魔王様と禁断の恋

妄想計のひと

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1章

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それから魔王様は力をつけるべく、鍛錬に励み続けた。何年、何十年、その年月は魔王様にとっては短く、人間の生にとっては長かった。

魔王様は青年の事を忘れたことはなかったが、人間界では天雷は神の怒りとし、怒りに触れた都市が存在した事を記述するだけだった。

だがある日、魔王城にとある人物がやってきた。
この衝撃は魔王様の傷を深く抉るのに十分だった。

その姿はまだ少年で16歳ぐらい、黒髪三つ編みで端整な顔立ちをしているが、まだ少し可愛げが残っているランシュエその人だった。

「これはどういう事ですか?」

「こんな馬鹿げた遊びをするのは、私の知っている限り天帝ぐらいでしょう」

リタの質問に、魔王様は頭の中であの狂った天帝の姿を思い浮かべた。

それからというもの、やはりというか少年は魔王城へ通い、魔王様と親睦を深める事になった。
少年は外見だけでなく名前も性格も同じで、唯一出身の都市が違うぐらいだった。

3年が経ち、少年とまたあのやり取りをしなければならなかった。

「魔王様の名前を教えてもらえる?」

まさに100年前と全く同じ声色で、仕草で、目で、その少年は魔王様に聞いた。

「リンドハイムです。知らなかったんですか?」

「それは後ろでしょ?前は?私はラン・シュエイシカ」

「前?私はこの名前しかありません」

「そうなんだ。私のことはランシュエって呼んで欲しい」

魔王様はレイリンと呼ばれる事に元々抵抗があった為、名前を教えなかった。

微笑みながら名前を伝えてくる少年。過去に戻ったような気がして魔王様も少し嬉しくなったが、漸く重要な事に気づいた。

「リタ、あの天雷から今年で93年経ちました。このままだとまた天帝はランシュエを殺すのではないですか?」

次の天雷まであと7年。前回たまたまランシュエが巻き込まれて死んだのならば、何故彼はまたここに居るのか?全ては天帝が監視しており、自分を弄んでいるようにしか思えない。

これ以上ランシュエと仲良くなり、また天雷が彼を襲うのではないかと思うと、魔王様は怖くなった。

魔王様は少年を避けて魔王城には一切帰らず、魔界の山に7年籠りながら修行をした。



それでも天雷は少年の身に落ちた。



魔王様は天帝の元へ自ら赴いた。

「何故彼を殺すのですか?」

「魔王様は彼が好きなのでは?」

「私達のことを見ていたのですか?天帝が偏執狂だなんて、思いもよりませんでした」

天帝の宮殿、広間の椅子に悠々と掛けている主に魔王様は口で少しだけ盾突いた。

魔王様は苦悶の表情を浮かべながら右手の拳を握った。

「私が勝ったら天雷を止めてください」

「では、私が勝ったらその天雷を50年に1度にしようか」

握った拳に爪が食い込み、真っ白な大理石の床に赤い花を咲かせた。

これ以上、人間界に天雷が落ちるかもしれない、そう思うと魔王様は耐えられなかった。
握っていた拳を解き、初めて戦いを断った。

「それは残念だ」

天帝は立ち上がり、魔王様にひたひたと迫って来る。
ここに来た時に魔王様は既に覚悟を決めていた。





「あの天帝を何とかしないと無理です!絶対何とかしなければ!」

魔王城で魔王様はリタに詰め寄っている。もう魔王様は落ち込んでいられなかった。

「あれでは私の身体も持ちません!」

魔王様は「天界の人は皆ああも狂ってるんですか?」と愚痴を漏らした。流石に2回目ともなると開き直るのも早かったようだ。元気な姿の魔王様にリタも少しだけ心が晴れた。

「それなら、いっそのこと彼としてしまっては?」

「は?」

リタが何を言っているのか魔王様は一瞬理解できなかった。魔王様も数千年生きているので、今更かまととぶるつもりはないが、リタに言われると恥ずかしくなり、顔から火が出てしまった。

「な、なにを」

「彼と身体の関係を持たなかったんですよね?」

リタの追い打ちで魔王様は後退り、わなわなと震え始めてしまった。純粋であって欲しいと思ってはいたが、よくここまで来れたなと、リタは主に対して素直に感嘆してしまった。

そして次の100年の間に実際に身体の関係を持ったかどうかは置いておき、また天雷は青年の身に落ちた。

3回目の天雷が落ちると、人間界でも神の怒りを凌ぐ方法を考える者が出現し、逆に天帝への狂信者が増えたりと少しずつ世界が動いた。そして少年は勇者となった。

魔王様は様々な方法を取った。



初めから出会わないように、山で修行をすることにした。

だが彼は何処からともなく現れた。

「魔王様とこうやって、静かにずっと暮らすのも良いかもね」

そう話した後に天雷は、彼に落ちた。



魔王様が天雷を止めようと、100年かけて魔王城に慣れない強固な結界を張った。

「こんなに警戒してどうしたの?」

天雷の力は凄まじく、しかも嘲笑うかのように魔王様には傷一つ付かず、勇者だけを消した。



魔界の最下層出会わないようにしてみた。

「堕ちてしまったんだ。助けてくれない?」

結果、山で修行していた時と変わらず、彼は現れた。

天帝に仕組まれているとしか思えなかった。



勇者と共に天界へ行ってみた事もあった。

「どうやら、この結界は私が通れないようになっている」

天界の結界は魔王様1人なら通れたが、魔力を貸しても勇者が入ることはできずに、やはり天雷は彼だけを消した。



他にも様々な方法をリタと考え、人間界に被害が少なくなるよう勇者に話して実行してきたが、何の功も奏さなかった。





「ねぇ、リンドハイム魔王様」

ベッドの上で2人で横になり、勇者は魔王様のシルクのような髪に触れ、そのまま唇まで運んだ。

「何ですか?」

「今日は何故こんなに浮かない顔をしているの?それでも魔王様の美しさは損なわないけど」

ふふっと笑みを浮かべたその蒼玉の眼を、魔王様は見つめ返した。

「ランシュエ……私は、あなたのことが……」

最後の言葉を言わずに、20回目の天雷が落ちた。





魔王様は独善的なことに気づき、諦めることを選択した。

100年のうち10年だけ勇者と過ごせるのであれば、それを繰り返せば、人間の寿命よりも永く一緒にいられるという事なのではないか?

勇者が自分のことを忘れても、自分が勇者のことを覚えておけばそれで良いのではないか?

10年は勇者と楽しく過ごして、3日間地獄へ行って、90年は好きに過ごしたらいい。

その後、魔王様は普通に勇者と出会い、関わりを深め、身体を交える事にした。

何回目か分からない自己紹介や、たわいもない会話も、100年に1度だと思うと楽しく思えた。

しかし魔王様は天帝との決着をつけなければならない。一生こんなお遊びを続けるわけにはいかないとも感じていた。

「これで、終わりにしましょう」

30回目の出会いが始まった時だった。
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