不安になるから穴をあけて

森 うろ子

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 オメガはどうやら金がかかるらしく、以前よりも母が家に帰ってこなくなった。オメガになると国から金がいくらかもらえるらしいが、母の様子からするとそれでは足りないようだった。俺は生意気にもオメガ枠の推薦と暇つぶしでしていた勉強のおかげで高校生になっていた。

 高校2年生になるといつ来るかわからない発情期に不安になったが、まだピアスの穴はひとつだった。母は家にほとんど帰らなくなったが前よりも多くの金を家に置いていくようになっていたので金の心配は不思議にも少なかった。

 高校3年生になったある日、オメガがつける首輪といつもよりかなり多い額の金と紙切れにごめんねと母の字で書かれた手紙が机に置かれていた。俺の団地ではよくあることで、寂しいと思いながらも思ったよりも遅かったなとぼんやり机を見つめたことを覚えている。

この日はピアスはあけなかった。

首輪はかなり良い物だったらしく、街で他のオメガに会うと「いいものを着けてるね、愛されてるね」と言われたことがある。

そのうち発情期がきて、団地の部屋で自慰をして耐えて、何事もなかったように学校へ行ってというどこにでもいるオメガと同じような生活を送った。自慰と勉強しかすることがなかった俺は成績も良くオメガ枠で都会の良い大学へ行くことになった。

 卒業式の日、団地の部屋に帰ると中学の時俺にピアスをくれた同級生が待っていて「卒業おめでとう」と言ってシンプルなピアスをひとつくれた。彼とは別の高校だった。彼も卒業式だったのだろう名札の上にダサい花をつけていた。

「俺、あげれる物ないけど。」

ぼんやり言うと「そんなこと知ってる」と笑われた。話すのは3年ぶりだ。

「お前、もうここには帰ってこねぇんだろ?」

同級生が聞いてきた。

「たぶん。ここにいてもいいことないからね。」

「俺も。もうここには戻らねぇ。お前とももう会えねぇんだろうなぁ。」

今度は同級生がぼんやりと答えた。あんなに楽しそうに見えた彼にとってもここは面白い場所ではなかったらしい。なんとなくどこに行くのか聞くのはやめにした。

「じゃあな。お互い、いいことあるといいな。」

そう言って去って行く彼に「ばいばい」と声をかけると後ろ手に手を振ってくれた。たぶん彼には見えてないが俺も手を振った。

その日の夜はいつもの夜と同じだったはずなのになぜか不安に耐えきれなくなって2個目のピアスの穴をあけた。

初めてあけた方の穴へその日の彼からもらったシンプルなピアスをつけて、今日あけた穴にはダサい透明のピアスをつけた。不安は消えたはずなのになんだか寂しくて少し泣いていた。
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