不安になるから穴をあけて

森 うろ子

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 俺の母は「あなたのために一生懸命働いてるのよ」と言っていたが俺にはどうにも信じられなかった。珍しくもない母子家庭で、珍しくもなく水商売で、周りの団地の家族もそんな感じだったから不思議にも思わなかったが、今思い返すと家族関係も環境も良くなかった。

 俺はよく不安になった。何日も帰ってこない母と与えられた金が減っていく毎日が。帰ってきた母が見知らぬ男を連れていることが。見知らぬ男が俺に乱暴することが。毎日いろんなことがあって不安になって、この不安はいつまで続くんだろうとまた不安になった。

 中学生のときどうにも不安に耐えきれなくなって、どうにかしようと顔を上げると同じ団地の不良の同級生が楽しそうにしている姿が見えた。

太陽に照らされて光る銀色のピアスが綺麗だった。

家に帰って学生服の名札を止める安全ピンを抜き取って、その日、初めて左耳にピアスの穴をあけた。痛かったけど、痛みのせいなのかなんなのか、少し不安が無くなった気がした。

 中学生でなんとなくあけてしまったこの穴を、どうしたらいいのか分からなくて、もう一度不良の同級生のいる所へ行き、開けた穴をどうしたらいいのか尋ねた。

ちょっと困惑した表情をした不良の同級生は「お前、自分であけるなんて根性あるなぁ」と言ってもういらないからと透明の棒だけのピアスをくれた。同級生は友達にあけてもらったらしい。

どうせくれるならもっとカッコいいピアスをくれてもいいのにと思ったけれど、最初からそういう物はつけないとその同級生は教えてくれた。俺は知識も金も遠慮もなかったのでその同級生からもらったピアスをそのままずっと卒業するまでつけていた。

この思い出は俺にとってはかなりいい思い出のひとつだ。それからはよくないとわかっているけど不安が限界になるとピアスをあける癖がついてしまった。でもまだ左耳に2つしかあいてないからそこまで問題でもないはずだ。

 俺が初めてピアスをあけた記念すべきあの日は俺がオメガと分かった日だった。
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