魔王様と禁断の恋

妄想計のひと

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1章

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魔王様と青年はその後も戦い、偶に茶や食事、もっと偶にスキンシップもしていた。

「陛下もその内、あの青年のことを好きになるとは思っていましたが、こんなに早いとは思いませんでした」

「何の話ですか?」

「もう済ませたんですか?」

「何のことですか?」

リタはとっくに魔王様と青年の間に身体の関係があると思っていた。

「何も、何もしていません」

頬を赤くしながらも呟く主を見て、余りに初心であった為、リタはもしかしたら本当にまだ身体を繋げていないのかもしれないと思った。

この主はもう何歳になるか分からないが、ずっとこのように純粋であってほしいとリタは願わずにはいられなかった。





また5年が経ち青年は26歳となった。
その日、青年は気分良く魔王城へやって来た。

「レイリン、明日も魔王城にいる?」

戦う事もなく話し始める青年に、魔王様も苦笑いしながら応えた。

「明日も用事はありませんよ」

魔王様の用事なんて魔王様次第だった。

「それなら明日は空けておいて」

それだけ告げると青年は直ぐに魔王城から出て行ってしまった。魔王様はいったい何だったのか分からず、少し考えて見せたが、気にせずにそのまま座り続けた。

リタにはその日が何なのか分かったが、特に何も伝えなかった。




次の日、朝から暗い雲がかかり、異様な空気を放っていた。魔王様も様子がおかしいと外で空を見上げていた。

「陛下、これは?」

「分かりません。嫌な感じがします」

魔王様は首を横に振り、身体に感じる変な圧迫感に不快な表情を浮かべた。

「中に入りましょう。こんな感じは初めてです」

魔王城へ身を返した瞬間、眩い光が身体を包み、凄まじい炸裂音が鳴り響いた。衝撃で身体が吹き飛ばされそうになる。
数秒の間身動きが取れず、身体が痺れたような感覚があった。

衝撃波が収まり、何が起こったか理解しようとするが、一瞬のことで何も分からなかった。魔王様もその力の源を探ろうとした。

これは天界からの雷?どうして?そして気がかりなことは、この雷がどこに落ちたのかだった。

「陛下!」

魔王様は顔をこわばらせ、リタの声を聞かずにすぐに人間界へと向かった。

雷が落ちた所は雲が割れ、光が差し込んでいる。魔王城からも近い。

走っているわけでもないのに魔王様の呼吸が早くなり、直ぐにそこに着いた。

そこには大きな都市があるはずだった。今は家の影も人の姿も何も残っておらず、大地が抉れ、大きなクレーターの跡があるだけだった。

魔王様はこの都市のことは殆ど知らなかった。何度か行ってみるかと話もしたが、実際行くことはなかった。

今ではその話をした人の姿がどこにも見えなかった。

その日は初めて天雷が落ちた日であり、青年が決めた魔王様の誕生日だった。





魔王様はどうやって魔王城に戻ったかあまり記憶になく、リタの言葉も耳に入ってこなかった。

「彼が巻き込まれたとは限りません」

魔王様の頭の中には、青年が言った「明日は空けておいて」という言葉しかなかった。魔王城にいたら青年が来るかもしれない。
そう思い自室に籠り、ベッドでうつ伏せになって呆然としていた。

どれだけ時間が経ったか分からないが、部屋は暗闇に包まれていた。

突然、寝室の静寂を破る声がどこからか発せられた。

「魔王様は約束を違えるの?」

「‼︎」

その声は待ち望んでいた青年のものではなく、直ぐには誰だかわからなかった。
魔王様は一瞬で反応し、右手を握りながら起き上がった。

「ああ、私のことを忘れてしまった?なかなか来てくれないから、わざわざ迎えに来たのに」

迎え?何のことだ?魔王様には理解出来ず顔をしかめ、自分の部屋に突然現れた異様な存在に対して、身体中から警報音が鳴り響いた。

警戒しながら魔王様は呼吸を整え、言葉を発した。

「あなたは誰ですか?」

「本当に忘れた?100年前に約束したはずだ」

ゆらりと部屋のすみの影が動き、何者かが姿を現した。

魔王様は影の方へ身体を向け、眉をひそめた。
その姿を見た時、この仕草は自分よりも魔王と呼ばれる存在なのではないかと、魔王様本人でも思うほどだった。

「闇夜に紛れて寝室に忍び込む天帝がいるとは思いませんでした」

「思い出してくれたみたいだ」

にっこりと冷ややかな笑みを浮かべた天帝は、ゆっくりと魔王様に近づき握られた拳にそっと手を添えた。
ビクっと身体を震わせ、魔王様は闇の中で光る黄色の眼を睨んだ。

「3日間だけ私のモノになってもらう約束だ」

青年との約束のこともあり、この天帝を相手にしたくない魔王様だったが

「約束は約束です」

魔王様にとって、敗者の約束は優先事項でもあった。





天帝に連れられて、魔王様は天界の宮殿へと来ていた。
白を基調とし僅かに金の装飾が施され、大きく聳え立つその姿は100年前と埃一つ違わないようだった。

魔王様の頭の中では自分の身の上よりも、青年の事を考えていた。

この天帝が自分へと送った合図があの雷であるならば、あの都市がただの大きな穴になってしまったのは、自分のせいなのではないか?もし青年が帰ってこなかったら、彼を殺したのは自分なのではないか?

考えれば考えるほど吐き気とめまいが身体を襲う。
元はと言えば何故この天帝はこんなことをしたのだろうか?自分との約束一つで都市を滅ぼすなんて狂っている。

その狂っている天帝の後に続いて、1つの部屋に案内された。そんなに狭くない1室なのだが、中央に置かれた大きな天蓋付きのベッドのせいで余計に狭く感じる。

魔王様の顔色は白から青へと色変わりした。

「これ、は?」

首に油が差さっていないのか、魔王様はぎこちなく振り返り、閉じ込めるかのように扉の前に立っている天帝に問いかけた。

「3日間私の好きなようにするだけだ」

さぁ、と腕を引かれて魔王様はベッドへと誘われるが、足は重く死刑台に登っていくような気分だった。
そんな魔王様とは対称に、天帝の歩調は軽やかだ。

これは何とかしないと、魔王様は100年前に負けた時も同じような危機感を覚えたのを思い出した。

だが結果、問題を先延ばしにしていたに過ぎなかった。

どんなに鈍い魔王様でも、この誘いの意味する所は何かぐらい分かっている。
魔王様は腹を決める時が来たのだと自分に言い聞かせるが、吐き気はどんどん強まる一方だった。

天帝はベッドに腰をかけ、魔王様はすぐ目の前に立った。
黄玉と紅玉の光りが交り、そっと紅玉は腕を引かれた。





雷の落ちた日、魔王様が消えてしまった事に困惑したリタは、どうするべきか考えていた。魔王様は青年を捜しに行ったのだろうか?それならば自分は魔王城に残るべきだろう。

突然の雷によって人間界も魔界も騒然としており、2人の魔族が魔王城に訪れて何事かと問うてきたが、肝心の青年の姿はなかった。

そして4日が経った時に魔王様は帰ってきた。

その時の魔王様は酷く疲れており、生気がなかった。リタも何と声をかけていいか分からなかったが、青年が見つからなかったせいなのだろうと思った。

だが次の日になっても魔王様の様子は変わらなかった。

いくら青年を気に入っていたからと言っても、これはあまりにも様子がおかしいと、意を決してリタは魔王様の寝室へ入った。

魔王様は椅子にかけて何やら悩んでいる様子で、リタの思っていた落ち込んでいる姿とは少し違っていた。

「陛下?」

「あの雷は天帝の落とした天雷でした」

リタも100年前の魔王様と天帝との話は聞いていたが、まさかと思った。

その後、魔王様は天帝が部屋に来て天界へ連れて行かれ、3日間軟禁、いや監禁された話をした。

なんとなくリタは察して、今後どうするべきかを話すことにした。

「100年に1度あの天雷が落ちるのであれば、また100年後に陛下は監禁されるということですか」

淡々と事実を並べただけだが、天帝への憎しみで魔王様の顔は酷く醜く歪んでいた。

「それもありますが、こんな私情で大勢の人間を巻き添えにする天帝がいますか?あの狂った天帝を何とかしない限り、今後も犠牲者が出ます」

リタは、これでは魔王と天帝の立場が逆なのではないかと思ったが、魔王様が優しいことを1番理解しているのは自分であった。

「でも今の私では歯が立たない事は分かっています。100年後までに力をつけて天雷を阻止しようと思います」

だが魔王様は脳筋だった為、力で解決するしか無かった。

リタは、天帝が相手ではそう簡単な話ではないことを理解していた。

天帝とはそもそも何者なのか、天帝が人を作ったとされているがどのような能力を持っているのか、あまりにも自分は天帝について知らなさ過ぎた。
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