭教師を騙くらかす品行方正なお嬢様スマイルを先生に向けます。
 それを見た先生は目の奥が死んだような表情をしていました。

「世界一信用ならないな」

 まあ、先生。わたくしのことがよくわかるようになっていますね!

 奥へ奥へ進んでいくと、何やら空気の質が変わっていることに気がつきます。
 色も心なしか、煙のように黒っぽく見えますし、吸うと少し呼吸が苦しくなるような感じがします。

「リジェット、口を覆ってあんまりこの空気を吸わないようにね」
「はい。……これって何でしょう?」
「魔獣から出る瘴気だね」
「瘴気……、ですか」

 魔獣から出る瘴気ってこんなに毒々しい色味がついているのですか。体に悪そうな物質に眉をひそまめす。

「吸いすぎると痺れが出て、動けなくなるから注意してね。うん。これだけ瘴気が出てきたらもう魔獣がいることは確定だから、ここで引き返そう」
「……そうですか。仕方ないですね」
「そんな残念そうな顔をしないで。このことはセラージュに報告すれば、そっちで対処するでしょう。だから君は手出しは……」

 ザッ!

 先生が話している後ろで植物がざわめく音が聞こえました。
 急いで視線を向けると、後ろに影がかかっています。

「危ない!」

 わたくしは首元のネックレスを引っ張り出し、剣を取り出します。先生の後ろの影に飛びかかり、刃を素早く突き刺します。

「リジェット!? やめるんだ!」
「グワアアァアア!」

 獣の咆哮を聞き、倒し切れていないと気づいたわたくしは大勢を整えて、次の一歩を踏み出します。
 勢いをつけて次の一手を切り出します。

「ふんっ!」

 魔獣の首元に当たった刃はそのまま勢いを止めずに魔獣の首を胴体から切り落としました。そのまま地面にゴトリと鈍い音を響かせました。

「リジェット、魔獣相手だと結構容赦ないんだね……」
「ええ、この前街で襲ってきた相手に対しては殺さないように手加減をしていましたからね。
 はあ! 手加減なしに、剣を振えるってなんて楽しいんでしょう! 大変心が踊りますわ!」

 そう……よかったね……。と一言呟いた先生はよしよしと頭を雑に撫でてくれました。髪型はぐっちゃぐちゃになってしまいましたが、何だか嬉しい気持ちになり、ふふふと笑ってしまいます。

 切り落とした胴体はシュンと音を立てて萎んでいきました。
 え、魔獣って倒すとシュワーっと消えるのですか⁉︎
 今までのお稽古では倒すというより、追い払うという要素が多かったのでこうなる事を知りませんでした。
 シュワシュワと音を立てる魔獣だったものを見つめていると、魔獣の核のような部分だけが残りました。
 核は鉱物のような輝きを持っていて、淡い銀色に色づていました。

「倒しちゃったんだね……」

 難しい顔をしてこちらにやってきた先生が倒した魔獣の核を拾い上げました。

「先生……。この塊がなんだか知っていますか?」
「これは魔鉱だね。魔獣の核になっている部分で、魔術が篭りやすい性質をしているから剣の刃身に使われたり、術具に使われることが多い貴重な素材だよ。
 僕の装身具もほとんど魔鉱で作られているんだよ」

 先生はそう言って自分のピアスをジャラリと揺らしてわたくしに見せてくれました。耳に連なっている金色の金地に色とりどりの宝石と魔法陣が埋め込まれたピアスはいつも素敵だなとは思っていましたが、やっぱり魔術的な要素が組み込まれているようです。

 それにしても魔鉱とやらは聞く限り何かに使えそうな有益な素材のようです。先生に素手で触っていいものか尋ねてから、すかさずネックレスの小物入れに魔鉱を放り込むように仕舞い込みます。

「いや……でもまずいことになったな。一匹倒してしまったらそれが他の個体を呼び出すからこれから芋づる式に魔獣が飛び出してくるよ……。一度村に戻ろうと思っても村に魔獣を連れてきてしまうことになるし……」
「大丈夫です心配しないでください! わたくし、全部倒しますから!」
「いや、無理でしょ」
「無理かどうかは……」

 話をしている途中でも魔獣は容赦なく飛び出してきました。先ほど倒した魔獣よりも少し小さい個体です。
 わたくしはそれを確認し、剣を振るい魔獣もう一匹魔獣を倒しました。

「うわあ。ジビリアンも秒殺か……。結構強い魔獣なんだけどな」
「あのギョロ目ケバケバはジビリアンという魔獣だったのですね!
 そこまで素早くは無かったのでわたくしにも倒せてよかったです」
「いや……。割と獰猛で倒しにくい個体だと思うんだけどな……」

 なんだか先生が遠い目になっている気がします。

「この調子だと今日のうちに魔獣を全滅させるのは無理かもしれませんが意外と片付けられるのではないでしょうか⁉︎」
「リジェット……。君って子は……」
「先生、守りにくいのでもっと真後ろに立ってください」
「普通逆でしょう。僕が君を守る立場なんだからね」

 先生はわたくしの前に立ちはだかるように立とうとします。そんな先生をえいやっと横に追いやります。

「立場とか関係ないでしょう! 先生はか弱いんですから……」

 そういった瞬間魔獣が飛び出してきました。剣を振り上げようとすると先生に遮られてしまいます。
 え⁉︎ と思った瞬間、先生は目の前に飛び出してきた魔獣にパアァーーンッ! と音を立てて勢いよく魔法陣を貼り付けました。
 魔法陣を貼られた魔獣はじゅわり……と切ない音を立てて溶けて小さくなりました。

「誰がか弱いって?」

 あ…‥。こちらを振り返った先生が禍々しい黒いオーラを放ちながら恐ろしく深い笑顔を顔に貼り付けています。こ、怖い……。わたくし先生の地雷を踏んでしまったようです。
 か弱いという言葉は先生には禁句だったようですね……。

「訂正いたします。先生は自分で自分の身を守れるくらいにはお強いです」
「認識を改めなさいね。リジェット! 後ろ!」

 振り向くと魔獣が飛び出してきていました。振り向き様に捻りをつけながら斬りかかります。

「ふふふ……。楽しくなってきましたねえ! 何匹居るかはわかりませんが、わたくしたちに襲いかかってきたことを後悔させてやりますよ!」
「セリフが悪役のそれなんだけど……」

 そう言った先生はとっても苦い顔をしていました。

 
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