不安になるから穴をあけて

森 うろ子

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 昨日何時に寝たか覚えてはいないけど、朝の6時に気分良く起きれているので随分早くに寝たんだろう。あれほど思い悩んだのが不思議なくらい気分は落ち着いている。

「やっぱ寝るのはいいことだな。」

 ひとり暮らしは独り言が増えて困る。…そういえば、茉莉がいつもしないことをしたからというのもあるけど、もうすぐ発情期ヒートだった。だからちょっと情緒不安定だったのか。発情期ヒートの前はちょっと情緒不安定になりがちなんだよなぁ。カレンダーを見ながらげんなりとしてしまう。

はぁ、今月は誰に相手してもらおうか…。

抑制剤を飲んで1人で過ごしてもいいけど、抑制剤は意外と高くて俺にとったらちょっとした出費になってしまう。まぁ前回と同じように大学に行って暇そうなアルファにお願いするか。

発情期ヒートの間のことは毎回悩むけどいい方法も浮かばなくて、結局いつも行き当たりばったりなアルファにお願いすることになる。

体温計で体温を測り、この感じなら3日後かなとあたりをつけて、俺は午後からのんびりと大学へ行った。


 夕方、授業も終わり校門近くを歩いていると後ろから声が聞こえて腕を引っ張られた。

「玲、お前もうすぐ発情期ヒートだろ。」

茉莉だ。急に声をかけられて驚いたのと、今はあまり話したくないのとで変に緊張してしまう。

「だったら何?その聞き方、露骨すぎだろ。」

さすがというか、格の高いアルファの茉莉は鼻が効く。

「別にいいじゃん、もうやることやってるんだし。なぁ、発情期ヒートの相手、俺にしろよ。」

「…なんで、やだよ。」

今は茉莉とあまり関わりたくない。結局ピアスも付けてないし…。

「逆に、なんで?もう相手決まってんの?俺ら発情期ヒートセックスしたことなかったろ。俺も久しぶりに発情期ヒート中のオメガとやりたい気分なんだよ。」

俺も奔放な方だけどもうちょっと恥じらいと遠慮はあるぞ。やっぱり最低だな、こいつ。


「………。なんか、露骨すぎて無理。茉莉、フェロモンで脅してきそうでやだ。」

「はっ。玲がいい子にしてたらそんなことしねぇよ。ホテルの1番いい部屋予約してやるから、こいよ。」

…1番いい部屋。茉莉が用意する部屋ならめちゃくちゃ良さそう……。

「………でも……。」

いつもならすでに二つ返事で頷いてるところだが、まだ渋る俺に茉莉がさらにいい条件を出してきた。

「なんだ、贅沢な奴だな。送迎付き、財布は持って来なくていい、発情期ヒート中の金は全部俺がもつ。なんなら実用的な贈り物付き。」

うううっ。めちゃくちゃ条件いい。他のアルファでもなかなかここまでは……。

「めちゃくちゃ条件いいけど。逆になんでそこまで?茉莉、何か企んでる?怪しいんだけど。去るものは追わない主義だったろ。」

「まだ渋るか。別になんも企んでねぇよ。人聞き悪いな。普通に、発情期ヒート楽しみたいだけ。俺、別にそんな主義になったつもりねーよ。」

なかなかいい返事をしない俺に焦れたのか肩を抱いてくる。

「なんだよ。」

首筋に鼻を当て匂いを嗅がれる。嫌なんだけど…。

「この感じだと後3日ってとこだな。当日、玲の家に迎えに行くから。いいだろ?」

肩を抱かれたまま耳元で囁かれる。心地いいアルファの香りがして、茉莉の機嫌が良いことに安心する。ピアスも見えてるだろうに何も言ってこないことを考えるとあれは戯れてただけか。それならいいんだ。

「わかった。フェロモンの香りで発情期ヒートの日にち当てるとこはマジでバケモンのアルファだな。3日後、家で待ってるから迎えにこいよ。」

俺が返事をすると茉莉はにっこりと笑顔になり俺から離れた。

「やっと返事したか。贅沢野郎。迎えに行くから大人しく悶えてろよ~。」

約束を取り付けると上機嫌に手をヒラヒラさせてすぐに去っていく。相変わらず口の悪い奴。俺はそう思いながらも、すぐに去っていく茉莉になんとなく寂しさを感じていた。
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