不安になるから穴をあけて

森 うろ子

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ボロいアパートのカーテンの隙間から薄っすらと朝日が差し込んでいる。昨夜が大変お楽しみだったことは覚えているけど……。茉莉は狭いベッドから抜け出し、小さな音でテレビのニュースを見ながらコーヒーを飲んでいる。

「…意外と背中がでかいというか、ガタイがいいな。」

ぼんやりと茉莉の背中に声をかける。
俺の声に茉莉が振り返り、優しく頬を包まれる。

「今頃気づいたのかよ。」

いつも通り意地の悪いことを言われているのに仕草が優しい。よくもまぁ、こんなに上等なアルファが………。信じられない、不安だ。幸せなのに、不安だ。

「玲が気づいてなかっただけで、意外とガタイがいいからな。噛もうと思えば強引に番えるけど。………まぁ、卒業までは、待っててやるよ。どうせ、不安なんだろうし。」

思わず不安な気持ちを言い当てられて緊張する。ビクリと強張った俺の表情を見て茉莉が続ける。

「なんだよ、待つって言ってるんだから喜べよ。」

強張った俺の頬っぺたを横にちょっと痛いくらいに引っ張られる。

「あ、ありがとうございます?」

「どーいたしまして。その代わり、俺以外の奴と寝るなんて論外だし、物を貰うのもなし。ピアスなんか開けたら噛み殺すからな。」

べチンと音はしなかったが充分に頬っぺたを引き伸ばしてから勢いよく離された。

「痛いっ。……てか、そんなことしないし。するの、茉莉くらいだし。」

「どーだか。今までの素行が悪くございましたので。…ほんとは、今すぐ番てぇけど、サービス、玲にだけ、サービス。」

なんてできたアルファなんだろう。
好きな人と付き合うことができて、たまたまその人がアルファだったなんてすぐに番う話になってもおかしくないのに。正直、幼い頃の母との思い出も環境もあってすぐに番うのは不安だ。

俺は今、茉莉に大切にされているのだろうか…。

「ど、どれくらい、待ってくれる?」

気の合うアルファとオメガが出会ってすぐ番わないなんて滅多にある話じゃない。俺はどのくらいで答えを出せば茉莉に嫌われないんだろうか。

「そうだね、玲は意外と心配性で不安になりがちで、堅実的だからな。大学して、就職して1年経つまでかなー。」

俺を隣に引き寄せて肩を抱きながら意地の悪い笑みを浮かべて言われる。

「…そっか、わかった…。」

「なに本気にしてんだよ、冗談だ、冗談。理想はそうだけど、待つよ、玲がいいっていうまで。まぁ、こうなった以上、玲には俺を選ぶ以外の選択肢はないからな。…俺以上のアルファ、いるとでも思ってんの?」

茉莉が笑いながら、軽いキスをしてくる。俺はどうやら思っていたよりもずっと大切にされているみたいだ。嬉しくて、照れ臭くてなんていっていいかわからなくて上目がちにそっと茉莉を見上げる。

「あれ?また惚れ直した?ちょろすぎだろ、玲。心配だな~、こんなにちょろくて。ま、予定が早まるのは大歓迎なので。とりあえず、惚れ直したみたいだし、もう一発いっとく?」

悪戯な笑顔の茉莉が目の前にいる。いつもの茉莉だ。俺が好きな茉莉だ。嬉しくて、でもやっぱり少し恥ずかしいのでグーで茉莉の身体を押し返しながら

「うるせー。せっかくちょっと良いやつかもって思ったけど、最低だ。」

と笑いながら言ってやった。




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