不安になるから穴をあけて

森 うろ子

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 ヒュッと自分が息を飲む音が聞こえた。
茉莉はずっと見ていたんだ。気づかないわけないじゃないか。俺は答えることができず、茉莉を見上げる。……理由がわからない、何でなんだろう。自分のことなのに。付け替えてしまえばよかったじゃないか。

「約束したよなぁ。俺のピアスつけるって。」

茉莉の怒気を含んだフェロモンが苦しい。さっきまであんなに気持ちよかったのに。俺が何も答えないでいると茉莉に左耳のピアスを耳たぶごと引っ張られた。

「いっ!いたいっ、痛い、茉莉‼︎ごめん、ごめんなさい。茉莉、痛い!」

アルファが怖い。茉莉が怖い。こんなに怒っている茉莉ははじめてだ。発情期ヒート中で茉莉のフェロモンにはいつも以上に抵抗できなくなっている俺には謝ることしかできない。

耳がちぎれそうで、痛くて、茉莉の俺のピアスを掴んでいる手の手首を掴み返して、「やめて」と力なく言う。

「質問に答えろ。なんで、ピアスをつけてねぇんだ?」

「わ、わかんない、わかんない。なんとなく、なんとなくつけてないだけ。ごめ、ごめんなさい。そんなに怒ると思わなかった。ごめん、ごめん、怒らないで。」

耳を引っ張られる痛みと茉莉がひどく怒っていることへ涙が出てくる。情けない、オメガの俺はなんて情けないんだ。泣きながら「ごめん」と「やめて」を繰り返す俺にチッと大きな舌打ちをして茉莉が俺の耳から手を離した。

少し、血が出ていた。

耳を解放してもらえて少しホッとする。
俺に馬乗りになっていた茉莉が俺を解放するとタンスから適当な服をとって投げつけてきた。

「っわ!」

「さっさと着替えろ。そんなに汚ねぇんじゃタクシーに乗れねぇ。」

「ご、ごめん。」

 謝ってすぐに着替える。茉莉が遅れたこととか、怒っていることとか聞きたいことは色々あったけど聞けなかった。着替え終わった俺に「行くぞ。」とまだ苛立ったままの茉莉が声をかける。茉莉の手には俺が準備しておいた荷物と、他のアルファの贈り物と一緒に棚に置いていた茉莉がくれたピアスが握られていた。

 茉莉に手を引っ張られてタクシーに乗り込む。ときどき振り返って俺を気遣う様子や、優しくタクシーに乗るように促す茉莉はさっきとは別人だ。優しい茉莉に発情期ヒートがぶり返してくる。タクシーの中で俺の方を抱く茉莉が「もう少し我慢しろよ」と優しく言ってくれる。

あんなことをされたのに、茉莉の優しい声に俺の後孔は期待して涎をたらす。恥ずかしくて茉莉の胸に顔を押し付けるともっと強く抱いてくれて、優しく俺の髪をすいてくれる。気持ちがいい。

 1人でいるよりよっぽどいい。嫌なことをされてるのに嫌いになれない。茉莉のそばが、落ち着く。茉莉の優しいフェロモンにまた発情期ヒートが高まっていく。茉莉が俺の髪を優しくすくたびに、声が漏れそうになる。震えながらそれを耐える俺を茉莉は愛おしそうに見つめていた。
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