不安になるから穴をあけて

森 うろ子

文字の大きさ
5 / 22

5

しおりを挟む
「なんだってこんなものを。」

大学の授業が終わりワンルームの部屋に帰ってくると茉莉のくれたピアスを見ながらひとりごちた。

少しかわいい感じのデザインのピアスだ。高いのだろう。ボロアパートの電気の下でも綺麗に光っている。取り出して耳に当てたりもしたけど、なんだかつける気になれなくて、そのまま箱に戻した。他のアルファがくれたプレゼントと一緒に棚の上に置いたけど、なんだか落ち着かない。

今日はアルファとの約束はない。暇だ。適当にテレビをつけるけど面白いものもなく見るのをやめてベッドに横になる。

『うん』と返事はしたものの茉莉のピアスをつけなかったからなのか、なんだか約束を破ったようで落ち着かない。

「別に約束したわけじゃないか。」

また独り言を言って、夕食を買いにスーパーに行くことにした。カレーにしようかと思ったけど、そういえば高級レトルトカレーをもらってからカレー続きだったことを思い出す。

「はぁ。生姜焼きとかにするか。」

財布とエコバッグを持って立ち上がり、近所のスーパーへ歩いて行った。豚肉が思いのほか安売りだったので予定通り生姜焼きを作ることにして、買い物を終えてスーパーを出ると茉莉がいた。

「よぉ。なに?買い物?」

気づいた茉莉が声をかけてくる。

「そうだけど。茉莉こそなんでこんなとこに…。スーパーなんて来ないだろ、普段。」

悪いことをしているわけではないのに気不味い。

「まぁな~。スーパーとか用ないからな。でも今日は待ち合わせ。さくらがご飯作ってくれるんだって。…お、来た来た。じゃあな~。」

手をヒラヒラさせて茉莉が去っていく。
目線を上げると、背の低い可愛い感じの女の人が茉莉に手を振っている。首輪をつけている、オメガの子だ。

茉莉が他の子とも手広く遊んでいるのは知っているが、こうやって鉢合わせのような感じになると気不味い。これからスーパーに入るのか少し遠くで話してからこっちに向かってくる2人から逃げるように反対側へ歩き出す。

俺の家が反対方向でよかった。俺がピアスをつけてないことに茉莉が触れないでくれてよかった。

茉莉の方を振り返りもせずにまっすぐ、無心で家に帰る。ボロアパートの鍵を開けて、そのまま生姜焼きを作り出す。考えるな、不安になる。何かに追われる様に生姜焼きを作り上げる。

一心不乱に作った生姜焼きはそれはそれは美味しくできたのに、そんなことよりも棚の上の茉莉がくれたピアスが視界に入る。何かを考えようとして不安になるたびに考えるなと自分に言い聞かせ、胸のつっかえを無理矢理無視した。

ふと、こんなに苦しいなら茉莉のピアスをつけてしまえばいいと思った。中学の同級生とはもう会うこともない。別にこの安っぽいピアスを外したところで文句を言ってくる奴もいない。

茉莉のピアスをつければこの不安から解放されるのだろうか。つけたところで意味はないかもしれない。つけてみてダメだったら外してしまえばいい。そうすれば元通りのはずだ。

この部屋には、今は俺1人。俺のことを見ている奴は誰もいない。

オメガの俺が、この部屋には1人。

勉強して、オメガの俺には十分すぎるくらいの学校に通って。周りにお金を援助してくれるアルファもいて、綺麗に生まれたこの容姿も十分で。それなのに、部屋に、1人。

「中学の時と何も変わらないじゃないか。」

布団に独り言を言って何も考えない様に、そのまま寝た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

かえり、みち

真田晃
BL
エセ関西弁の幼馴染みと、歩いて帰る。 明るいコイツのお陰で、外灯の少ない真っ暗な田舎道も怖くなかった。 なのに、何故だろう。 何処か懐かしさを感じてしまう。 コイツとはいつも一緒に帰っているのに。大切な何かを、俺は──忘れてしまっている、のか? 第一章:シリアスver. 第二章:コミカルver.

初めては好きな人と

riiko
BL
オメガの奈月は、叔父の借金のために体を売らなくてはならない状況になった。せめて体を売る前に、初めては好きな人と経験したい。 奈月は高校時代に想いを寄せていたアルファがいた。願わくばその彼と最初で最後の思い出を…… ベータ上がりのオメガがアルファと一夜の想い出をつくるため奮闘する!! しかし、アルファは奈月のことを…… 同級生ラブ 高校時代からロックオンしていたアルファ×ベータ上がりの無自覚オメガ 割とコミカルなオメガバース作品です。 どうぞお楽しみくださいませ☆

塩対応の同室αが実は俺の番を狙っていた

雪兎
BL
あらすじ 全寮制の名門学園に入学したΩの俺は、入寮初日から最悪の同室相手に当たった。 相手は学年でも有名な優等生α。 成績優秀、運動もできる、顔もいい。なのに—— めちゃくちゃ塩対応。 挨拶しても「……ああ」。 話しかけても「別に」。 距離も近づけないし、なぜか妙に警戒されている気がする。 (俺、そんなに嫌われてる……?) 同室なのに会話は最低限。 むしろ避けられている気さえある。 けれどある日、発情期トラブルで倒れた俺を助けてくれたのは、 その塩対応αだった。 しかも普段とは違い、必死な顔で言われる。 「……他のαに近づくな」 「お前は俺の……」 そこで言葉を飲み込む彼。 それ以来、少しずつ態度が変わり始める。 距離は相変わらず近くない。 口数も少ない。 だけど―― 他のαが近づくと、さりげなく間に入る。 発情期が近いと察すると、さりげなく世話を焼く。 そして時々、独占欲を隠しきれない視線。 実は彼はずっと前から知っていた。 俺が、 自分の運命の番かもしれないΩだということを。 だからこそ距離を取っていた。 触れたら、もう止まれなくなるから。 だけど同室生活の中で、 少しずつ、確実に距離は変わっていく。 塩対応の裏に隠されていたのは―― 重すぎるほどの独占欲だった。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

処理中です...