魔王様と禁断の恋

妄想計のひと

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2章

18

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「すみません、昨日もこちらで飲んでいましたか?」

魔王様は、1番大きな声で盛り上がっている一団に目をつけて、声をかけに行ってしまった。

「お?なんだい可愛い姉ちゃん」

その中でも特に恰幅が良い男性が、魔王様を舐めるように見つめた。
魔王様は忍耐強いが、天帝はそうでもない。黄金の眼は、今にも男性の心臓を貫きそうな程の強光を放っていた。

「そんな私に優しくしてくれますか?昨日のことを聞きたいのですが」

魔王様は艶のある笑顔を向け、その男性に体を少しだけ寄せた。これには天帝も辛抱できずに、魔王様の腰を抱いて自身の懐へと寄せた。

「レイリン」

「すみません」

その対応に魔王様は悪びれることなく微笑んだ。

「なんだ、男連れか。ベッドの上でなら答えてやれたかもしれねぇのにな。それともお裾分けしてくれるのか?」

男性が侮辱するように言って笑うと一団もつられて笑い、店内にも声が大きく響いた。天帝は何も耳に入れず、懐の魔王様をただ見つめており、魔王様は全く気にしていなかった。

「お裾分けは出来ませんが、私と勝負していただけませんか?」

「へー?どんな勝負だ?」

「ここがどこだか知らないのですか?どうして酒飲み以外で勝負をするのですか?」

その言い方に男性はえらく気分が良くなり、顎をさすって少し考えた。

「良いだろう。勝ったら教えてやる」

「では、私が負けたら本日の食事代を全額お支払いしましょう」

一団からは歓声があがり、その声は次第に男性を掻き立てる雄叫びとなった。

天帝は魔王様が勝負事を好んでいるのは知っているが、酒に強いかどうかは知らなかった。
なんと言っても、自分と勝負して敗れている姿ばかり見ているため、勝つ姿が想像できなかった。

「おーい!あの酒を持って来い!」

男性の座っている席の隣が空けられて魔王様が座り、周りの煙草を吸っていた人達は火を消した。

店員が1L程の酒瓶2本とショットグラスを20個用意した。

「どっちが多く飲めるか。それだけでいいな?」

男性はニヤついて言った。

「もちろんです」

魔王様は髪を耳にかけて、余裕そうな笑みを浮かべる。周りは楽しそうに囃し立てていた。

店員はグラスに2本の瓶の液体を半分ずつ注ぐ。
2人の前には、注がれたグラスが10個ずつ準備された。

「覚悟はいいか?」

「はい」

魔王様と男性は、グラスの口を手で塞ぐように持ち、強く机に叩きつけると勢いよく飲みはじめた。

周りはグラスが空になる度に歓声を上げる。

テンポ良くグラスを呷り、テーブルに置いていく様子は、音楽を奏でているようだった。

殆ど同じ速さで5個のグラスが空になった。

続けて魔王様は6、7とグラスを空け、男性もニヤリと口角を上げてそれに続いた。

店員も続けて空けられたグラスに酒を注ぐ。

お互いが20個のグラスを空けた時に、そのテンポは崩れた。男性の顔が歪み始め、それを見た魔王様はまだ余裕そうに笑みを浮かべた。

「終わりですか?」

「姉ちゃんこそ急に倒れるなよ?」

そこからまた5個のグラスが空けられた時、男性は遂に椅子に座ったまま崩れ落ちてしまった。

見物人達は「姉ちゃんやるなぁ!」と歓声を上げている。

周りに控えていた人たちが、男性を介抱し、横向きにして寝かせた。

「思ったよりも早かったですね」

魔王様は椅子から立ち上がると、天帝に近寄った。

「私だって貴方が相手でなかったら勝てるんですよ?」

「知らなかった」

まだまだ大丈夫だと安心して見せるように、魔王様は得意げな笑みを浮かべた。

「それで、昨日の事を誰か教えていただけませんか?」

本来の目的に辿り着くまで紆余曲折あったが、ようやく話が聞けそうだった。

周りにいる人たちが言うには、昨日言い争っていたのは、反天界軍と天帝狂信者集団のようだった。
魔王様の欲しかった情報で、期待に胸が膨らんだ。

どうやら、反天界軍の本拠地はここ北方都市で、その噂を聞きつけた天帝狂信者集団が、わざわざ噛みつきに来たらしい。

天帝狂信者集団の本拠地はこの都市ではないが、態々西方都市の方から来たと言っている人もいた。

「どうするの?」

「天帝狂信者集団の親玉に合って、私は天帝と敵対しているつもりはないと訴えに行きます」

魔王様は「ありがとうございました」と集団に礼を述べて、カウンターで料金を払うと酒場を出た。

そこで魔王様の足下がふらついた。

「レイリン?」

天帝は魔王様の腰と腕を引いて支えた。

「少し酔いました」

「魔力使ってないの?」

「何故、自ら勝負をつまらなくするのですか?」

この人は勝負事には真面目すぎると、天帝は少し呆れてしまった。身体のことなら魔力でいくらでも制御出来るはずなのに、それをしない所が魔王様の魅力だと天帝も分かっていた。

「大丈夫?」

目を閉じた魔王様は少し呆然としていた。
魔王様は扉の前から避けて、酒場の影に隠れて座り込み、俯いてしまった。天帝も魔王様の隣にしゃがみ込んだ。

天帝は、こちらから話しかけなければ誰も気づかないように、始めから魔王様に隠蔽術を使っていた。

その為、酔った姿を誰かに見られるということは無かったが、早めに魔王様をベッドで休ませるべきだと考え、不安気に魔王様を見た。

「レイリン?宿まで歩ける?」

「……してください」

「なに?」

「背負ってください」

魔王様はゆっくりと頭を持ち上げて、天帝の黄玉を見つめると、腕を天帝の首に回した。

魔王様の端麗な容貌はいつにも増して艶があり、目元はとろんと蕩けている。
それが目の前に広がり、天帝の胸が高鳴る。酔った魔王様は目に毒だと、目を閉じる事にした。

「ランシュエ?運んでくれますか?」

突然、天帝の唇に温かく柔らかいものが触れ、酒の味が微かにした。慌てて魔王様の唇から自身の唇を離す。

「レイリン、嬉しいけれど、それは後にしてほしい」

天帝は必死に自分の欲望を抑えて、魔王様を横抱きすると、その姿は暗い影となり闇に飲まれて消えた。
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