魔王様と禁断の恋

妄想計のひと

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2章

16

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元を辿れば、今の服装の代わりに目立たない服が着たかったはずなのだが、これでは逆効果というか論外だ。
どういう目的でこの服を渡してきたのか、ただ揶揄うためとしか魔王様には思えなかった。

「馬鹿にしないでください」

「私は本気だよ」

天界に来た時に白い衣を着ている魔王様を見て、是が非でも婚姻衣装を着せたいと思っていたと、天帝は言った。

少し残念そうにしながら天帝は続けた。

「後宮に入る前に着てもらうべきだった」

魔王様は呆れてしまい、何が本気なのか全く理解できなかった。だが分かっているのは賭けに負け、自分がこの服を着る約束をしてしまったことだ。

「分かりました、約束ですから」

着替えるところを見ているつもりなのかと、外で待っているように手で指示を出し、天帝は嬉しそうに笑いながら部屋から出ていった。

魔王様は先に、ドレスを持ち上げて身体に当ててみた。自分に入らないものを天帝が持ってくるとは思えないが、近くの姿見で自分を確認してみる。

本当に罰ゲームだ。

魔王様は諦めて着ていた衣を脱いで白を身に纏った。
スカートの布が多く、意外にも重たい。
そしてこの服は背中で紐を縛る必要があることに気づいた。

魔王様は、素直に外へ出た天帝を不思議に思っていたが、こういう事だったのかと納得した。
着るとは言っても、見せるとは言っていない、そんな子供のような詭弁が通る相手ではなかった。

少しの間自分で出来ないかと思案したが、そもそも結び方が分からなかった。
仕方がないので不服ではあるが、天帝に声をかけた。

「ランシュエ、入ってください」

呼ばれることも分かっていただろう天帝は、直ぐに扉を開け、そのまま白を纏った魔王様の端麗な姿に呆然としてしまった。金色の光がじっと魔王様を見つめる。

「ランシュエ?早く閉めてください」

「ごめん」

魔王様に言われて、少し焦りながらパタンと扉を閉め、天帝は少しずつ魔王様に近づいていく。

「本当に、綺麗だ」

言葉を失ったかのようにポツリ、ポツリと呟き、魔王様を胸に抱こうとする。

「ランシュエ、この服は背中で縛らなければなりません」

魔王様は素っ気ない態度で早く終わらせたがっていた。何より、ここに来た理由はドレスを着るためではなく、情報収集だ。夜が更ける前に酒場へ行って話を聞きたい。

魔王様は髪が邪魔だろうと右手でかき上げ、左手でドレスが落ちないように止めていた。

真っ白なうなじが露わになり、そこには天帝の贈ったチョーカーが光っている。天帝の心臓が強く胸打った。髪が上がった時のふわりとした花の香りと、大きく開いた背中と肩甲骨、腰と臀部の曲線。

天帝は昂りが落ち着くのを少し待ってから、背中の紐を結んだ。

「どうですか?似合いますか?」

結び終えた時に魔王様はドレスの裾を摘み上げながらくるりと回って正面を向き、髪を耳にかけて、首を傾げた。

「すごく」

天帝の呆然とした姿に、魔王様は少し拍子抜けしてしまったのだが、天帝は頭の中ですぐにでも押し倒したい欲望と戦っていた。

そんな心を魔王様は把握しているのか、それとも弄んでいるのか、すぐにでも着替えようとする。

「では、約束は果たしましたよ。ランシュエの事だから、ちゃんとした普通の服も用意しているのでしょう?」

この魔王様の予想は当たっており、当然他の服を持って来ていた。だがそんな言葉は天帝の耳には入ってこなかった。

「レイリン……」

グッと抱き寄せ唇を奪うと、そのままベッドに押し倒した。天帝の昂りが魔王様にも触れ、魔王様はいつも通りに流されてしまうことを予感した。

足で必死に天帝を引き離そうとするが力及ばず、顔を背けるぐらいの悪足掻きしか出来なかった。

「待ってください!今日は情報収集に行くんです!今は、今はダメです!」

「今」

天帝の頭は全く働いていなかった。
だが、魔王様も引かなかった。

「帰って来てからなら相手しますから!」

問題を後回しにはしたくないが、魔王様の今後の安眠のためにも、早くこの天帝の狂信者をなんとかしたかった。

「……」

僅かに天帝の眉が下がった。天帝も譲りたくはない。この麗しい新婦を抱き、顔を潤ませ、泣かし、許しを請うてくる姿は、想像しただけで脳内が溶けてしまいそうだった。

「無理だ」

魔王様の懇願は惜しくも通らなかった。
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