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2章
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2人だけの空間となり、元天帝はその目に薄らと水の膜が張った。魔王様がリタを下がらせたのはこのためだった。
「レイリン、私がそばにいるのは嫌?」
掠れたような声で元天帝は言葉を発し、手を魔王様へと伸ばす。
その手を無視して、淡々と魔王様は答えた。
「そうは言っていません。貴方に訊いただけです」
「何故そんなことを訊くの?突き放したいのであれば、私の事が嫌いで、二度と顔も見たくないと、そう言えばいいだろ?」
この言葉に魔王様の眉間に皺が寄る。魔王様は嘘をつけない。例え、勢いで言葉を出してしまったとしても、それは間違っても嘘ではない。
冷たい言葉をかけられ、死にそうな気分だったが、それでも魔王様が無理矢理に突き放そうとしない以上、ここに居ることを許されている。そう思う事で自分を保つしか元天帝に術はなかった。
「言えないの?それなのに、本当に私がレイリンのそばから離れたいと思っていると?」
元天帝は息を整えて、気が触れないように努める。
「先に、私のモノであるという約束を破ったのは誰か、忘れたのですか?」
「忘れていない。それも謝る。2度としない、絶対に」
元天帝は頷きながら、息も絶え絶えで魔王様を見つめている。魔王様は元天帝を見ようともせず、何かを考えているようだった。
「どうしたら許してくれる?無かったことにしたらいい?時間を戻して、もう一度やり直せば許してくれる?」
元天帝の悲痛な表情と、この言葉から狂気が垣間見え、魔王様は目を張った。元天帝がここを探し当てたと言うことは、力が衰えたわけではないのだろう。
とすれば、この元天帝はまだ十分に力があり、狂っているのは言わずもがな。本当にそんなことができるとは思えないが、彼ならやりかねないと魔王様は思った。
実際には、そう見せる事で魔王様の気を引こうとして、元天帝は成功した。
「待ってください、どうしてそうなるのですか?止めてください」
魔王様は自分もしゃがみ込み、紅玉と黄玉が重なった。
「レイリンが、私を見てくれないから」
遂に一筋の雫が流れ落ちた。
その言葉に魔王様の表情がやっと動き、その面持ちは悲しみに満ちていた。
元天帝との関係について、魔王様は様々な想いがあったが、結局は魔王様も彼には弱く、元天帝と目を合わせてしまえば、今まで考えていたもの全てを放り捨てて、共にいることを選択してしまう。
「私は、また……ランシュエのそばにいて良いのですか?」
その言葉に、やっと魔王様の心の扉が開きかけていると、元天帝は心が逸るのを抑えながら、丁寧に言葉を出した。
「訊く必要がどこにあるの?私はレイリンのことを愛しいる。レイリン以外は何もいらないよ」
天帝の地位も、彼に比べたらどうでも良かった。
何を犠牲にしても、彼だけが欲しかった。
どんなに酷くされても、彼のそばにいたかった。
ただ、魔王様を愛したい一心だった。
元天帝は両腕を伸ばして、魔王様を胸に抱き込んだ。魔王様もまた、元天帝を許して良いのか分からず、またこのまま愛し続けることが怖かったのだと、その時初めて元天帝は感じた。
2人は何をするでもなく、ただただ強く抱き合うだけで時間が過ぎていった。
10分近くそのままの状態で抱き合っていたため、膝が痛くなってしまい、魔王様は声を上げた。
「ランシュエ、何故また私があなたを慰めなければならないのですか?」
ばっと元天帝を引き剥がし、立ち上がる。元天帝も魔王様に倣って立ち上がった。
「それは、今回も私の心をレイリンが抉ったからだよ」
「死にそうだった」と、元天帝はやっと少しの余裕が出来て、軽く微笑むことが出来た。
「多少のやり返しは必要です。が、流石に私も言い過ぎました。反省しています」
決まりが悪そうに、魔王様は顔を逸らした。
まだ話さなければならないことが幾つもあったが、魔王様は外で控えているであろうリタの為にも、これ以上ここに長居はしない方が良いと思った。
大きなため息をついて、魔王様は結界を解き、外に出た。
「リタ、済みましたよ」
リタは小屋の壁にもたれ掛かるようにして立っていたが、ドアが開いた瞬間に背筋が伸びた。
「陛下」
蚊の鳴くような声でリタは呼び、魔王様の纏う空気がいつもとあまり変わらないことに安堵した。
「帰りましょう」
魔王様は優しくリタに微笑むと、リタの無表情も柔らかくなり珍しく声が弾んだ。
「はい」
前を歩き出す魔王様に次いで、元天帝も小屋から出てきた。彼も特に変わった様子がなく、リタは丸く収まったのだと思った。
「待って、魔王城になら直ぐに帰れるよ」
魔王様は振り返り、確かに彼はいつも突然現れる事を思い出した。
「どうやるのですか?」
「手を貸して」
元天帝は魔王様の手を取り、目線をリタにも向けた。魔王様はこれを見て、リタの手を取った。
「ついてきて」
そのまま3人手を繋いだ状態で、木陰に入ったと思ったら、既にそこは魔王城の広間だった。
「ランシュエ、貴方は本当に天帝を辞めたのですか?」
「天帝って、広間で時間を潰す役職のこと?」
これには魔王様もリタも呆れて何も言えなかった。
「私に対する嫌味ですか?いっそ魔王でも始めたらどうですか?」
私より上手かもしれない、と魔王様は付け加えた。
その後魔王様は、食事をとり、湯浴みをして寝室に入った。まだ2人の間は少しぎこちなく、どうしていいかわからない様子だった。
元天帝は、魔王様の心の整理がまだ出来ていないと分かっており、準備が出来るまでゆっくり待てば良いと思っていた。
元天帝の部屋は無く、普段は魔王様の寝室で寝泊まりをするが、今日は魔王様の隣の部屋を使えと用意された。
元天帝はベッドに寝転がり、天井を見つめ、数時間が経過した頃、ノックの音が響いた。
「ランシュエ、今話せますか?」
この声に鼓動と息が速くなる。魔王様の声にこれほど動揺するとは、元天帝は考えもしなかった。
「もちろん大丈夫だよ。私が部屋に行こう」
一度大きく息を吐いて元天帝は起き上がると、廊下に出た。そこに立っている魔王様は、湯浴みの後で、まだほのかな熱気と湿りを帯びていた。
これは目の毒だと、元天帝の黄玉が揺れた。
そして、その視線に気づかない魔王様ではなかった。
可笑しくなって笑いながら言った。
「先ずは話をしてからですよ」
その言い方は、話の後ならば良いということか、相変わらず煽るのが上手いと元天帝は感服した。それに、魔王様がまた1つ自分を許してくれたように感じて嬉しくなった。
「分かっているよ」
2人で魔王様の寝室に入り、魔王様はベッドに座った。元天帝は自分もそうするべきか躊躇し、ベッドまで数歩のところで立ち止まった。
「ランシュエ、そばにいてくれるのではないのですか?」
魔王様だけが座っているため、上目遣いでじっと元天帝を見つめる。
その姿に更に欲が増してしまうが、頭を左右に振って自制し、魔王様の右隣に腰を下ろした。
何から話そうか、お互い沈黙が続き、魔王様が大きく息を吐いた。
「ことの経緯は、先程リタにも聞きました」
強い口調で魔王様が話し出すと、元天帝の背筋が伸び、責められる覚悟を決めた。どんな罵声を浴びても構わないと思ってはいたが、いざその時になると恐怖を感じる。
「今回のこと、全て許したわけではありません」
自分に、先に説明があっても良かったのではないかと、魔王様は思ったが、何より自分が嘘をつけず顔に出やすい質だ。除け者にされても仕方がないとも思っていた。
「悪かったよ」
元天帝は言い訳できる立場ではないし、謝ることしかできなかった。
「もう謝罪は結構です。私は疲れました」
魔王様は左手で顔を覆って俯いた。魔王様のこんな姿を見るのは心苦しくて、どう対処すべきか分からずに元天帝は眉尻を下げて困惑するしかなかった。
こんなにも拒絶される事を恐れたことはない。息が今にも止まりそうだった。
「たくさんランシュエのことを考えました。惑わされて、騙されて、どうするべきか。でももう、疲れて考えたくもありません」
魔王様の悲痛な声に、元天帝の胸が締め付けられる。左手で魔王様の左肩を抱き、右手はそっと魔王様の膝に乗せた。
本当に何と言えばいいのかが分からず、言葉がかけられなかった。
「なので、何も考えずに言います。こんな事、2度と言わせないでください」
声に含まれる怒気や生気が急に増え、苛立ちが感じ取れる。元天帝にとってはまだ怒りをぶつけられる方が良いと、覚悟した。
魔王様は顔を上げると、両手で元天帝の胸ぐらを掴んで、鋭い赤い目で元天帝を睨んだ。
これは殴られると元天帝は身構えた。
だが拳は飛んで来ず、魔王様は俯いて、額を元天帝の胸元へと付けた。
「私はランシュエを愛しているんです!誰にも渡したくないんです。今後、1秒であろうと、一瞬であろうとも、例え演技でも、2度と他の誰かのモノになる事は許しません!」
言葉の勢いは強く、責めるような告白に、元天帝は先ほどまでとは異なる胸の高鳴りを感じた。強く真っ直ぐな、迷いのない言葉に一気に高揚し、魔王様への愛をどう表現したら全て伝えられるのか分からなくなった。
「分かっている、私はレイリンのモノだよ」
元天帝は、魔王様の背中に両腕を回してキツく抱いた。魔王様の両手も、胸元から背中へと回った。お互いの存在をしっかりと確認するかのようだった。
「貴方が愛して、そばにいたいのは私でしょう?」
「そうだよ。私が愛しているのはレイリンだけだ」
「だったら、もうこんな寂しい思いはさせないでください。お願いします……」
嗚咽混じりの消え入り方な声を魔王様が吐けば、元天帝の胸が痛んだ。こんな「お願い」はさせるべきでは無い。
「誓うよ。2度と寂しい思いはさせない。この腕も離さないよ」
グッと腕に力をこめて、魔王様を安心させるように首元に唇を寄せ、キスの跡を残した。
「レイリン、私がそばにいるのは嫌?」
掠れたような声で元天帝は言葉を発し、手を魔王様へと伸ばす。
その手を無視して、淡々と魔王様は答えた。
「そうは言っていません。貴方に訊いただけです」
「何故そんなことを訊くの?突き放したいのであれば、私の事が嫌いで、二度と顔も見たくないと、そう言えばいいだろ?」
この言葉に魔王様の眉間に皺が寄る。魔王様は嘘をつけない。例え、勢いで言葉を出してしまったとしても、それは間違っても嘘ではない。
冷たい言葉をかけられ、死にそうな気分だったが、それでも魔王様が無理矢理に突き放そうとしない以上、ここに居ることを許されている。そう思う事で自分を保つしか元天帝に術はなかった。
「言えないの?それなのに、本当に私がレイリンのそばから離れたいと思っていると?」
元天帝は息を整えて、気が触れないように努める。
「先に、私のモノであるという約束を破ったのは誰か、忘れたのですか?」
「忘れていない。それも謝る。2度としない、絶対に」
元天帝は頷きながら、息も絶え絶えで魔王様を見つめている。魔王様は元天帝を見ようともせず、何かを考えているようだった。
「どうしたら許してくれる?無かったことにしたらいい?時間を戻して、もう一度やり直せば許してくれる?」
元天帝の悲痛な表情と、この言葉から狂気が垣間見え、魔王様は目を張った。元天帝がここを探し当てたと言うことは、力が衰えたわけではないのだろう。
とすれば、この元天帝はまだ十分に力があり、狂っているのは言わずもがな。本当にそんなことができるとは思えないが、彼ならやりかねないと魔王様は思った。
実際には、そう見せる事で魔王様の気を引こうとして、元天帝は成功した。
「待ってください、どうしてそうなるのですか?止めてください」
魔王様は自分もしゃがみ込み、紅玉と黄玉が重なった。
「レイリンが、私を見てくれないから」
遂に一筋の雫が流れ落ちた。
その言葉に魔王様の表情がやっと動き、その面持ちは悲しみに満ちていた。
元天帝との関係について、魔王様は様々な想いがあったが、結局は魔王様も彼には弱く、元天帝と目を合わせてしまえば、今まで考えていたもの全てを放り捨てて、共にいることを選択してしまう。
「私は、また……ランシュエのそばにいて良いのですか?」
その言葉に、やっと魔王様の心の扉が開きかけていると、元天帝は心が逸るのを抑えながら、丁寧に言葉を出した。
「訊く必要がどこにあるの?私はレイリンのことを愛しいる。レイリン以外は何もいらないよ」
天帝の地位も、彼に比べたらどうでも良かった。
何を犠牲にしても、彼だけが欲しかった。
どんなに酷くされても、彼のそばにいたかった。
ただ、魔王様を愛したい一心だった。
元天帝は両腕を伸ばして、魔王様を胸に抱き込んだ。魔王様もまた、元天帝を許して良いのか分からず、またこのまま愛し続けることが怖かったのだと、その時初めて元天帝は感じた。
2人は何をするでもなく、ただただ強く抱き合うだけで時間が過ぎていった。
10分近くそのままの状態で抱き合っていたため、膝が痛くなってしまい、魔王様は声を上げた。
「ランシュエ、何故また私があなたを慰めなければならないのですか?」
ばっと元天帝を引き剥がし、立ち上がる。元天帝も魔王様に倣って立ち上がった。
「それは、今回も私の心をレイリンが抉ったからだよ」
「死にそうだった」と、元天帝はやっと少しの余裕が出来て、軽く微笑むことが出来た。
「多少のやり返しは必要です。が、流石に私も言い過ぎました。反省しています」
決まりが悪そうに、魔王様は顔を逸らした。
まだ話さなければならないことが幾つもあったが、魔王様は外で控えているであろうリタの為にも、これ以上ここに長居はしない方が良いと思った。
大きなため息をついて、魔王様は結界を解き、外に出た。
「リタ、済みましたよ」
リタは小屋の壁にもたれ掛かるようにして立っていたが、ドアが開いた瞬間に背筋が伸びた。
「陛下」
蚊の鳴くような声でリタは呼び、魔王様の纏う空気がいつもとあまり変わらないことに安堵した。
「帰りましょう」
魔王様は優しくリタに微笑むと、リタの無表情も柔らかくなり珍しく声が弾んだ。
「はい」
前を歩き出す魔王様に次いで、元天帝も小屋から出てきた。彼も特に変わった様子がなく、リタは丸く収まったのだと思った。
「待って、魔王城になら直ぐに帰れるよ」
魔王様は振り返り、確かに彼はいつも突然現れる事を思い出した。
「どうやるのですか?」
「手を貸して」
元天帝は魔王様の手を取り、目線をリタにも向けた。魔王様はこれを見て、リタの手を取った。
「ついてきて」
そのまま3人手を繋いだ状態で、木陰に入ったと思ったら、既にそこは魔王城の広間だった。
「ランシュエ、貴方は本当に天帝を辞めたのですか?」
「天帝って、広間で時間を潰す役職のこと?」
これには魔王様もリタも呆れて何も言えなかった。
「私に対する嫌味ですか?いっそ魔王でも始めたらどうですか?」
私より上手かもしれない、と魔王様は付け加えた。
その後魔王様は、食事をとり、湯浴みをして寝室に入った。まだ2人の間は少しぎこちなく、どうしていいかわからない様子だった。
元天帝は、魔王様の心の整理がまだ出来ていないと分かっており、準備が出来るまでゆっくり待てば良いと思っていた。
元天帝の部屋は無く、普段は魔王様の寝室で寝泊まりをするが、今日は魔王様の隣の部屋を使えと用意された。
元天帝はベッドに寝転がり、天井を見つめ、数時間が経過した頃、ノックの音が響いた。
「ランシュエ、今話せますか?」
この声に鼓動と息が速くなる。魔王様の声にこれほど動揺するとは、元天帝は考えもしなかった。
「もちろん大丈夫だよ。私が部屋に行こう」
一度大きく息を吐いて元天帝は起き上がると、廊下に出た。そこに立っている魔王様は、湯浴みの後で、まだほのかな熱気と湿りを帯びていた。
これは目の毒だと、元天帝の黄玉が揺れた。
そして、その視線に気づかない魔王様ではなかった。
可笑しくなって笑いながら言った。
「先ずは話をしてからですよ」
その言い方は、話の後ならば良いということか、相変わらず煽るのが上手いと元天帝は感服した。それに、魔王様がまた1つ自分を許してくれたように感じて嬉しくなった。
「分かっているよ」
2人で魔王様の寝室に入り、魔王様はベッドに座った。元天帝は自分もそうするべきか躊躇し、ベッドまで数歩のところで立ち止まった。
「ランシュエ、そばにいてくれるのではないのですか?」
魔王様だけが座っているため、上目遣いでじっと元天帝を見つめる。
その姿に更に欲が増してしまうが、頭を左右に振って自制し、魔王様の右隣に腰を下ろした。
何から話そうか、お互い沈黙が続き、魔王様が大きく息を吐いた。
「ことの経緯は、先程リタにも聞きました」
強い口調で魔王様が話し出すと、元天帝の背筋が伸び、責められる覚悟を決めた。どんな罵声を浴びても構わないと思ってはいたが、いざその時になると恐怖を感じる。
「今回のこと、全て許したわけではありません」
自分に、先に説明があっても良かったのではないかと、魔王様は思ったが、何より自分が嘘をつけず顔に出やすい質だ。除け者にされても仕方がないとも思っていた。
「悪かったよ」
元天帝は言い訳できる立場ではないし、謝ることしかできなかった。
「もう謝罪は結構です。私は疲れました」
魔王様は左手で顔を覆って俯いた。魔王様のこんな姿を見るのは心苦しくて、どう対処すべきか分からずに元天帝は眉尻を下げて困惑するしかなかった。
こんなにも拒絶される事を恐れたことはない。息が今にも止まりそうだった。
「たくさんランシュエのことを考えました。惑わされて、騙されて、どうするべきか。でももう、疲れて考えたくもありません」
魔王様の悲痛な声に、元天帝の胸が締め付けられる。左手で魔王様の左肩を抱き、右手はそっと魔王様の膝に乗せた。
本当に何と言えばいいのかが分からず、言葉がかけられなかった。
「なので、何も考えずに言います。こんな事、2度と言わせないでください」
声に含まれる怒気や生気が急に増え、苛立ちが感じ取れる。元天帝にとってはまだ怒りをぶつけられる方が良いと、覚悟した。
魔王様は顔を上げると、両手で元天帝の胸ぐらを掴んで、鋭い赤い目で元天帝を睨んだ。
これは殴られると元天帝は身構えた。
だが拳は飛んで来ず、魔王様は俯いて、額を元天帝の胸元へと付けた。
「私はランシュエを愛しているんです!誰にも渡したくないんです。今後、1秒であろうと、一瞬であろうとも、例え演技でも、2度と他の誰かのモノになる事は許しません!」
言葉の勢いは強く、責めるような告白に、元天帝は先ほどまでとは異なる胸の高鳴りを感じた。強く真っ直ぐな、迷いのない言葉に一気に高揚し、魔王様への愛をどう表現したら全て伝えられるのか分からなくなった。
「分かっている、私はレイリンのモノだよ」
元天帝は、魔王様の背中に両腕を回してキツく抱いた。魔王様の両手も、胸元から背中へと回った。お互いの存在をしっかりと確認するかのようだった。
「貴方が愛して、そばにいたいのは私でしょう?」
「そうだよ。私が愛しているのはレイリンだけだ」
「だったら、もうこんな寂しい思いはさせないでください。お願いします……」
嗚咽混じりの消え入り方な声を魔王様が吐けば、元天帝の胸が痛んだ。こんな「お願い」はさせるべきでは無い。
「誓うよ。2度と寂しい思いはさせない。この腕も離さないよ」
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