氷の公爵と呼ばれた旦那様はただのヘタレですし、妻の私は子猫です

菜っぱ

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事件の顛末とこれからの話4

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「ミラジェ! 君は何をしたんだ!」

 シャルルは伸びる間者を指差して、ミラジェを問い詰める。

「少々、キャットファイトをして参りました」

 うまいこと言った、と言わんばかりの表情のミラジェ。

 ああ、こりゃ何を言ってもだめだ__ミラジェの扱いを覚え始めたシャルルは、叱るのをやめ、ため息をつきながらしゃがみ込む。床に伸びた間者の女の顔をじろりと覗き込んだ。

「ああ。やはりその女だったか」
「? 旦那様はこの女がどこの手の者だか知っているのですか?」
「ホーライド家の御令嬢が放った間者だろう」

 シャルルの言葉にミラジェは一瞬なんだか分からず、思考を一時停止させる。

「ホーライド家って……あの、舞踏会でシャルル様の部屋に入って泣き喚いていた?」

 キョトンとした表情のミラジェがシャルルに聞き返す。

「ああ。彼女は私が冷徹そうに見えて、実はヘタレで女の子に振り回されるのが大好きな男だと決めつけて私に迫っていたのだ」
「当たっているじゃないですか」

 と、ジャンが

「私と……同族?」

 とミラジェがつぶやく。

 その言葉に空気が一瞬、ピシリと凍った。

 「こんなところに競合が……」とミラジェが深刻そうな表情を浮かべると、シャルルはぶんぶん首を横に振る。

「いいやっ! ホーライド家の御令嬢は悪質で……。人の話を聞かず、自分の理想を押し付けてくる気質があった! 彼女に追いかけられて……私は何度悪夢を見たか!」

 なぜだかよくわからないが、弁解するように捲し立てるシャルルを見て、ミラジェは頭にはてなを浮かべてしまう。

(ん? 旦那様は何をこんなに焦っているのだろう)

「それは……災難でしたね。私も自分の固執した考えに飲まれて、旦那様に理想を押し付ける様な真似をしない様に気をつけます……?」
「ミラジェはそんなことしないだろう? 君はいつだって、線引きがはっきりしていて、現実的だ」
「はあ……。私は夢を見るのは布団の中だけと決めているので……?」

 言葉を返せば、返すほど、何を言いたいのか全くわからない、可愛げのない言葉ばかりが口から出てくる。
 ミラジェの様子を見たシャルルは、困った顔でミラジェと向かい合う。

「あのなあ……。ミラジェ、君はホーライド家の御令嬢と自分をどうして同じテーブルにのせようとするんだ?」
「旦那様のもとに押しかけてきたという点ではあの方と私は同じ様な存在でしょう? それに……迷惑をかけたという点でも」
「君は迷惑な存在なんかじゃない」

 シャルルはミラジェの目を真っ直ぐ見据えて言った。

「君は全く気づいていないかもしれないけれど。私は……もうすっかり君に絆されているんだよ」
「まあ……」
「可愛い君と、これからの人生を共に歩んでいきたいと考えている」

 シャルルはここぞとばかりに勇気を振り絞った。
 後ろではジャンが「坊っちゃん……成長して……」と小声でぶつぶつ呟いている。

「えっ……。旦那様、私のこと可愛いと思っていたんですか?」

 意外な言葉に、ミラジェはばっと勢いよく顔を上げる。

「君が部屋にきたり、楽しそうに過ごしている姿は、愛らしいと思っていたが……それがどうした?」

(そっか……。私この家にきて、ろくなことをしていないから、てっきり呆れられていると思っていたけれど)

 受け入れられていたのだ。その当たり前のようで大きい事実が、馬鹿みたいに嬉しい。

 今まで自分が、本当に受け入れられる場所なんてなかったのだから。

 ミラジェはむずむずと口元を緩ませた。
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