氷の公爵と呼ばれた旦那様はただのヘタレですし、妻の私は子猫です

菜っぱ

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家主の心中は察せず、猫道まっしぐら9

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 年下の少女に唇を舐められるというシャルルにとって衝撃的な事件が起こってから、三ヶ月が経った。
 執務室で領主業務に勤しんでいたシャルルは、大きなため息を吐く。

「やっぱり……あの子と婚姻を結んだことは間違いだっただろうか」
「は? 今更何を言っているんですか?」

 傍で書類の整理を手伝っていた使用人のジャンは、主人の血迷った言葉を受けて眉根を寄せる。

「……あの子は家族の愛情に飢えているんだ。ミラジェのことを知ればしるほど、彼女から底知れぬ寂しさと愛情に対する飢えを感じる」

 その後も何日かおきに、ミラジェはシャルルに抱擁を求めた。小さなミラジェは抱きしめられると、安心しきったように表情を緩めるのだ。

 シャルルはそんなミラジェの様子を可愛い、と思うのと同時に、ミラジェが今までに感じていた孤独をひしひしと感じ、切なさを覚えるようになった。

 まだ幼く、心が成長しきっていない彼女に必要だったのは、夫ではなく、彼女自身を百パーセント愛してくれる家族だっただろうに、と。

 自分はその機会を一足飛びに奪ってしまったのではないか、と。

「あなたが寂しくないように支えてあげればいい話でしょう? 今更投げ出すなんて許されませんよ?」

 ジャンの手厳しい言葉はシャルルを頷かせるだけの説得力を持っていた。

「まあ……そうなんだが。婚姻が決まった当初はあまり騒がしくならないうちに、婚姻を破棄してあの子をエイベッド家の養子にでもしようと考えていたが、もうテイラー侯爵家の養子になってしまっているからなあ。テイラー侯爵に面倒をかけることになるのは避けたい。それに陛下も婚姻の儀式に参列しまっている……」

 今更甘ったれたことをいう主人に、ジャンは呆れてしまう。

「そもそもこの婚姻は、王命によるものです。破棄しようものなら反逆罪ですよ……。外堀は固められているんです。観念してください」
「そうは言ってもなあ……」
「若奥様の何が不満なんですか? あんな素敵な方はいないでしょう。私たち使用人にも優しくしてくださいますし……貴族としての勉強も文句言わずに黙々とこなしますし。……あと、何よりちゃめっけたっぷりで可愛いですし」

 ジャンはあの後も度々、ミラジェに入れ知恵をしている。それによって、ミラジェ猫がちょっかいのバリエーションを増やしている事実を、シャルルは知らない。

 ……そして、アレナをはじめとする侍女たちにおねーさま的必勝手練手管を教え込まれていることを知らない。

「それにしたって若すぎるだろう⁉︎」
「何を今更。一応成人は超えているんですからなんの問題もないでしょう?」
「それにしたって、あんな幼い子供に……」
「大丈夫です。国内で坊っちゃんは幼女趣味という評判が広がっていますから。手を出してもやっぱりそうか、とみな納得するだけなので、なんら問題はありません」
「もう評判が広がっているのか⁉︎  国中に⁉︎」

 シャルルは頭を抱える。

「大丈夫です。今まで坊っちゃんはなんでも簡単にこなしすぎて、貴族達に目の上のたんこぶ扱いされてましたけど、このことが発覚したおかげで、皆さん、完璧な人間なんていないんだなあ、と生暖かい目を向けてくれるようになりましたよ?」
「そんな目はいらない!」

 うわああ! と叫びたくなる気持ちを抑えるのにもう必死だ。

「坊っちゃんは、若奥様とじゃれるだけではなく、話し合うことも大切かと思います」
「向こうが勝手にじゃれてきているだけだろう……」

 シャルル言葉を返すことに疲れて、執務机に突っ伏してしまう。
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