不安になるから穴をあけて

森 うろ子

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「はぁ、なんか俺、怒ってばっかりだな。もういいや、茉莉、はやく消毒しろよ。」

深いため息をつきながら言うと茉莉が肩をグッと寄せてきて「悪かったって、ほんとに。」と言いながら軽いキスをしてきた。

…やっぱりからかわれてる。

「ほら、機嫌直せって。耳、見せて。」

ムスッとしている俺を寝転ばせて膝枕をさせられる。…そう言う気分じゃないけど。俺の右耳をじっくりと見ながら「意外に綺麗だな。大丈夫そう。」と呟いて少しヒヤッとする消毒液を綿棒のようなものでポンポンと付けられた。

「はい、これで終わり。」

そういうと同時に茉莉がフッと右耳に息を吹きかけヒヤッとした感じにゾワゾワとする。思わず耳を手で覆って起き上がり茉莉を睨む。

「うわっ!何すんだよ、俺で遊ぶな。てか、これだけ?このくらいなら言ってくれれば自分でできたのに。」

「ま、ピアスなんてあけちまえば傷に触るようなことしないのが基本だからな。風呂入った時に水で洗っとけよ。」

カラカラと気持ちよさそうに笑いながら茉莉が言う。そのままスッと立ち上がりキッチンの方へコーヒーを入れに行った。

「え、コーヒー飲むの?」

「講義で疲れてんだよ、ダラダラさせろよ。」

「アルファってダラダラするの。見たことねぇけど。」

「さぁ?普通にすると思うけど。俺はする。特に玲の相手は疲れるからなぁ~。」

だったら帰ればいいのにと思いながら、俺といるのは疲れるのかとなんとなく少し残念になった。黙って茉莉がコーヒーを飲みやすいように机の上を片付けているとそんな俺を見ながら茉莉がフッと軽く笑みを浮かべてるように見えた。

「なに見てんだよ。」

「いや、ちゃんと机を片付けてえらいえらい。」

「なんだ馬鹿にしやがって。だいたい、初めて会った時もそうだったよな。幼児をあやすみたいに、贅沢させてやるからおいで?だっけ?茉莉は俺のこと馬鹿にしすぎだろ。」

茉莉がマグカップをふたつ持ちながら部屋に戻ってきた。

「今日の玲はご機嫌斜めかぁ?俺、癒されたいんですけど~。……はい、これお詫び。」

冗談混じりに言いながら俺の前にマグカップをひとつおく。

「俺、コーヒー飲めねぇ。」

ぶすっとしたまま言う。

「牛乳と砂糖増し増しだからカフェオレみたいなもんだよ、飲めるだろ。お詫びなんだから飲んどけって。」

「ひどく強制的なお詫びだな。」

そう呟いて飲んだコーヒーもどきは残念ながら美味しかった。今度から俺の家に来た時は作ってもらおう。素直にコーヒーもどきを啜る俺を見ながら茉莉が柔らかく笑って、目にかかる俺の前髪をすくう。

「ふっ。可愛いね、玲。」

「なに?雰囲気出してんの?今日はヤる気ねぇよ。」

その手に乗ってたまるかと茉莉の甘いセリフを適当に流してやった。

「心外だなぁ。…ねぇ、玲、この前の発情期ヒートどうだった?」

なんてデリカシーに欠けたことを聞いてくるんだと思い茉莉をマグカップ越しに睨んでやれば、思ったよりも真剣な顔で茉莉が俺のことを見ていた。

俺は真剣な茉莉に驚いてどぎまぎしてしまう。

「ど、どうって。どういうこと。別に…。」

「いや~、これでも酷いことしちゃったなって思ってるんだよね、俺は。メッセージもまともに返さねぇは、ラットになって無理矢理ピアスあけるわ。大丈夫?玲、病んでない?」

「……もっと言い方あるだろ、おい。てか自覚あったのかよ。…別に、なんともない、発情期ヒート中のこと、俺、あんまり考えないようにしてるから。嫌いなんだよ、発情期ヒート。考えてもどうにかなるもんじゃないし。」

「酷いことした俺にもっと怒っていいって言ってるんだけど。てか、玲は発情期ヒート嫌いなの?なんで。いろんなアルファとヤってんじゃん。」

「はぁ?何その言い方。気分悪りぃ。もう帰れよ、茉莉。」

茉莉に悪気がないのはわかるし、俺の行動を見てればそう言いたくなるのもわかるけど…人の気も知らねぇで。

俺は思わず低い声がでてしまった。

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