魔王様と禁断の恋

妄想計のひと

文字の大きさ
19 / 64
2章

14

しおりを挟む
魔王様と天帝が和解して以来、天帝はたまに魔王様のところへ訪れるようになっていた。

「意外です」

「何がですか?」

リタはあの天帝なら毎日でも魔王城に入り浸ると思っていた。特に来ない理由などないだろうと。

「もっと頻繁に訪れると思っていました」

リタのこの言い方に、魔王様も天帝の話だと気づいた。魔王様は魔王城の広間でゆったりと椅子にかけて呆けていた。

「どうでしょうか。天帝は忙しいのかもしれませんね」

一度、魔王様はこの話を天帝にして「寂しいの?」と言われた事があるので、2度とその話はしないように心に決めていた。

魔王様は相変わらずで、たまに訪れる挑戦者と遊び、街へ繰り出して飲んで食べを繰り返していた。

つまるところ暇だった。

魔王様の顔が突如パッと明るくなった。

「天界に乗り込んでみます」

何を言い出すかと思えば、この言葉はリタにとっては非常にトラウマであったが、それを魔王様は気づいていなかった。

「会いに行くんですか?」

「いいえ、偵察です」

リタは「何のために」と言いたかったが、これはただの口実で、天帝に会いたいだけだろうと思い、言葉に出さなかった。

「大丈夫です、少し見てくるだけなので」

そう言うと魔王様は、手をひらひら振りながらコツコツと歩いて出て行ってしまった。

残されたリタはため息をついて、素直ではない魔王様が無事に帰ってくることを祈った。





天界の結界を魔王様は素通りし、辺りを見回した。
何度も天界に来ていたが、ゆっくり訪問したことは無かった。初めに訪問した時に大きく響き鳴った鐘は、中央にある広場の大きな塔の頂上に付いていた。

その中央の広場から4方位にそれぞれ進むと大きな白い建造物が建っており、天帝の宮殿はそれとは別に離れたところの高台にあった。

せわしなく歩き回る神官たちの姿が見え、魔王様は建物の陰に隠れた。

「南の被害状況は?東は大方修繕が出来ているが、まだ人手が必要だ」

「南もおおよそ修繕が完了した」

何かが起きた後なのか、神官たちの声は強張っていた。

天帝の宮殿へ移動すると、いつ来ても誰の気配もなかったその場所には、数人の神官たちが集まっており、揉めている様子だった。

軽口を叩いたつもりだったが、本当にこんなに忙しいとは思いもよらなかった。

最近起きたその原因となる出来事を考えると、すぐに1つのことが思い浮かんだ。

あの雨のように降った雷だ。

あのような天変地異が起きたら、人間界への被害なんて考えたくもない。魔族はそれほど弱くもないし、各層の主が勝手に魔力で対処しているが、人間の存在はか弱かった。それ故に神官が介入しているのだろう。

天帝自ら撒いた種ではあったが、魔王様も当事者として決まりが悪かった。邪魔だてをしては悪いと帰ろうとしたが、天帝が普段どのように他人と接しているのか興味が湧いた。

魔王城ではリタに対して冷たく、もはや空気のような扱いをしていることを魔王様も知っていた。

魔王様は楽しくなってしまい、付近の建物に入ると、勝手に部屋を漁り、神官の服を探した。
服を見つけて着替えると、自分の服に手を翳して小さく変化させ、ポケットにしまった。
そばにあった姿見で襟を整える。

「なかなか似合っていますね」

楽しそうな魔王様は、衣服と一緒に掛けてあった結び紐で、自身の髪を結い上げた。





神官達には位があり、衣服に装飾が多く施された神官の後を、10人ほどの神官が付き添っていた。

この人は少し位が高そうだ、そう思って魔王様はその列にさりげなく混ざった。

丁度その集団は天帝の宮殿へ向かっているようだった。

「ジークサイス様、主の所へ行ってどう話をされるのですか?」

ジークサイスというのはこの先頭を歩いている位の高そうな神官のことだろう。ジークサイスの右側に仕えている神官が恐縮そうに言った。

「心配する必要はない。この度の天帝の神意を伺うだけだ」

話からすると、魔王様の予想は合っているようだった。このまま天帝の所へ行ける、そう思い気配を極力消して後に続いた。

「いいか、我々が主より受けた生を忘れるな。決して失礼のないようにしろ」

ジークサイスは宮殿の大きな扉の前に付くと、そう付添の者達に一言断った。何とも大袈裟な物言いだ。

左右に控えていた2人が扉を大きく開き、一団は宮殿へと足を踏み入れる。魔王様も隊を乱さずに自然に入った。

ピリピリとした緊張感が肌に伝わり、前を歩く神官達の息を飲む音が聞こえた気がした。

中央部まで歩くと、一団は膝を付いて頭を垂れた。魔王様も遅れることなく跪いた。

「主よ、この度の所存について拝聴致したく参りました」

この窮屈さに、魔王様は今にも喉が詰まりそうだった。だがあの雷はどういうことかと聞かれた時に、どう誤魔化すのか興味のある話だった。
魔王様は上がりそうになる頬を我慢していた。

周りの神官はみな頭を下げたままだったが、魔王様は気になってしまい少しだけ目を天帝へと向けた。
金色の虹彩はしっかりと魔王様を捉えており、元よりバレていた。見るべきではなかったと、すぐにまた目線を下げた。

天帝は抑揚のない声で、明後日の方向を見ながら答えた。

「人間の発展を防ぐために、100年に1度天雷を落とすという話だったはずだ。近ごろその天雷が大して有効的に働いていなかったから、少しだけ手を加えた」

「ですが、突然であった為被害も尋常ではなく……」

「死人が出た?」

「いえ!そのようなことはございませんが」

どうやらあの雷は人への危害はほとんどないようだった。これには魔王様も少し安心した。
だが、人への被害が無ければ良いという話でもないだろう。

この天帝はそのようなことには興味がなかった。

「いい、下がって」

と右手を振れば、神官たちは何があろうと下がらなければならない。

「失礼致しました!」

神官ジークサイスに続いて他の神官も声を出し、ジークサイスを先頭に、順に宮殿から去っていった。
結局彼らは何のために来たのか。何の成果も得られていないではないか?

魔王様は最後尾だった為、追わずにその場にとどまった。

「レイリンは私の後宮にでも入りに来たの?」

今しがたの雰囲気とは全く異なる、柔らかい声が響いた。天帝は少し微笑みながら、じっと魔王様を見つめていた。

「それは私専用の宮殿ですか?」

「当然」

「ここよりも立派でしたら、少し考えましょう」

魔王様はゆっくりと天帝の椅子へと近づいていった。

前回ここへ来たときはこの椅子の主人が居なかったなと、魔王様が呆けていると、天帝の顔が目の前にまで迫っていた。

「どうしたの?」

「いえ……」

何を考えていたのか訊かれるのも面倒に思い、魔王様は自ら口を重ねた。天帝は口を割って舌先を伸ばし、舌を絡めて、熟れて美味しそうな唇を吸った。

「まさか神官の格好をして来るとは思わなかった。白も似合う。でも……その服は誰の?」

天帝の顔は微笑んだままだったが、先ほどまでの柔らかい空気から豹変していた。
これは地雷を踏んだと、魔王様は直ぐに理解し、天帝の機嫌を取る何かを考える必要があると思った。

「ここに入る為です!深い意味はありません!着替えも持っています。服は直して寝室で待っていますから、仕事が終わったらゆっくり話でもしましょう」

そう言葉を叫び放って、魔王様は直ぐに広間から廊下へ出て行ってしまった。

天帝は走り去る魔王様の揺れる髪を眺めて少しだけ微笑むが、直ぐに表情が消えた。
彼は魔王様の身体に別の人の衣服が触れているのも、匂いが移るのも許せなかった。

「答えていない……」

天帝の機嫌は一切良くなっておらず、宮殿の扉が開かない様に神力を込めると、自分も寝室へ向かった。

結果、魔王様は仕事の邪魔をすることとなった。





2時間後ベッドの上には髪の乱れた2人が一糸纏わず横たわっていた。

「私は、ランシュエの仕事の邪魔をしたくて来たわけでは無かったのに……」

魔王様は怠そうに呟いた。

「さっきも言っていたね、仕事って?」

天帝は魔王様の髪で遊びながら訊いた。
人間界の被害を神官が修繕していると聞き、天帝も何かしらの作業をしているのだろうと、魔王様は話した。

「代わりと言っては何ですが、私に手伝えることはありますか?」

「いいや、レイリンは何もしないで。責任に感じることも、首を突っ込む必要もない」

魔王様は何か言いたげだったが、天帝に何を言っても無駄であると理解していた。

「レイリンの仕事は、私の後宮にしかない」

楽しそうに天帝が笑うと、魔王様は顔を赤く染めて右手の拳をその顔目がけて放ったが、当然撃ち損じるのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募するお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

クールな義兄の愛が重すぎる ~有能なおにいさまに次期当主の座を譲ったら、求婚されてしまいました~

槿 資紀
BL
イェント公爵令息のリエル・シャイデンは、生まれたときから虚弱体質を抱えていた。 公爵家の当主を継ぐ日まで生きていられるか分からないと、どの医師も口を揃えて言うほどだった。 そのため、リエルの代わりに当主を継ぐべく、分家筋から養子をとることになった。そうしてリエルの前に表れたのがアウレールだった。 アウレールはリエルに献身的に寄り添い、懸命の看病にあたった。 その甲斐あって、リエルは奇跡の回復を果たした。 そして、リエルは、誰よりも自分の生存を諦めなかった義兄の虜になった。 義兄は容姿も能力も完全無欠で、公爵家の次期当主として文句のつけようがない逸材だった。 そんな義兄に憧れ、その後を追って、難関の王立学院に合格を果たしたリエルだったが、入学直前のある日、現公爵の父に「跡継ぎをアウレールからお前に戻す」と告げられ――――。 完璧な義兄×虚弱受け すれ違いラブロマンス

冷徹勇猛な竜将アルファは純粋無垢な王子オメガに甘えたいのだ! ~だけど殿下は僕に、癒ししか求めてくれないのかな……~

大波小波
BL
 フェリックス・エディン・ラヴィゲールは、ネイトステフ王国の第三王子だ。  端正だが、どこか猛禽類の鋭さを思わせる面立ち。  鋭い長剣を振るう、引き締まった体。  第二性がアルファだからというだけではない、自らを鍛え抜いた武人だった。  彼は『竜将』と呼ばれる称号と共に、内戦に苦しむ隣国へと派遣されていた。  軍閥のクーデターにより内戦の起きた、テミスアーリン王国。  そこでは、国王の第二夫人が亡命の準備を急いでいた。  王は戦闘で命を落とし、彼の正妻である王妃は早々と我が子を連れて逃げている。  仮王として指揮をとる第二夫人の長男は、近隣諸国へ支援を求めて欲しいと、彼女に亡命を勧めた。  仮王の弟である、アルネ・エドゥアルド・クラルは、兄の力になれない歯がゆさを感じていた。  瑞々しい、均整の取れた体。  絹のような栗色の髪に、白い肌。  美しい面立ちだが、茶目っ気も覗くつぶらな瞳。  第二性はオメガだが、彼は利発で優しい少年だった。  そんなアルネは兄から聞いた、隣国の支援部隊を指揮する『竜将』の名を呟く。 「フェリックス・エディン・ラヴィゲール殿下……」  不思議と、勇気が湧いてくる。 「長い、お名前。まるで、呪文みたい」  その名が、恋の呪文となる日が近いことを、アルネはまだ知らなかった。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...