魔王様と禁断の恋

妄想計のひと

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2章

15

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天界から帰ってきて10日ほど経ったある日、庭園で暇を潰していた魔王様は、頭痛が酷いのか頭を抱えながら広間へ入ってきた。

「何かご入用ですか?」

「大丈夫です」

そのまま寝室へ下がるかと思ったら、魔王様は広間の椅子にかけて呆然としていた。
これはどうしたのかと、リタも不安になった。

「陛下、どうされましたか?」

「寝過ぎか頭痛がします」

タイミングよく口を大きく開けて欠伸をした。
魔王様もどうしたものかと眉間に皺が寄った。

魔王様の新しい身体はまだ馴染んでおらず、天帝に成人になる分の力は注がれたものの、全快とは言い難かった。そのため身体が勝手に睡眠を要求するのだった。

眠気が襲い、なかなか頭がすっきりしない。
気を紛らわせようと魔王様はリタに訊いた。

「何かありましたか?」

リタは言いづらそうに言葉を出した。

「……人間が来ました」

魔王様は眠たそうな目を何とか開き、関心を持った様子だった。前のめりになって話を聞こうとする。

「それは戦いたい人ですか?それとも……」

「はい、後者です」

リタが言うと、魔王様は嘆息を漏らして首を左右に振り、余計に頭を抱えてしまった。

ここ1ヶ月近く、魔王城に現れる集団、伝統宗教団体だった。魔王様は全く彼らに対して興味は無いが、彼らのことを天帝狂信集団と呼んでいた。

「何と?」

「いつも通り、剣や盾を持って押し入られました」

彼らは剣侠ではない。魔王様としては最も扱いにくい、剣を持ったただの農民だった。
とにかく相手にしたくない。そういった連中が来る度に、手を振って扉の外に追いやっていた。

「彼らは陛下のことを、天帝の対抗勢力だと思っている様です」

「魔王などと言う肩書きのせいですね」

実に厄介だった。だが、この悩みを持ち続けたままでは眠れない。即ち魔力の回復も遅くなってしまう。

「少し出て来ます」

魔王様は天界に偵察に行った時のように、人間界にも偵察が必要だと思い、すぐさま飛んで行ってしまった。

「むしろ逆の意味で天帝とただならぬ仲だなんて、誰も思いませんね」

リタは遅くなるであろう魔王様の夕飯の支度することにした。





人間界の上空に赤い物体がふわふわと浮遊していた。

現在最も発展している北方都市に行くべきか、それとも魔王城の扉を叩くぐらいだから近辺に拠点があるのか。情報を集めるなら人が多いに越したことはない、そう思って魔王様は北方都市に向かった。

人気の無いところで地面に足をつけた。
情報を集めるのならば、人が集まっている酒場に行こうかと考えた時、魔王様は最大の失敗を犯していた。

自分の格好は目立ちすぎる。

天界に偵察に行った時に学ばなかったのか?と反省した。その時、魔王様の頭上が暗くなり、1つの影が降りて来た。

「ランシュエ?」

「リタから聞いて、捜しに来たよ」

やはり赤い衣は目立つのだろうか。
天帝の姿は、宮殿で着ている服よりも僅かに質素ではあったが、眉目秀麗な顔立ちが損なわれることはなく、つい視線が引き寄せられ見惚れてしまった。

「はい、これ」

魔王様が声をかけられて我に返った時、天帝は茶色の紙袋を懐から取り出していた。

「他人の服は着ないように」

「ありがとうございます」

まさに魔王様が求めていた物を差し出す天帝に、魔王様は素直に感謝して笑顔で受け取った。どこか着替える場所を確保しなければならない。

「宿を取ろうか」

天帝は魔王様の手を引くと、数年前に2人で泊まった宿に入った。

「おばさん、部屋1つ」

「はいよ」

おばさんから鍵を受け取って、部屋のある2階へと上がる。

魔王様は前回の時のことを思い出して少し恥ずかしくなった。顔を赤く染めている魔王様を見て、天帝も何かを察したようだった。

「今日、リタには帰らないことを伝えてあるよ」

「……」

魔王様は右手で拳を作り、癖で殴りかかろうとしてしまった。忘れていた、今彼は勇者ではなく天帝だ。自分が殴りかかったところで当たるはずもない。

天帝は魔王様の右手を掴み、赤くなった耳元で囁いた。

「乱暴だね。レイリンはされる方が好きだと思っていた」

「あの時と同じようにコインで決めますか?」

魔王様は捕まれた腕を勢い良く振り解き、虚勢を張った。だが、2分の1のコインの裏表ですら魔王様は勝てる気がしなかった。

「良いの?」

負けるよ?と天帝は魔王様に訊く。
魔王様は少し考える素振りをして、不遜な態度で椅子に座る。

「ただし、負けた時のことは自分で決めます」

相手の要望に応えてばかりでは自分の身が持たないことは魔王様にも分かっていた。ならば条件は自分で決めるしか無い。

「私が負けたら、この紙袋の中の服を着ましょう」

魔王様は、抱えている紙袋の中の服が碌でもない物なのではないかと、気になり始めていた。そして、条件にできるのではないかと考えた。
どうせ目立つ真紅の服よりマシだろう。

天帝は僅かに眉を上げたが、微笑んで自分の条件を考えた。

「良いね。それなら私は……」

自分が負けるとは到底思っていなかったが、面白い条件を考えようとした。

「レイリンが私に首輪をつけるというのは?」

「拒否します」

勝っても負けても天帝が喜びそうな事では、何の賭けにもなっていない。息つく間もなく一蹴され、天帝は苦々しく笑った。

「分かった、それならその紙袋の中の服を私が着よう」

魔王様の関心はこの紙袋の中へと吸い込まれた。何が入っているのか?とにかく気になって仕方がないが、今はこのコインで勝つしかない。

「前回は私が投げましたから、ランシュエが投げてください」

天帝はポケットからコインを取り出して、裏表を見せてから、自分が裏だと宣言した。魔王様は表だ。

きらりと輝くコインが頭上の高さまで上がるが、2組の目をお互いを見ていた。

パシンと天帝の手元へとコインが収まり、2つの目線も手元へ落ちる。





「これは本当に運ですか?」

何かしらイカサマをしているようにしか思えない、そう魔王様は言いたげだ。コインを手に取り、裏と表をもう一度よく見る。

「運だよ。ただし私は運が良い」

運ですら味方につけられるというのか、天帝とはなんと生きやすい存在だと魔王様は思ったが、本人を見て考え直した。

この天帝は狂っていて、到底生きやすそうには見えなかった。

魔王様は紙袋をそっと開け、覗かずに手を差し入れた。

少しざらついていたり、艶々とした感触がある。
掴んでゆっくり取り出していくと、真っ白なレースとシルクの大きな服、まさに女性用の婚姻時のドレスが出てきた。

「紙袋のサイズと服のサイズおかしくありませんか?」

元天帝は飄々と答えた。

「紙袋に入れる物は指定されているの?」
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