魔王様と禁断の恋

妄想計のひと

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2章

28 エピローグ

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その後、良い雰囲気になったものの、魔王様のペースに合わせようと元天帝は自分を抑制していた。そのため抱き絞め合って、また10分近くが過ぎた所で、魔王様が口を開いた。

「私を酷く感じるかもしれません。私は、ランシュエのどこが好きか分からなくなりました」

「なぜ酷いの?」

魔王様は顔を上げた。その紅玉は湿っていて、元天帝の黄金を写していた。

「なぜって……。ランシュエの性格は最悪だと思っています。態度ももう少し改めた方が良いと思っています。私を騙して、虐めて、嘘もつきます。顔や身体ぐらいしか褒めるところはありません」

これが魔王様の本音かと思うと、確かに酷い言われようだ。客観的に見ずとも自分は最低なことをしてきたと再確認した。

「それでも、愛しているんです」

魔王様の表情が歪み、そっと元天帝へと近づくと、唇を合わせた。長い間、口づけをしていなかったように元天帝は感じた。

「私のどこが好きかとか、考えなくて良いよ。理由も要らない。ただ、好きでいてくれたらそれでいい」

その言葉を聞いて魔王様は恥ずかしくなり、元天帝にも訊いてみたくなった。

「ランシュエは、私のどこが好きですか?」

「レイリンの全てだよ。細かく言えば、誠実な性格や仕草や、声、顔も好き。挙げ出したらきりがない」

元天帝は真面目な顔で即答した。自分と真逆を言われて、魔王様は気まずくなるが、元天帝はそんな魔王様を見て微笑んだ。

「ランシュエの好きなところ……」

魔王様は何か思い当たらないかと考えた。
眉間に皺を寄せ、しばらく考え込んで、言葉を出した。

「私の事しか見えておらず、一途で……たまには優しいところ……が、好きです」

最後の言葉は消えいるようで、魔王様も一体自分が何を言っているのか分からなくなった。これはただ恥をかきに行っているだけだ。

「そうだね。私はレイリンのことしか考えてない。いや、考えられないの方が正しい」

それは自慢にならないと、魔王様は小言を漏らして微笑んだ。魔王様の様子がいつも通りになり、元天帝も胸を撫で下ろした。

「もう1つ、聞いても良いですか?」

「なに?」

今回の事で魔王様もいろいろ考える事があった。

「逆に、私が誰かのモノになるような事があったら、ランシュエでしたらどうしますか?」

「笑えない冗談だね。想像もしたく無い。私だったら直ぐに相手を殺してしまう。レイリンが自発的であれば、一生監禁するし、無理矢理だったら、100年は監禁する。殺すというのも勿論、輪廻転生は許さない」

魂を消すよ、と付け加えた。口元だけ笑っていて目は全く笑っていなかった。あまりの自分の待遇の悪さに驚き、また左手を強く握ったが、それでこそ元天帝だ。

「私も、無理矢理にでも奪えば良かったですが、貴方とはやり合いたくなかった」

「負けるから?」

魔王様は一瞬で右手に魔力を込めて、拳を繰り出したが、軽く避けられた。

魔王様は当たるとは思っていないが、一度ぐらいは当てたいとも思っていた。大きくため息をついて、元天帝が言葉を続けた。

「大丈夫だよ。今後一切起こらないようにするから」

そう言って、元天帝は魔王様の右手を左手で取って指を絡ませた。

「これからは、ずっとそばにいられる」

優しく微笑む元天帝に、魔王様は照れながらも答えた。

「気恥ずかしいですが、嬉しいです」

魔王様が元天帝を勢いよく後ろへ押し倒した。珍しかったため、元天帝はされるがままになってしまった。

「先ずは、私の好きにさせてください」

「もちろん」

何をされるのだろうか、楽しみに思いながら元天帝は魔王様からのキスを待った。






「陛下とは、仲直りできたのですか?」

夜が過ぎ、明け方に魔王様の飲み物を探しに厨房に来た元天帝に、リタは声をかけた。

「……できた」

リタは、元天帝が何を求めて厨房に入ったのか分かっており、既に水差しとコップが丸盆に乗せられていた。

「あの薬は最悪だった」

「陛下を騙そうとしているのですから、しっかりと演じてもらう為です」

惚れ薬は効かないのだから、サイの血なんて入れておく必要はなかったが、そこにはしっかりと入っていた。
これは、ただのリタからの報復だろう。

「分かっている。今回は流石に反省した」

「今後、このような三文芝居には一切協力致しません。私は、あのような陛下を2度と見たくありません」

リタは思い出してしまったのか、不快な表情を浮かばせ、元天帝を睨みつけた。

「2度としない」

それは魔王様にも言った約束だ。
魔王様を傷付けるのは、元天帝の本望ではない。

丸盆を持って、元天帝は静かに廊下を歩いて行く。

元天帝は今回も、このリタに対して嫉妬していた。魔王様はリタが家族だからと、無条件で信頼した。裏切ったわけではなく、理由があるからだと冷静だった。
それが羨ましかった。

部屋に戻ると、何も纏わずにベッドに横たわっている魔王様がいた。
元天帝は机に丸盆を置いて、水差しでゆっくりとコップに注ぐ。

「はい」

そして、自分はベッドにかけ、魔王様にコップを差し出す。

「ありがとうございます」

掠れた声を発し、魔王様は上半身を起こすとコップを受け取り飲み干した。
魔王様のコップを元天帝は受け取って、机の上に戻しに行く。

魔王様は、甲斐甲斐しく世話を焼こうとする元天帝が可愛くて笑ってしまった。だが、元天帝は戻ってきてから隠してはいるが、沈鬱な空気が漂っている。

これはどうした事かと魔王様は考えたが、元天帝が持ってきた丸盆を見て、リタに会ったのだと気づいた。
水差しとコップは分かるが、丸盆は使わずに持って来そうだ。

直接訊けば良いのだが、魔王様は考えることにした。
今回はリタも元天帝と手を組んだのだから、敵対視していないはずだ。

そこで、気がついた。

元天帝はベッドに座り、魔王様の右手を両手で包んだ。不安そうな黄色の眼が魔王様を映し、魔王様は思わず顔が綻んだ。

「どうしたの?」

元天帝は不思議そうに魔王様を覗き込んだ。

「いえ、リタに嫉妬しているのですね」

少しだけ眉を上げた元天帝に、魔王様は図星だと思った。元天帝は気まずそうに「よく分かったね」と小さく呟いた。

「当たり前でしょう。リタは家族で、私は例えリタに裏切られても責めはしません。何かあっても許します。それは私がリタを1番よく知っていて、信頼しているからです」

魔王様にここまで信頼されているリタに、元天帝はやはり嫉妬せずにはいられなかった。

それに引き換え自分はどうなのだろうか、今回のこともあり信用されていないのは当然のことだろう。

元天帝の表情に不安が浮かび、握っている手に力が入った。

「私は?」

比べられるものでは無いが、それでも訊きたくなってしまった。自分も、関係が進めばいつかは家族になれるのだろうか?

だが、魔王様の反応は元天帝が思っていたものとは少し違った。

魔王様は、掛けている元天帝の膝の上に頭を乗せて枕にした。

「ランシュエはリタとは違います。私はリタに対してこのような事は出来ません」

それはそうだろうと元天帝は思い、魔王様の言いたい事がよく分からなかった。呆けている元天帝を見て、「内緒ですよ」と前置きを置いてから、魔王様は安心させるようにゆっくり優しく語りかけた。

「私はリタの事を対等と言うより、自分の子供のように感じています。こんな事を言っては怒られてしまいますが」

ふふっと頬を上げて魔王様は両手を元天帝へと伸ばし、その手を元天帝は指を絡ませて握った。

「子供が何をしても、最後まで信じて許すのが親でしょう」

魔王様は「でも……」と話を続けた。
元天帝は魔王様を見つめて、魔王様の話を待った。

「ランシュエは違います。あなたと私は対等です。何かあれば感情的になることもあって、勢いで殴りかかることもあります」

それは魔王様だけだと、元天帝は思ったが悪い気はしない為、口は挟まなかった。

「簡単に言えば、ランシュエが相手だと私は甘えしまうんです」

照れ臭いのを誤魔化すように笑い、元天帝まで気恥ずかしくなってしまった。

「私はもっとレイリンに甘えてほしい。けれど、私の事は、やっぱり信じてもらえない?」

それでもまだ、元天帝はリタに負けたく無いようだった。

「信じていますよ。私は何よりも今の貴方の、私に対する想いを疑っていません。今回だって、貴方が裏で糸を引いていることは分かりました。だから余計に腹立たしいんです」

言葉とは裏腹に魔王様は笑っている。そのお陰で元天帝の顔色が悪くならずに済んだ。

「言ったでしょう?演技でも許さないって。それとも、無条件で許してほしいんですか?嫉妬もしないでほしいのですか?」

そこまで言われて元天帝は息を呑んだ。逆だ、寧ろ許さずに嫉妬してほしい。自分と誰かが話しているだけで嫉妬してほしい。それほどの感情を自分に対して向けてほしかった。

「ランシュエの2度としないは信じていません。ですが、また同じような事が起こっても、関係を修復する機会は与えましょう」

下から見上げている魔王様は、上から目線の態度で不敵に笑いながら言った。

「ありがとう」

元天帝は多少は気が済んだのか、魔王様の頭を撫でてから髪を一束掴み、キスを落とした。

「場所が違いますよ」

魔王様が頭を起こして、片手で元天帝の頭を引き寄せた。

「愛しているよ」

「私も愛しています」

2組の目が閉じ、唇が重なり、湿った音が室内に響いた。
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