魔王様と禁断の恋

妄想計のひと

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2章

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天帝狂信者集団は、お互いに顔を見合わせたり、魔王様を見たりと居心地悪そうにしていた。

「天帝は魔王のことを良い友達って言っていたよな?」

「なのに、いきなり現れた男が薬使って洗脳して、持って行っちまったのか?」

あまりにも情報の多い出来事が続いたため、周りで情報を整理し合っている。

「あなた方は早くここを去ってください」

リタが天帝狂信者集団に言うと、一団は早々に魔王城から出ていった。

「陛下、しばらくは寝室でお休みになってください」

リタが言うと、魔王様の身体は動き、寝室へと移動を始めた。操られる感覚は初めてで、魔王様は妙な感じがした。

寝室に着くと、リタは魔王様をベッドに座らせた。

「私のことを、嫌いになりましたか?」

掠れそうな声でリタは魔王様に訊いた。

死刑台に登った死刑囚が、最期に許しを乞うような、そんな重みのある言葉だった。

「いいえ」

だがその死刑囚は魔王様によって許された。

「言ったでしょう、リタは私の家族です。あなたには、あなたの考えがあっての行動でしょう。私はそれを家族として尊重します」

魔王様はリタに微笑みかけ、リタはその姿に表情が歪んだ。リタの表情筋が働いて、魔王様は少しおかしくなった。

「私を助けて、力を与えて、後悔していませんか?」

「そんなわけがないでしょう?貴方は私によく尽くしてくれています」

魔王様の表情は変わることなく、穏やかで優しくリタを見つめた。

リタは感極まって、魔王様の手を両手で握った。

その時、リタの身体から力が抜けてふらっと魔王様に倒れ込んでしまった。

「陛下?」

「感動して頂いたところ申し訳ありません。もちろん嘘ではありませんよ」

魔王様は良い笑顔で、呆けた顔をしたリタを抱えて、自分のベッドに寝かせた。

「これは?」

「今、リタは自分で言ったではありませんか。貴方の中に私の魂が入っていると」

「ですが、このようなことが出来るなどと、聞いたことはありませんでした」

「身内にこそ、奥の手は隠しておくものです。私が唯一魔族らしく使える術は、自分の魂を操ることだけですよ。今の魔力では触れなければなりませんが」

魔王様は「自分の魂限定ですから、リタの能力の方が便利ですよ」と自虐的に言うと、部屋から出て行こうとした。

「待ってください」

リタの制止に、魔王様は止まった。

「何かありましたか?」

「せめて、私のベッドにしてくださいませんか?」

魔王様は一瞬呆けてしまったが、了承してリタを横抱きにした。

「あの人のところへ向かうのですか?」

リタは天帝を助けて欲しくないようだった。
魔王城の廊下をコツコツと歩きながら、魔王様は答えた。

「罠なのではないかと疑ってはいます。リタも、全てを把握していないのではありませんか?」

この言葉にリタは少しだけ眉を寄せた。

魔王様は考えていた。
天界と人間界での騒動は、どちらも天帝を標的としている。反天界軍は、人間界への不干渉を提案していたが、実際は天災さえ起きなければ問題ないはずだ。

そして天界での解任評決。四神官での多数決ならば3対1なのだろう。
そのタイミングで惚れ薬を飲ませて無理矢理、採決を下そうとしているように感じる。

天帝をその座から是が非でも降ろしたい人がいるように感じた。

「リタ、知っていますか?神官が地上に降格することがあるんです」

「本当にそんなことがあるんですか?」

「力が弱くなったり自ら堕ちる神官は人間界へ、罪を犯した神官は魔界へ落とされるんです。そして、どちらの場合も記憶を失うそうです」

リタは眉を上げて、魔王様を見上げた。

「それでは、あの人も同じですか?」

「ランシュエの場合、どちらが適応されるかは分かりません。あのサイという人間も、誰かに騙されているのかもしれない」

天帝に惚れ薬を飲ませることができたら、そのまま天帝をモノにしていい、等と言われているのかもしれない。

リタの目的は、ずっと邪魔だと思っていた天帝を、魔王様のそばから遠ざける事だろうか。

やはり、天界に黒幕がいる。魔王様は一層気を引き締めるべきだと感じた。

考えているうちにリタの部屋につき、ベッドにリタを下ろした。

「罠かもしれません。陛下、行かないでください」

リタを真っ直ぐに見つめた後、魔王様の目が閉じられた。次の言葉まで、きっかりと3秒の間があった。

「……正直に言えば、私も迷っています」

リタは自分の言葉を魔王様が聞き入れるとは思ってもみなかった。動かない身体で、頭だけ魔王様に向けた。

「私は、ずっとランシュエと一緒に居たかった。ですが、それには様々な障害がありました」

魔王様はリタに背を向けて、3歩前へ歩いた。
少しだけ声が震えているように聞こえたのは、リタの気のせいだろうか。

「もっと、早くに……もっと、ずっと前に諦めていたら、こんな想いもしなかったでしょう」

今はもう天帝の目に魔王様は映らないかもしれない。薬を解く方法が分からないまま天帝のそばに行って、また無感情で興味のないその瞳で見つめられたら、もしかしたら次は一瞥すらしない可能性もある。その時自分がどうなるか、魔王様には分からなかった。

「もし、ランシュエの剣と交える事になったら、その時は本気になれず、私はまた死ぬのでしょう。そうでもしたら、彼も正気に戻るかもしれませんね」

魔王様の最後の声は、明るく、酷く悲しい音だった。

「陛下、申し訳ありません」

「謝る必要はありません」

魔王様には、その一縷の望みにかけるか、最悪な想像通りの結末を迎えるかの2択だった。

魔王様はリタから離れ、天界へ向かった。
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