魔王様と禁断の恋

妄想計のひと

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2章

26

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部屋の中は、暖炉と蝋燭の光で思いの外明るかった。

暖炉の近くには机と椅子が一脚置いてあり、そこに魔王様は静かに掛けて呆けていた。机の上には紙とペンがあり、何かを書いていたようだった。

ゆっくりと、今その存在に気づいたかのように元天帝へと顔を向けた。

「来ましたか」

特に驚く様子もなく、その紅玉は元天帝を見つめた。
元天帝はその目から感情が読み取ることが出来なかった。
怒っているのか、悲しんでいるのか、呆れているのか、自分のことなど見えていない様子で怖くなった。

「レイリン、全て説明させてほしい」

元天帝は眉を寄せて嘆願する。
だが、魔王様は取り付く島も無く無情にも元天帝を拒絶した。

「今はまだ1人にさせてください」

元天帝から目線を離し、正面を向いて目を閉じた。

「できない。まずは話を聞いてほしい」

誤解もあるはずだと、魔王様に歩み寄る。

「今回のことは確かに私が仕組んだこともあるが、こんな酷い脚本になるとは思っていなかったし、何よりレイリンを傷つける気はなかった」

元天帝の表情、声からは焦りが読み取れる。

とにかく話をして、謝ることは謝って、早く魔王様を抱きしめて、いつもの魔王様に戻ってほしかった。

「最初にリタから、レイリンが元気ないことを相談された。最近は忙しくて一緒に居られる時間が限られていた。だから、いっそのこと天帝なんて辞めてしまえばいいと思った」

リタの名前が出ると、魔王様の瞼がピクリと動いた。
この名前に反応するのは悔しいが、聞く耳を持たないよりかは幾分か良かった。

そのまま元天帝は説明を続け、魔王様は反応することも止めることもしなかった。

当初の予定では魔王様を巻き込むつもりはなく、天界だけで処理をしようとした。
だから魔王様には首を出さないように言っていた。

だが、そもそも自分の座を奪おうとしている神官もおり、その神官が人間界に発破をかけて反天界軍を結成させた。

そこで反天界軍と、魔王様と、天界の三つ巴が出来てしまった。

反天界軍は魔王様に頼んで天界に乗り込もうと、魔王城に話を持ちかける為に訪れたが、そこに居たのはリタだけだった。

そこでリタは巻き込まれることは必然だと感じ、彼らを利用するパターンも考え、反天界軍のリーダーであるサイの話を元天帝にした。

リタは自分の力の話をすると、反天界軍のリーダーは、前に魔王様を切った時の剣を持ち込んだ。

だが、反天界軍のリーダーが想像以上に元天帝への狂気を見せてしまい、惚れ薬を飲ませるという凶行に至った。
そしてそれを飲んで操られフリを元天帝は続けた。

だが、これらが全て上手く行き、天帝の座を降り、記憶をなくすこともなく天界から追放された。

魔王様を傷つけることになったのは当然、本望ではなかった。

「それに……本当に、レイリンに剣を向けるのは怖かった」

元天帝の悲痛な声が掠れ出た。

演技とはいえ、また自分が魔王様に傷をつけてしまうかもしれない。いや、気づいていてまた魔王様が自ら切られるのではないかと恐怖した。

魔王様は、元天帝があのような薬で操られるような存在ではないと分かっていた。とすれば最悪な予想は、これを仕組んだのは全て元天帝であり、彼が自ら望んで魔王様の元から離れたと言うことだ。

魔王様にとって結果や目的がどうであれ、この過程は事実だ。そして、あの剣戟で予想は確信になった。あの時と同じ戦法、殺気、場所だった。

一通り話した時にリタが到着した。
リタは魔王様の様子を見ると、部屋の中まで入れなかった。

「陛下、申し訳ありませんでした」

魔王様はリタには弱いが、この時ばかりは静かに首を横に振った。

「今は、1人にしてください」

この言葉に2人共戸惑ってしまう。

時間が解決するのか?こんな生気のない魔王様を放っておけるのか?どうしたら良いのか?

魔王様は滅多なことでは本気になって怒らないが、感情は直ぐに面に出る。だからこそ、この何を考えているか分からない魔王様が怖かった。

「レイリン、本当にすまなかった。もう2度とこんなことはしない。だから、今はここに居させてほしい」

この言葉に、やっと魔王様は言葉を返した。

「その約束は、1回目の時にして欲しかったです」

ゆっくりと目を開けて、一瞬だけ元天帝へ目線をやった。元天帝は返す言葉もなく、目を逸らしたくなった。

「私は貴方達が思っている程、優しくはありません。今ここに居たら酷い言葉をかけてしまいそうです。もう少し、感情を整理する時間が欲しいのです」

努めて優しく、魔王様は2人に向かって言った。リタはそう言われてしまったら、僕である以上、ここには居られない。

だが、それでも元天帝は引き下がらなかった。

今、魔王様から離れてしまったら、またどこかへ行ってしまう気がした。

また数歩を歩を進め、魔王様とはあと2歩の距離まで近づいた。

「酷い言葉をかけられても良い。レイリンが我慢する必要はない。お願いだから、私をそばにいさせて」

本当は時間を置いた方が良いのかもしれない、だがこの数日間は元天帝にとっても苦痛の3日間だった。一刻も早く魔王様に触れたかった。

「私を罵倒しても、嫌いになっても構わない。そばにいさせてほしい。もう一度好きになってもらえるように努力もする」

元天帝は片膝を床につけて、しゃがみ込んでしまった。

こんなに弱々しい元天帝を見るのはリタも初めてで、これにも反応に困ってしまった。

だが、次の言葉にリタも元天帝も息を呑んでしまった。

「ところで、貴方は何故ここに居るのですか?あのサイという人間のところに戻らないのですか?」

これは確かに酷い言葉だった。魔王様のそばにいたくて、今回のような回りくどい芝居を打ったのに、その結果がこれとは、何も上手くなどいってはいなかった。

元天帝の表情は先ほどまでの悲痛なものとは違い、完全に色を失っていた。
心臓の脈動がはっきりと分かる。それほどまでに強く脈打ち、痛みすら感じる。

「誰が巻き込んだにせよ、あの人間の気持ちはどうなるのですか?」

これにも2人は何も返せなかった。弄んだといえばそうだ。恋心を利用した事は紛れもない事実だった。

だが、これでは流石に元天帝が報われないと、リタは声を出した。

「ですが、彼は惚れ薬で他人の気持ちを変えようとするような人間です」

「そのような人間ならば、弄んでも良いのですか?」

魔王様はリタをじっと見つめた。
魔王様の言うことも、リタの言うことも、どちらも間違ってはいなかった。

「リタ、彼と2人で話をします。扉を閉めて外で待っていてください」

リタは、辛そうな面持ちで一礼すると、扉を閉めて外で待機した。

魔王様が手を振るうと、この部屋に防音の結界が張られた。
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