不安になるから穴をあけて

森 うろ子

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 発情期ヒートもそろそろ終わろうかと言う頃になるとあれだけ熱に浮かされていた頭もだいぶはっきりとしてきた。無理やり俺にピアスをあけたことが嘘のように、茉莉は甲斐甲斐しく、それはそれは本当に甲斐甲斐しく発情期ヒート中の俺の世話を焼いてくれた。

 随分と高級そうなホテルの部屋の中で、茉莉に綺麗に洗ってもらった身体で、茉莉に着せられた服で、茉莉の膝の上に抱き抱えられて軽食をつまむ。俺の好物ばかりを選んで、俺の口に入れてくる茉莉は本当にあの茉莉なのだろうか。

「お前、本当に茉莉?世話焼き過ぎで気持ち悪いんだけど。」

訝しそうに茉莉をみて悪態をつくと茉莉がにっこりと微笑んで俺の口の中に小ぶりな苺を突っ込んでくる。

「気持ち悪いとか、ひどいな。玲はもう発情期ヒート終わって正気に戻っちゃった?わけわかんなくなって俺を渇望する玲は可愛かったのになぁ~。」

もぐもぐと茉莉に与えられた苺を大人しく咀嚼していると茉莉が揶揄からかうように言ってくる。よくわかんねぇ、俺の質問に答えてないし。ただやっぱりなんとなく失礼なこの物言いは間違いなく茉莉だ。そんなことを考えながら、思ったよりも美味しかった苺をもうひとつくれと茉莉に口を開けて見せて催促する。

「ははっ!なんだその顔!まぬけだなぁ~。やっぱりまだ発情期ヒートで少しぼんやりしてる?素面の玲なら1人で食べれるとか言って可愛げないもんな。」

カラカラと笑った茉莉が俺の口に苺を入れる。それを大人しく咀嚼し始める俺の頭を撫でて、茉莉が可愛いと小さく呟き額にキスを落とす。ぼうっと苺を咀嚼しながら、されるがままになっている俺は心の中でお前もだろとつっこんでおく。

茉莉が楽しそうだ。

楽しそうな茉莉に俺も嬉しくなってくる。これはきっとまだ発情期ヒートだからだ。きっと、たぶん、そうだ。

楽しそうな茉莉を見つめていると、急に茉莉が不機嫌そうに言ってきた。

「なに、なんで喋んないの?無視とか小学生みたいなことしてんじゃねーよ。」

「いや、別に無視したわけじゃなくて。楽しそうだなぁと思って……。」

急に不機嫌になった茉莉にびっくりして答える。

「玲は楽しくないのかよ。」

「…いや、……楽しい…けど………。」

「けど、なに?」

「茉莉が楽しそうだと思って…。」

「だから、なに?」

「珍しいなと思って、見てた。」

「……別に珍しくねーだろ。」

なんだかバツが悪そうに顔を背けて手で隠している。茉莉は気分屋でよくわかんねぇ。不機嫌ではなくなったものの、なんだか顔を合わせてくれない茉莉の膝の上は居心地が悪くて、もぞもぞと動き立ち上がる。そのままフルーツの盛り合わせを行儀悪くいくつか手で摘んで口の中に放り込み、せっかくのスイートルームとやらをちゃんと見ておこうと茉莉のそばを少し離れようとすると手首を捕まえられた。

「どこ行くんだよ。」

「明日で発情期ヒート終わりだから。高級な部屋を探検しようかと。」

「…あー、そうだな。」

 素直に答えるとまた気まずそうにして手を離してくれた。これは見てきていいという合図だ。

 発情期ヒート中のオメガの行動を制限したくなるのはアルファの性質的によくあることらしい。今回の発情期ヒートでやたら茉莉が「どこに行くのか」や「何をするのか」を問いただしてくるので不思議に思って聞いてみたら茉莉が教えてくれた。

 最初は戸惑ったけど、慣れてくれば段々と茉莉の許容範囲がわかってくる。いいのならばと、気にせず部屋を探検しに行くと後ろからついてくるもんだから高級そうな調度品についていろいろ質問してみると、簡単に返事が返ってくる。

 大きなドレッサーだ。立派な鏡も付いている。ここで、茉莉があけたピアスの穴を見せてもらった…。ドレッサーの鏡の前で茉莉が開けた右耳のピアスの穴をマジマジと見つめる。そこにはファーストピアスが刺さっていて、特に腫れた様子もなく綺麗だ。ドレッサーの机の端に置いてあるくだんのピアスの箱を手に取って開けてみる。

可愛くて、綺麗なピアスだ。嫌いじゃない。

スイートルームの綺麗な照明に照らされてキラキラと光っている。なにか宝石でも使ってあるんだろう。

「茉莉のくれたピアス、綺麗だな。俺のボロアパートの蛍光灯の下よりよっぽど綺麗に光ってる。」

俺の少し後ろにいる茉莉に声をかける。

「何が言いたい。」

あまり機嫌の良さそうな声は返ってこなかった。

「別に、感想を言っただけ。なぁ、これ、つけねぇの?そのためにあけたんだろ?」

茉莉の方を振り返って箱に入ったままのピアスを右耳に当てて似合う?と笑ってふざけてみた。すると後頭部をガシガシと掻きながら、茉莉が呆れたと言った風にな顔をして俺からピアスの箱を奪い取ってドレッサーに置いた。

そのまま「はぁ~。」と深いため息を茉莉につかれ、やや強引にベッドに引っ張られた。

「わっ!なにすんだよ。」

2人でドスンとベッドに倒れ込んでもたいして衝撃はないがビックリして声を上げる。びっくりする俺を無視して茉莉は後ろから俺を抱きしめるようにし、耳元で話し始める。

「玲は緊張感なさすぎだし、アホすぎ。ピアス2個も開けてるのに知らねぇの?ああいうのは最初から付けねぇんだよ。」

「そんなこと知ってるし。あれだけピアスに執着していた茉莉様なのですぐにつけたいのかと思って気をつかってやったんだよ。」

嫌味のように言ってやると耳にフッと息をかけられた。

「ひゃっ!」

思わずくすぐったくて声が出る。それを見て茉莉がニヤリと笑う。

「じゃあ、緊張感なさすぎ。俺、玲のトラウマになってもしょうがないようなことしてるのに。」

「あれ、確信犯なんだ。計画的犯行?」

怒っているようなフェロモンが茉莉から出ていないことを確認して、揶揄うように言って茉莉の方を向き、抱きついて見上げる。発情期ヒートも終わりの方だとはいえそろそろ後ろが寂しいと訴えている。オメガというのはどうしようもない性らしい。

「知りたい?」

悪戯な笑みをした茉莉はどうやら俺の意図を汲み取ってくれたらしい。茉莉の答えは聞きたいような、聞きたくないような……。

「……発情期ヒートが終わってから…。」

「現金なやつ。」

そう言って俺の口を塞ぐ茉莉も同じだろうと、また熱に浮かされはじめた頭の隅で思ったことは内緒だ。

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